「ボールド」で経験したコネクティング・ザ・ドッツ

米田:ボールドには、他の洗濯洗剤にはない「柔軟剤が入っている」という特徴があります。ただ発売当初は、売り上げが伸び悩んでいて、改めて明確なターゲット設定をしようということになりました。
売り上げが伸び悩む中ではありましたが、ボールド購入者はどんな人なのか調査をすると、「洗濯は嫌いだし洗剤なんて安ければなんでも良いんだけど、ボールドは洗剤なのに柔軟剤が入っているからお得だし楽」という感想をいただきました。それを聞いていた社内では「なーんだ、コスパ重視でボールドの良さをわかってくれているわけではないんだ……」という反応もありました。
そこで諦めることなく、さらに話を聞いていくと、「洗濯も家事もあまり好きではない」「楽しいことや可愛いものが大好き」「嫌いな洗濯を楽しくしようとカラフルな洗濯ばさみを使ったり洗濯機に可愛いシールを貼ったりして工夫している」「ボールドはいい匂いがするし洗濯ものがフワフワに仕上がるから好き」という話が聞き出せました。
洗剤メーカーとしてそれまで重視していた「汚れ落ち」や「家事に対する責任」にこだわる層とは、価値観がまったく違っていたんですね。
そこでボールドは、良い香りやフワフワな仕上がり、パッケージの可愛さや楽しさを打ち出したところ、売上が大きく伸びました。
郡司:まさに、DotとDotを戦略的につないで、商品の価値を再定義した好例ですよね。戦略的なConnecting the Dotsと言えると思います。
これができるようになるには、様々なDotをストックしておくことや、DotとDotをつなげる訓練が、それなりに必要だと思います。
福島:私には、DotとDotがつながって具体的なアウトプットが生まれた、という経験はまだありません。ですが、郡司さんのおっしゃるように、できるだけDotを多く持っておこうという意識で日々過ごしています。
入社後クリエイティブ配属になってからは、普段の生活の中で常に自問自答するようになりました。なんでみんなこうするんだろう、なんで今これが流行っているんだろう、と目にしたこと一つひとつを立ち止まって考え、それをDotとして自分の中にストックしています。
また、最近は広告などで、「あなたのインサイトをこのように突いてみせましたよ」としたり顔でアプローチすると、かえって嫌悪感を抱かれるような風潮があるのではないかと感じています。ですので、「こういうことが好まれる」だけではなく、「こういうことは怒らせてしまう・嫌がられる」とかも、Dotとして持っておくようにしています。

マスが消失する時代に見直したい、KJ法の視点
米田:文化人類学者の川喜田二郎さんが考案した「KJ法」という発想法が実は「Connecting the Dots」なんですよね。
文化人類学者は未開の地に赴く際、いきなり「朝、何を食べますか?」とは聞かないそうです。その地域には「朝」という概念が存在しないかもしれないし、1日3食という習慣があるとも限らないからです。
ではどうするのかと言うと、まず行動観察から始めます。何時に起きるのか、何回食事をしているのといったことを、じっくり観察していく。行動パターンが見えてきた段階で、初めて「なぜそうしているのか?」と質問します。行動を1つずつ観察し、得られた情報をカードにして整理すると、私たちの常識とはまったく異なる価値観が浮かびあがります。
最近「朝食調査」に関する相談を受けたのですが、今って3割以上の人が朝食を摂っていないそうなんです。「1日3食、朝昼晩」の概念が変わりつつあるんですね。そこで「じゃあ起床から正午までの間にいつ何を胃袋に入れるのか写真日記つけてもらいませんか?」とご提案しました。新しいパターンや価値観が見えてきそうでワクワクしています。
郡司:福島さんが話してくれたXで様々な検索をするというのも、現代版の行動観察ですよね。
今の時代、「マス」が消失し、価値観がどんどん分裂してきていますよね。だからこそKJ法のように、一つひとつの行動をまっさらな目で見るという姿勢がますます重要になっていると思います。私は「まっさらな目で見る」ことができるよう、仕事の合間に外を走って頭をすっきりさせるようにしています。
米田:私も仕事の合間に単純なパズルゲームに集中して自分の中のバイアスを外すようにしています。私は「脳を初期化する」と呼んでいるんです。
福島さんのパーソルの事例は、Xで集めた情報をまっさらな目で見ながら新たな仮説を導き出したという、まさに「Connecting the Dots」の好例ですね。直感的に「Connecting the Dots」されているんですよね。
福島:そうなんですね!自分では気づいてなかったですが、私も無意識に「Connecting the Dots」やっていたんですね。これからも、好奇心をもって、できるだけ色々なDotを多く持っておこうと思いますし、新しい価値観やパターンを発見できるよう、まっさらな目線を忘れることなく、新たな仮説を立てながら考えていきたいと思います。
郡司:最近の取り組みは、全体的にコモディティ化していて、似たような内容になりがちです。そういう時ブランドやチームにとって大切な姿勢は、「こういう調査結果が出たので、これを伝えましょう」というだけでなく、「見た人にとってどんな発見があるのか?」「次にどんなチャレンジをしようか?」と仮説を立て、それを共有しながら取り組むことです。
そうやってチームやブランドとしての「チャレンジポイント」を明確にし、それをチーム内で共有することで、チームとしての一体感が高まり、様々なおもしろいアイデアが躍動的に生まれてくるのだと思います。

米田からの「インサイト活用」TIPS
- 自分の既存の思考パターン内・常識の範囲内で思考を繰り返しているだけでは新しいインサイトを発見するのは難しい。
- 自分の思考パターンを外すには「行動観察」が1つのきっかけとなる。「自分とは違う・理解できない、自分にとっては常識外」の行動に興味を持って観察し、「自分の知らない・普段なら見落としがち」な行動・思考パターンを見つけてみる。
- Connecting the Dotsはインサイト活用法の1つ。一見関連のなさそうな情報・経験・知見の間に、今までにない新たな関連性やパターンを見つけることで新しい「文脈」や「意味」を持たせることを指す。
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Connecting the Dotsを使いこなすには、
(1)常に好奇心をもって、自分が知らなかった情報やデータや知見(Dot)を多く集めておくこと。
(2)そしてDotとDotを繋げて新しい仮説を立ててみること。
(3)新たな発見をしたいなら、自分の思考バターンに頼って常識的に納得できる結論に帰着させないこと。できるだけ「まっさらな視点」で物事をとらえようとしてみること。