SNS広告へのコメントもユーザー体験の一部に
米国では、SNS広告が単なる広告として機能するだけでなく、投稿として広く拡散され、ユーザーのコメントによって評価が形成されていくという特徴があります。ポジティブ・ネガティブを問わず、コメント欄での議論が活発に行われる傾向があります。
たとえば、商品の発売告知やイベントのプロモーション投稿には、下記のように、企業が予期しない多様な意見が寄せられることも日常的です。
- 「こんな商品を待っていた!」「どこで買えるの?」といったポジティブな期待
- 「なぜこの価格?」「過去のキャンペーンと違うの?」といった率直な疑問
- 「これは文化的にセンシティブでは?」「地元の業者を軽視している」といった社会的な批判
このようなコメント欄の動きは、ブランドの印象や評価に大きな影響を与える要素であり、単に「広告を出す」だけでなく、「反応を含めて1つのキャンペーン体験」として設計する必要があります。

米国独自のSNS炎上リスク
米国の消費者は多様な文化や人種で構成されたオーディエンスです。今の世の中で発信していく上で気になるリスクは、『Cancel Culture(キャンセルカルチャー)』や、SNSプラットフォームの政治的リスクです。この二つについて解説します。
キャンセルカルチャーとは、著名人や企業、団体、あるいは一般人が不適切・差別的・非倫理的とされる発言や行動をした際に、SNSなどを通じて批判が殺到し、社会的制裁を受ける現象を指します。具体的には、商品ボイコットや契約打ち切り、アカウント凍結、メディア出演の自粛などが挙げられます。
この文化は、SNSの普及によって個人や集団が声を上げやすくなったこと、企業の社会的責任が強く問われるようになったことと密接に関係しています。特に米国では、政治・人種・ジェンダー・宗教・環境といったテーマに関する表現や行動がセンシティブに扱われる傾向が強く、「炎上」が社会運動的な規模に発展することもしばしばあります。

ギャップやバドライトの事例から学ぶ、SNS炎上のリアル
2016年、アパレルブランドのGap(ギャップ)が公開した子ども向け広告に対し、「黒人の子どもを『肘掛け』のように扱っている」との批判がSNS上で噴出しました。広告には、白人の少女が黒人の少女の頭に腕を乗せるポーズが含まれており、構図の不自然さや無意識の優位性を感じさせる点が問題視されたのです。ブランド側は迅速に謝罪と画像の差し替えを行いましたが、広告制作における文化的感度の欠如が炎上を招いた事例といえます。意図しない表現でも、受け手の視点で批判が高まりうることを示した象徴的なケースです(参考記事:Gap Pulls Ad Called 'Racist,' Apologizes to Critics )
また2023年、米国の人気ビールブランド『Bud Light(バドライト)』がトランスジェンダーのインフルエンサー、ディラン・マルバニーを起用し、キャンペーンを行ったところ、保守派の消費者から「日常の娯楽にまで政治を持ち込むな」「価値観を押しつけている」などの反発が起こり、SNS上での大規模なボイコット運動が発生。売り上げが大幅に減少し、経営陣も謝罪に追い込まれました。新しい顧客層を取り込む戦略ではありましたが、既存のブランドイメージとのギャップにより起きた事例といえます(参考記事)。