アップデートすべき2つの常識
「では、そのブランドとは何なのでしょうか。我々もよくブランドとは何か議論するのですが、厄介な言葉です」とイナモト氏は、ブランドの定義について切り出した。

イスラエルの哲学者ユヴァル・ノア・ハラリ氏は、著書において「ブランドとは、ある特定の種類のストーリー」と定義している。では、ストーリーとは何なのか?
「ストーリーとは、『意味を伝える装置』とも解釈できます。昨今、ブランドの価値を上げて価格競争から抜け出すためには、機能より意味を伝えるべきだという話もよく聞かれます」(イナモト氏)
しかし、イナモト氏は「ストーリーテリングが、ブランド構築につながる」という言説を“今までの常識”だと指摘。それだけでは不十分であり、アップデートが必要だと述べた。
さらに、“今までの常識”と捉えるべきものの2つ目として「従来のファネル型マーケティング(認知→関心→購入の段階的なアプローチ)」を挙げた。
ファネル型マーケティングは、1980年代以降約40年間、マーケティング従事者の間で“常識”とされてきたフレームワークだ。
「多額の広告費を投じてストーリーを伝えても、それがブランドの価値向上や成長につながっていない問題は、実際に起きています」(イナモト氏)
その具体例として、SamsungとAppleを比較。Samsungは、Appleの倍の予算を広告費に投じてマーケティングを行っているが、過去数年で売れたスマートフォンのトップ5機種のうち、4機種がAppleで、Samsung製は1機種のみだった。
この現状を踏まえると、これまでのマーケティングや手法は、もはやブランド構築の確実な方法ではなくなっており、思考のシフトが必要だとわかる。
つまり、「意味を買う時代」から「信頼を買う時代」に移行しており、ブランド構築の上では「信頼による差別化」が必要になっているのだ。そのために、以下の4つを転換することをイナモト氏は提案した。
問いのシフト:ストーリーから信頼へ
思考のシフト:ファネルからフライホイールへ
方法のシフト:表現から再現へ
関係のシフト:バイラルからバイタルへ
ブランドを成長させる4つのシフト
4つのシフトを1つずつ解説していく。
1.問いのシフト:「どう伝えるか」から「どう信頼を築くか」へ
従来のマーケティングでは「何を伝えるか」「どう伝えるか」に焦点が当てられていた。しかし、これからは「どう信頼を築くか」という問いにシフトする必要があるという。
2.思考のシフト:ファネル型からフライホイール型へ
従来のファネル型では、ブランド構築をしてから人を引き寄せ、購入につなげてきた。しかし「フライホイール型」では、プロダクトをメインに顧客を魅了し、信頼を構築し、ブランドを作って差別化をするという、新たな循環型の構造になるという。

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