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【日立・カゴメ実践録】マーケと広報、機能分けは陳腐化!? ブランド価値を最大化する組織のカタチを探る

 企業・部門間の壁を越え、顧客や社会とともに価値を創る「価値共創」が企業の成長の鍵を握るようになっています。本稿では、ビルコム取締役 早川くらら氏、日立製作所のIT事業部門でブランド・コミュニケーション本部長を務め、現在は独立し日本広報学会監事も務める大橋行彦氏、カゴメでマーケティング本部長などを歴任、MCEI専務理事兼事務局長を務める宮地雅典氏が鼎談。コーポレートブランドの重要性から、予算設計、広報・マーケティングの役割の再定義まで、両部門の壁を乗り越え、企業価値を最大化するための実践論を深掘りします。

マーケティングや広報の「価値共創」、三つの段階と視点

早川:広報やマーケティングを数十年に渡り経験されてきたお二方にとって、「価値共創」は、時代とともに変化してきているキーワードであると思います。まずはそれぞれの「価値共創」についてのお考えをお伺いできればと思います。

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ビルコム株式会社 取締役 早川くらら氏
2005年、ビルコム株式会社に入社。クライアントのコミュニケーションプランニングや新規事業の立ち上げ、コンサルタント、人事、営業、など幅広い業務を経験。2015年から同社取締役に就任し、経営に携わっている

宮地:マーケティングや広報の「価値共創」には、三つの段階と視点があるように思います。まず一つ目として、高度成長期が終わってモノが売れなくなった段階で「モノ」から「コト」、さらに「意味」や「意義」へと消費が変化しました。

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MCEI 専務理事兼事務局長・日本マーケティング協会マイスター 宮地雅典氏
カゴメ株式会社で営業、マーケティング、営業企画を担当後、マーケティング本部長、広告部長、広報部長などを歴任。2025年3月に同社を定年退職し、現在はパソナグループで「農業・食・地域創生など」についてのマーケティングを担当。社外では「MCEI(マーケティング社団法人)の理事・事務局長や大学の非常勤講師、企業の非常勤取締役、輸出商品の商品開発にも携わる

宮地:「モノ」は一社で作れても、社会課題の解決は一社だけでは限界があります。特徴的な例として、2005年の夏に開始された「クールビズ(COOLBIZ)」があります。室温28度で快適に過ごせる軽装やライフスタイルを環境省が提唱し、多くの企業が取り組みました。まさに、これが「価値共創」の原点かと思います。

 二つ目は、需要と供給のバランスが逆転したことで、各企業が関与する市場で価格競争が起きてしまいました。しかし価格競争は企業が疲弊し市場を縮小させてしまうだけで、あまり意味がない活動ではないかと私は考えます。

 そこで、たとえば「野菜」をテーマにしたときに、「農耕→収穫→流通→加工→調理・保存→喫食→教育・啓蒙」という横軸のサプライチェーンで「価値共創」することで、それぞれの企業の機能や価値を高め合い、「野菜」というカテゴリー自体を強くできるという二面的に「共創」できる可能性が大きいと考えます。

 次に縦軸として市場である「農業」を見たときに、農業に関わる人たちが「価値共創」をすると、たとえば農業機械や土壌技術が進歩するなど、全体にとって進化の波が生まれます。この横軸と縦軸の両方で「価値共創」することで、業界全体を強くできます

 三つ目は、ファン顧客と企業間の「価値共創」です。ファンは、大好きなブランドに対して様々な意見を寄せてくれます。ある意味、ファンがブランドの良さを最も知っている人であるとも言えます。

BtoB:「モノ売り」から「課題解決」へ。顧客が主役の時代

大橋:BtoBでの「価値共創」も、三つの段階と視点があります。一つ目は産業の成熟化。ITビジネスではハードウェア→ソフトウェア→サービス→ソリューションという四段階の変化があります。ハードウェアやソフトウェアの時代では「機能的価値」として、性能や使いやすさなど、「モノ」の価値の良し悪しが重視されました。

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ブリッヂ戦略研究所 代表 大橋行彦氏
株式会社日立製作所で経営企画や事業戦略を担当後、広報などの本部長を歴任。2023年3月に同社を退職。その後、ジェトロ(日本貿易振興機構)で広報を担当。現在はブリッヂ戦略研究所を立ち上げ、中小企業向けの経営コンサルティングや認知向上の支援を行う。また、日本広報学会監事も務める

大橋:その後、変化が大きかったのは「サービス」の段階からです。最初にITサービスが出たときは、サービスの良し悪しを簡単に比較できる時代もありました。しかし、今のITサービスはきめ細かくカスタマイズされたり、アップデートされたりします。

 そのようなITサービスは、ソリューションという言い方に変化しました。直訳すると「解決策」です。しかし、当時のソリューションは「解決策」ではなくて、解決できそうなプロダクトやサービスの組み合わせを指していました。徐々に企業側も、購買するだけでは解決できないことがわかってきて、今では顧客主体で取り組むDXが主流になりつつあります。

 このように、これまではベンダーが提供するプロダクトやサービス主体でIT産業は成り立っていましたが、今は顧客が課題解決の主役となってベンダーは支援をする方向へ転換しました。顧客の課題が理解できないとビジネスは成り立ちませんから、今のITビジネスはほとんどが顧客との「共創型」にシフトしていると思います。

 二つ目として、BtoBで広報をしながら考えるのは、顧客と提供者の関係性です。はじめは、モノやサービスを売って終わり、という取引が主流でした。しかし、課題解決型に変わることで、サブスクのように、顧客が利用している間も価値を維持・向上させなければ事業成長につながらなくなりました。つまり、顧客と提供者の関係性はこれまで以上に中長期を見た「価値共創」関係の確立が大事になってきています。

 三つ目は、コンタクトポイントの多様化です。従来であれば、メディアや特定のチャネルを通じて顧客ニーズを把握すれば、問題なくビジネスができていました。しかし、デジタル化が進展し、コンタクトポイントが多様化することで、あらゆるところで評価される時代になったのです。一方通行ではなく、双方向のコミュニケーションチャネルがあるので、広報などの顧客と接する仕事は、より重要になってきていると思います。

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実務レベルの変化「コーポレートブランド」がすべてを左右する

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この記事の著者

落合 真彩(オチアイ マアヤ)

教育系企業を経て、2016年よりフリーランスのライターに。Webメディアから紙書籍まで媒体問わず、マーケティング、広報、テクノロジー、経営者インタビューなど、ビジネス領域を中心に幅広く執筆。

※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です

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MarkeZine(マーケジン)
2025/09/12 08:30 https://markezine.jp/article/detail/49099

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