“アパレル”の枠を越えたワールドの挑戦
MarkeZine編集部(以下、MZ):まず、ワールドについて簡単にご紹介をお願いします。
尻江:ワールドは1959年の創業以来、世の中のチャネルやマーケットの変化に応じて業態変更を重ねてきました。最初は100%卸売業態でスタート。街のブティック様向けに洋服を販売し、自社では在庫を持たない業態でした。次の段階では、百貨店での直営販売を開始し、実店舗を持つ業態へ。2000年代からは、ショッピングセンターの増加に対応した業態開発を進めてきました。
ファッションのイメージが強い当社ですが、現在はブランド事業、デジタル事業、プラットフォーム事業の3つの柱で事業を展開しています。
ブランド事業では、現在71のブランドを展開し、全国に2,195店舗を構えています。デジタル事業では、自社ブランドのECモール「WORLD ONLINE STORE(以下、WOS)」の運営・構築をはじめ、他社ECモールの運営受託や、ファッションサービスに関するソリューションの提供などを行っています。急成長中のユーズドセレクトショップ「RAGTAG(ラグタグ)」もこの領域に含まれます。さらに、プラットフォーム事業では、当社が創業60年で培ってきたノウハウを、業界内外に向けて展開するBtoBビジネスを展開しています。

兼 株式会社ファッション・コ・ラボ WOS事業本部 WOS WEB制作部 部長 尻江 高昭氏
MZ:非常に幅広い事業を展開されていますね。今回はその中でも、特に「WOS」における取り組みについてお伺いできればと思います。御社ではECをどのようなチャネルと位置づけ、どのような戦略で展開されているのでしょうか?
尻江:2025年2月期のEC取扱高は497億円。全体売上の約22%を占めており、ECは非常に重要なチャネルと位置づけています。業界全体としてECモール化が進む中、当社でもECモールとしての規模拡大に注力しています。
具体的には、「WOS」と親和性の高いブランドの招致に取り組むほか、アパレル以外のライフスタイル雑貨や服飾雑貨といった商材の強化にも注力しています。
さらに、実店舗とオンラインの双方をご利用いただくお客様に向けたサービスも拡充中です。たとえば、店舗在庫の取り置きサービスや、店舗への商品取り寄せ機能の充実を図ることで、よりシームレスな購買体験の提供を目指しています。
デジタル戦略の要「メール基盤」の刷新を決意
MZ:EC売上においては、“メルマガ”を活用した顧客コミュニケーションが、かなり重要なタッチポイントになっているそうですね。
尻江:そうですね。オウンドメディアで配信しているメルマガは、売上への貢献度が高く、非常に重要なタッチポイントのひとつです。内容としては、「夏こそサマになる!即戦力トップス」といった季節ごとの特集や、スタッフによるスタイリングコンテンツなどを配信しています。
また、MA(マーケティングオートメーション)を活用し、カートに商品を入れたものの購入に至らなかった場合や、お気に入り登録された商品の価格が下がった際、在庫が少なくなった際など、特定のシナリオに基づいてメルマガを配信しています。
MZ:上記戦略を進める中で、課題と感じることはありましたか。
尻江:EC売上が拡大し、成長を続けることで、取り扱う商品やブランドの数も必然的に増加します。その結果、お客様一人ひとりに提供される情報量が多くなり、かえって選択の負担になってしまうケースが出てきました。
このような状況を解決するためには、パーソナライゼーションが不可欠であり、お客様の行動データを活用することが重要だと考えています。事前にある程度最適化された状態でお客様をお迎えし、適切な商品やサービスを提案できる仕組みの構築が必要だと感じ、2021年にKARTEを導入。Web上のパーソナライズ施策を推進してきました。
また、MA配信は別ツールを用いて行っていたものの、新規シナリオの作成や既存シナリオの修正といった業務を内部で行うことができず、スピード感を持って運用することが難しいという課題もありました。
そこでMA配信を「KARTE Message」に切り替えることで、内製化を図ることにしたのです。
重要なのは“社内メンバーが使いこなせる”こと
MZ:数多くの選択肢があるなか、KARTE Messageを選ばれた理由をお聞かせください。
安達:何より使いやすさです。ツールの選定時には、“社内メンバーが使いやすいこと”を重視していました。たとえば、シナリオの追加・編集はCRM担当者が行うものですが、クリエイティブ制作の担当者も普段使用しているCMSツールと同様の感覚でマーケティング施策を実施できる点が「KARTE Message」の大きな特徴だと感じています。

尻江:内製化することで機動力を高めていきたいというのがツール刷新の一番の目的だったので、その意味でも、「これなら自分たちでできそうだ」と感じられることは非常に重要なポイントでしたね。すでにWebで活用していたため、顧客データをスムーズに使い回せる点もメリットでした。
実際、「KARTE Message」に切り替えてからは、クリエイティブ制作担当者たちも、施策の改善に前向きに取り組むようになりました。従来に比べて操作性が格段に向上したことが、その理由だと思います。以前は、クリエイティブを納品して業務終了というフローでしたが、現在では担当者自身がMAツール内で直接設定を行えるようになりました。この変化は、非常に大きな成果だと感じています。

業種ごとのチーム編成 プレイドの支援体制の強み
MZ:刷新にあたっては乗り越えるべきハードルもあったかと思います。どのようにプロジェクトを進行されたのでしょうか?
尻江:プロジェクトの進め方としては、安達が所属するシステム部門がプロジェクト全体を統括し、私が所属するデジタルリテール推進室は、要件定義や実際の移行作業といった実務を担当して進めました。
安達:おっしゃる通り、大変な面も多かったですが、振り返ってみると、部門間の密な連携がプロジェクト成功の大きな要因になったと思います。このプロジェクトを機に、コミュニケーションがよりスムーズになったと感じています。
尻江:また、PLAID ALPHAの支援体制にも大変助けられました。常に高いスキルを持ったエンジニアの方を複数名、固定でアサインいただき、プロジェクトが終了するまで、一貫して伴走していただいたことが成功の大きな要因だと思います。
また、プレイドの支援体制の特徴として、業種ごとにチームを編成されている点があります。そのため、アパレル業界の商習慣や戦略・データ活用についても深い知見と理解をお持ちで、それによってコミュニケーションが非常に円滑になりました。
安達:前ツールでの配信に定義書が存在せずブラックボックスとなっているなか、成果を維持しながら施策を置き換えていく難しいプロジェクトでしたが、最後まで根気よく対応をしていただいたことには、心から感謝しています。このような責任感のある姿勢こそが、長期的なパートナーシップにおいて最も重要な要素だと実感しています。
2割の効果改善も──KARTEで実現したパーソナライズと内製体制
MZ:KARTEシリーズを使った具体的なお取り組みをお聞かせください。
尻江:Web上のパーソナライズ施策の実施については、WOS全体はもちろん、各出展事業会社・ブランドの担当者に使用方法を説明したうえで積極的に活用できる環境を構築しています。現在、複数のブランドで導入が進んでおり、ポップアップや埋め込み機能といったWeb接客機能を活用している状況です。施策のテンプレートについては、我々デジタルリテール推進室で作成・提供しており、定期的なアップデートを行いながら運用しています。
さらに、メールやLINE、アプリでのMA配信機能も追加し、様々な顧客接点を1つのツールでカバーできるようになりました。

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安達:KARTEで解析した行動データをMA配信メールの中にレコメンド機能として埋め込んだシナリオにおいて、移行前と比較して2割程度の効果向上を確認しています。今回、お客様の行動履歴や購買データに基づくパーソナライズされたレコメンドに変更したことが、成果向上につながっているのではないかと考えています。この基盤を活用することで、さらなる成果の創出を目指します。
そして何より今回のプロジェクトの最大の成果は、施策の立案から実装、運用・改善に至るまで一貫して対応できる体制がようやく構築できたことです。これまで整備されていなかった基盤が、今回の取り組みによって確立されました。
データ活用で顧客体験価値向上を目指す
MZ:最後に、これからKARTEを使ってやりたいこと、および今後ワールドとして目指しているところ、そのために取り組まれていくことなど、展望をお聞かせください。
尻江:KARTEの活用に関しては、これまで蓄積してきた会員データや行動データ、購買データに加えて、今後は位置情報や天候、気温といったデータを活用していきたいです。より一人ひとりの方に合った情報を届けることができるでしょう。プレイドが既にお持ちの各種APIと連携することで実現可能と考えています。このような外部データとの連携により、新しい顧客接点の創出を目指していきます。
データを活用して新たな顧客接点を創出し、その接点において適切なコミュニケーションを継続的に行うことができれば、最終的にはオンラインとオフラインの垣根が取り払われ、顧客体験価値の向上につながると考えています。お客様とワールドが長期にわたって接点を維持し、継続的にサービスをご利用いただける関係性を構築していくことを目指します。
安達:EC周りでも様々な取り組みを行っていますが、それらが本当に最適で適正な打ち手となっているかという点では、まだまだロスが多いと感じております。AI技術の導入においても同様で、より最適で顧客に響くアプローチは必ず存在するでしょう。現在のロスを削減し、精度を高めていくことで、効果を出していきたいと思います。
チャネルを横断したメッセージ配信を シンプルに、効果的に
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