大きな共感を呼んだ「おつかれ生です」
米田:マルエフのお仕事でご一緒させていただいて以来、私は郡司さんの大ファンでして、インサイト活用の話をするなら是非郡司さんに、とオファーさせていただきました。郡司さんには、インサイトに強い若手の方もご紹介していただきたいとお願いしたところ、福島さんとも今回ご一緒することになりました。お会いできて光栄です。今日はインサイト談義に花を咲かせられればと思っていますのでよろしくお願いいたします。
では、まずは郡司さん、インサイト活用の成功事例について教えていただけますか?

郡司:ではまず、米田さんともご一緒させていただいているアサヒビールの「マルエフ」についてお話ししますね。
マルエフは、アサヒビールがスーパードライに力を入れる中、「マルエフを置いてくれ」と指名してくださる飲食店さんとそのお店に通われるお客様に支えられ愛され続けてきた「知る人ぞ知る幻のビール」であり、マルエフが飲めるお店では古き良き温もりのある空間で人と人が繋がっている。当初オリエンを受けた時にこのようなお話を聞き、ブランドパーパスは「日本に、ぬくもりを。」だとうかがいました。
そんなマルエフのクリエィティブを担当させていただくにあたり、多くのビールが「うまい!」「美味しい!」と主張する中、それとは一線を画すキャンペーンをやろうと。
マルエフ発売時はちょうどコロナ禍で、多くの人がいらだったり、憎しみあったり、SNSで異なる意見を持つ人を嘲笑したりする、といった負の感情がどんどん世の中を侵食していく空気を感じていました。そんな状況下で敏感になっているみんなの心を和らげる、あえて肩の力が抜けたキャッチフレーズを書きたいと思ったのです。
「日本のみなさん、おつかれ生です。」というコピーを新垣結衣さんがカメラに向かって発してくれた時、それはまるで今の時代へのラブレターのように感じられ、おかげ様であっという間に世の中にも広がって、「おつかれ生」で乾杯する人たちが増えてきた。
マルエフという商品が持つ特徴と、発売時の世の中の流れや人の気持ちをうまく繋げることができた成功例だと思っています。

電通第1CRプランニング局 クリエイティブディレクター、コピーライター。主なコピーに、アサヒ生ビール「日本のみなさん、おつかれ生です。」(2021年12月前期のCM好感度調査では首位)、ローソン「ローソンで ハピろー!」、セールスフォース・ジャパン「意味なく群れるよりも、意志のある孤立を。」など。クリエイティブディレクターとして戦略企画からCMコンテ、キャッチコピーまで一貫して1人で担当したり、メッセージ性のある CM や商品ブランディングを重視したりするなど、独自の仕事スタイルを貫いている
郡司:もう一つは、日経電子版の新CMで作った「ここから動く人は、強い。」というコピーです。当時の広告はハードセル的な訴求が中心でしたが、購読者数が伸び悩んでいました。そこで視点をマーケットインに切り替え、コロナ収束期の「新しいことに挑戦したいけれど不安」というインサイトを基に、背中を押すコピーを提案しました。

米田:郡司さんは、「クライアントからこう言われたからその通りに作る」という姿勢ではなく、常にその背後にある意図を丁寧に確認されますよね。
郡司:みなさん、やりたいことをオリエンしてくださるのですが、その時私が必ず確認するのは「なぜそれで人の心が動くと思うのか」という仮説です。だからそれを導き出すために、ディスカッションをさせてもらっています。
きれいごとは響かない。Xで発見したインサイトを企画に
米田:続いて福島さんにもお話をうかがいたいです。よろしくお願いします。福島さんのインサイト活用例をお聞かせいただけますか?
福島:パーソルさんの「#これ誰にお礼言ったらいいですか」というキャンペーンについてお話しさせていただきます!
このキャンペーンのオリエンでは、勤労感謝の日に「はたらくWell-being」を推進するという目的が示されました。しかし、「みんなで働くことに感謝しよう」といったきれいごとでは、誰にも響きません。

2022年電通入社。第1CRプランニング局のコピーライター、プランナー時代に、パーソル「#これ誰にお礼言ったらいいですか」、4℃「匿名宝飾店」、富士フイルム「写真幸福論」、味の素冷凍食品「超ギョーザステーション」、ミツカン「味ぽん」などに関わる。大学時代は、コロナ禍で開催された「早稲田祭2020」の実行委員長を務める
福島:そんな時、「この仕事した人、誰かわからないけど感謝したい…!」という投稿をX上でいくつも見つけました。「あの時、500円玉を必死に拾ってくれた店員さんありがとう」や「タクシーの手すりをあの形に設計した人天才すぎる」など、誰かの仕事に対する感謝を伝えたいというインサイトは既にSNSにあることに気づいたんです。
米田:具体的な取り組みについて教えていただけますか?
福島:勤労感謝の日に新聞の全面広告でハッシュタグ「#これ誰にお礼言ったらいいですか」を告知し、SNS投稿を集めました。その中から実際に、私たちがその仕事をした本人を探し出し、お礼を届けに行くという取り組みを行いました。
たとえば、「京王線のある車掌さんのアナウンスに、通勤の合間に癒されています」という投稿に対しては、投稿者にDMで詳しい情報を聞き、まるで探偵のように調査しました。
米田:アトラクションMCみたいなアナウンスされる車掌さんですよね、私も知ってます!
福島:実際にその車掌さんを探し出して、ご本人に感謝のメッセージを手渡すことができました。
