モデルを活用した顧客分析とKPI分析
続いて、両氏はモデルを活用した顧客分析とKPI分析について説明する。
マーケティング分野におけるKPI策定の一般的なアプローチとしては、集計やグラフによる分析やワークショップなどの議論ベースでKPIツリーを作成し、その後、ダッシュボードで観測する流れが多い。だが、KGIとKPIの関係性が定量化されていないとさまざまな課題が発生する可能性がある。
たとえば、KPIの複雑化だ。どのKPIがKGIに影響しているか関係性が見づらく、結果、どのKPIを優先的に改善すべきかの判断が困難になる。また、経験則に基づきKPIとKGIを設定すると、KPIの向上がKGIに確実に寄与するのか確信が持てない。関係性が定量化されていない場合、KPIをダッシュボードで追跡しても、KGI向上に本当に必要か不明なため、ダッシュボードが形骸化する。
これらの課題に対応するため、有効なのがモデルを活用した定量的なKPI選定のアプローチだ。インキュデータでは、次のステップで実施しているという。
ステップ1
KPIの洗い出し
担当者の知見や経験をもとにした、KGIへ寄与する要因の洗い出し
ステップ2
基礎分析
KPI候補の基礎分析を通じて、回帰分析モデルに加えることが妥当かの可否を分析
ステップ3
重要KPIの定量化と選定
回帰分析モデルを用いてKGIへの寄与度合いを定量化、各種施策へ連携
そして、上記モデルを構築するためには、適切に紐付けできるデータの準備が前提条件となる。矢野氏は企業がよく直面する課題として次の二つを挙げた。
1点目は必要なデータが入手困難であること。これは実際にデータベース内にデータが蓄積されていないケースや、他部署との連携・協力を得てデータを入手する必要があるケースなど、さまざまな状況が考えられる。
2点目は構築後のメンテナンス問題。構築後もビジネス環境は日々変化するため、データも随時更新していく必要がある。しかし、実際にはコストや人員の確保が必要となり、取り組むべき課題となっている。

これらの課題に対応することが、第一歩と言えるだろう。では、そもそも目的変数(KGI)の設定はどのように行えばよいのだろうか?一般的なアプローチとして次の三つの方法が挙げられる。
- 既存の顧客分析フレームワーク(RFM分析やセグメンテーション分析など)を活用し、ディスカッションを通じて定義を決定する方法
- 企業内で既に確立されている優良顧客の定義(例:月間購入金額が一定以上、特定の性別・年齢層など)を活用する方法
- 外部の第三者機関によるインタビュー調査を通じて優良顧客の特性を洗い出す方法
データ分析結果をアクションへ
KPIが選定できたら、重要なKPIを引き上げるために、誰でも簡単に意思決定ができ、アクションへつなげる分析の実施と、それを定常的にモニターできるダッシュボードの構築が重要だ。インキュデータでは次のステップを取っている。
ステップ1
モデルを活用した、KPIの重要度の分析と特定
ステップ2
特定された重要なKPIを引き上げるための具体的アクションポイントの設定
ステップ3
アクションポイントをダッシュボード化し、日々の進捗を追跡する仕組みを構築

ステップ2では専門的モデルではなく、誰でも一目で理解できるようなグラフや集計を用いた分析が有効だ。そして、アクションとダッシュボードの内容を連動させることで、組織全体の目線を集中させることができる。
さらにマーケティング分野では、ブランド力、顧客の購買力、購買意向など数値化しにくい要素=抽象度の高い要因がKGIに影響を与えているケースが多い。このような場合、共分散構造モデルが有効だ。
共分散構造分析では、観測変数(定量化可能なデータ)から潜在変数(ブランド力などの数値化困難な概念)を構成し、それらがKGIにどのように影響しているかをパス係数によって定量的に評価する。これにより、たとえば「顧客の購買力」が「優良顧客」に対して強い影響を与えているといった洞察を得ることができる。
