味の素の縦型ショート動画活用戦略
MarkeZine編集部(以下、MZ):味の素において、TikTok広告をはじめとした縦型ショート動画は、コミュニケーション戦略でどのような役割を担っているのでしょうか。
油谷(味の素):これまで当社のデジタル広告、特に縦型ショート動画は、テレビCMではリーチしきれない若年層へのリーチ補完という役割が中心でした。現在はその考え方を発展させ、単に世代で区切るのではなく、同一のターゲットに対してテレビとデジタルでメッセージを使い分ける立体的なコミュニケーションを目指しています。その中で縦型動画はTikTok、YouTube Shorts、Instagram Reelsの3媒体を活用し、配信結果を見ながら予算を最適化しています。

食品事業本部 マーケティングデザインセンター コミュニケーションデザイン部 コミュニケーション戦略グループ
油谷 一輝氏
MZ:ブランドやターゲットによって、3媒体の使い分けに傾向はありますか?
冷水(味の素):たとえば新商品である「クノール サクサクdeコパン」など若年層向けの商品はTikTok、レシピと相性の良い「丸鶏がらスープ」などは保存して見返すニーズの高いInstagram、というようにブランドやターゲットとの相性で使い分けています。ただ、これはあくまで初期仮説ですので、最終的には各媒体の数値を分析し、最も効果的な配分に調整していきます。
決め手は“クリエイティブを問わない”再現性
MZ:今回「alpaka」を導入された背景として、TikTok広告運用で抱えていた課題感を教えてください。
冷水(味の素):クリエイター制作のショート動画は特に広告効果がクリエイティブの質に大きく左右され、クリエイティブがターゲットに刺さらないと、その後の運用により効果を底上げすることが難しく、課題を感じておりました。また運用上のKPIを達成するために、ターゲット最適化の観点から年齢や興味関心のみの比較的広いターゲティングで配信していたため、どうしてもクリエイティブ頼りの運用になっていました。

食品事業部 マーケティングデザインセンター コミュニケーションデザイン部 コミュニケーション戦略グループ
冷水 秀行氏
MZ:そうしたなかで、「alpaka」を導入されたきっかけはなんだったのでしょうか。
油谷(味の素):YouTubeなどの他媒体では広告効果改善ツールを試していたのですが、TikTokに特化したツールはこれまでなかったので、まずは試験的に導入してみることにしました。
テスト導入時には、複数パターンでABテストを実施。個人のインフルエンサーが作った動画、料理メディアが作った動画、当社の公式動画など、様々なクリエイティブで通常配信と「alpaka」を使った配信を並走させて検証しました。結果、どのような形式の動画でも「alpaka」配信のほうが視聴率などの指標が明確に改善したのです。クリエイティブを問わない再現性の高さから、本格導入するに至りました。
ユーザーの熱量を捉える「界隈」ターゲティングの強み
MZ:「alpaka」を活用することで、なぜTikTok広告の効果を改善できるのでしょうか?
松野(フリークアウト):「alpaka」はシンプルに表現すると、「熱量の高いユーザーに高精度で広告を届け、成果を最大化するツール」です。通常、SNS広告はデモグラフィックや興味・関心データでセグメントされますが、本当にアプローチしたいのは「まさに今、その商材に関心を持っている人」、そして「まさに今、関心を持ち始めそうな人」です。ここには時間軸の視点が欠かせません。
さらに、SNSにおける興味関心は行動履歴だけで単純に測れるものではなく、ユーザーが属する多様なコミュニティ(界隈)の重なり合いから立体的に見えてきます。alpakaはその“界隈”のつながりを捉えることで、精度の高い配信を実現しています。

松野(フリークアウト):たとえば興味関心が「料理」の人も、本格的な自炊が好きなのか、お弁当作りに役立つ情報を収集したいのかでニーズはまったく異なりますよね。「alpaka」では投稿(UGC)の内容やハッシュタグから「界隈ごとのニーズ」を捉え、関連投稿に直近で「いいね」等のアクションをしているユーザーに対して広告配信を行う仕組みを構築しています。小さなコミュニティの積み重ねから必要なリーチを確保していく──いわば、トップダウンではなくボトムアップ型のアプローチなのです。

「界隈」を発見する2つの機能と独自技術
MZ:ハッシュタグを通じてブランドにマッチした界隈を見つけていくのは「alpaka」ならではの特長ですね。どのように投稿を分析しているのでしょうか。
松野(フリークアウト):「alpaka」独自の2つの機能を活用しています。1つは、「ハッシュタグディスカバリー機能」。訴求商材と関連性が高い数百・数千の投稿群のなかから、AIが広告のリーチと効果改善を両立できるハッシュタグを見つけ出し、分析・抽出・集積していく機能です。もう1つは、「トレンドターゲティング」。配信期間中や「その日」に流行っているハッシュタグ・コンテンツを見つけ出し、自動でオーディエンスに追加して、広告配信することができます。これによって毎日トレンドが目まぐるしく入れ替わるTikTokでも、流行に敏感な層の取りこぼしを防止します。この2つの機能をミックスさせて活用することで、「alpaka」ならではの効果の高い広告配信を実現しています。
MZ:その高精度なターゲティングを支えている、alpaka独自の技術についても教えてください。
安里(フリークアウト):「alpaka」は、これまでプラットフォームの行動データでは捉えられなかった、あいまいで流動的な「界隈」を投稿コンテキストなどから構造化し、プラットフォームに存在しない文脈的な新しいセグメントを作り出しています。

安里(フリークアウト):それを可能にしているのが「界隈クラスタリング」という技術です。「界隈クラスタリング」では、動画・ハッシュタグ・文章・発信クリエイターやタイムスタンプといったTikTok投稿にまつわるデータを膨大に取り込み、AIを組み込んだ多層的なクラスタリング手法によって「界隈」というクラスターに分類します。さらに生成AIを用いてトレンドを加味したラベリングを行い、人間が直感的に理解できる形に変換します。
界隈の規模・将来的なスケール余地・ニッチ度まで定量分析でき、それを広告ターゲティングに直結できるのが、「alpaka」ならではの優位性です。副次的には、界隈を代表するクリエイターも可視化できるため、広告だけでなくギフティングやインフルエンサー起用の判断にも活用できます。
完全視聴率4.2倍! コストも改善した導入効果
MZ:「alpaka」導入後の具体的な成果について教えてください。
油谷(味の素):最も驚いたのは、完全視聴率が4.2倍にまで向上した点です。これに伴い、A/Bテストでは6秒視聴単価が-15%、完全視聴単価は-79%と劇的に改善されました。また、通常「alpaka」のような外部ツールを使うと手数料でCPMは高騰しやすいですが、今回はCPMも-11%と、手数料を含めても安く抑えられました。コストパフォーマンスの良さは、継続利用の大きな後押しになりましたね。

冷水(味の素):配信期間中に視聴率が落ちるどころか、むしろ上昇し続けた点も大きな発見でした。「alpaka」が常にブランドターゲットと親和性の高い界隈やトレンドを発見し続けた結果だと考えています。
油谷(味の素):数値が劇的に改善したことで、TikTok広告の効果が明確に可視化され、社内でもその有用性が評価されやすくなりました。媒体選定の際にもTikTokが候補に挙がりやすくなりましたね。他媒体と同等に戦える有力な媒体が増え、プランニングの選択肢が広がったと思います。
MZ:フリークアウトでは、味の素での成功要因をどのように分析されていますか。
松野(フリークアウト):「熱量が高い人へ高精度に広告を届ける」という「alpaka」の基本的なコンセプトが体現できていたことに加え、フリークアウトが長年のノウハウで培った独自の入札ロジックが十分に機能し、自動の入札単価調整ができたことが、相乗効果を発揮したと考えています。
「誰に、何を伝えるか」を解明する次の一手
MZ:味の素は今回の知見を、今後どのように活かしていきたいですか。
油谷(味の素):「alpaka」によって「響くハッシュタグや界隈」の分析・分類ができたので、次は界隈ごとに刺さるメッセージを考え、それぞれに発信していくなど、クリエイティブ開発にも注力していきたいです。
冷水(味の素):10月末から、新商品「クノール サクサクdeコパン」の広告コミュニケーションを開始します。この商品は、当社にとって若年層向けのコミュニケーションを全面的に展開する、新しい試みとなります。エンゲージメントを高めるような引きのあるクリエイティブを15種類制作し、各媒体で配信予定です。こちらも「alpaka」を使ってTikTok配信することによって、よりターゲットを深掘りし、シャープにすることで、次年度以降のペルソナ発掘にも役立てたいですね。新たな生活者コミュニケーションの形を考えていける手法として、引き続き「alpaka」には期待しています。
MZ:最後に、フリークアウトからも今後の展望について教えてください。
松野(フリークアウト):「alpaka」の基本的な価値である“広告キャンペーンに必要なリーチボリュームを確保しながら、配信効率を高める”という部分は、引き続きしっかりご提供していきます。
そのうえで、次のステップとして注力したいのが、SNSならではの顧客理解です。自社や競合ブランドがTikTok上でどんな文脈で語られているのか、広告の反応率が高かったのは誰(Who)なのか、どんなメッセージ(What)が響いたのか──こうした分析を通じて、広告主様が消費者とのより深いコミュニケーション設計に活かせるようにしていきたいと考えています。
現時点でも、ハッシュタグの共起分析やトピック分析を通じて、ブランドや競合がどのような界隈に存在し、その界隈を代表するクリエイターが誰なのかを把握できます。さらに、広告反応率の高いハッシュタグを基点に、どのユーザーがコアとなっているのか、どんな興味を持っているのかを特定し、次のアクションへつなげることも可能です。つまり、TikTok内のPDCAサイクルを、より精度高く・効率的に実現いたします。
安里(フリークアウト):現在、「バズる」クリエイティブの構成要素を技術的に解析するシステムも鋭意開発中です。顔の露出面積、音楽のBPM(テンポ)、キャプションの視認性やコントラスト比といった複数の特徴量を統合的に分析することで、「なぜその動画がシェアされたのか」「どんな演出がエンゲージメントを生むのか」を可視化することが可能になります。この技術によって、従来属人的だった“センス”を再現可能なフレームワークに落とし込み、ブランドやクリエイターの表現力を次の次元へと引き上げていきます。
また、TikTokからスタートさせた「alpaka」ですが、そこで培った知見や仕組みを活かし、Instagramなど他媒体への横展開も目指しています。
松野(フリークアウト):「alpaka」はただ配信して終わりではなく、ブランドを好きになってもらうきっかけ作りやエンゲージメント向上にも活用できます。これからも数値面で着実な成果を出しながら、より踏み込んだマーケティング課題の解決にも貢献できるよう、邁進していきます。
TikTok広告のPDCAを一気通貫でサポート
alpakaは配信だけでなく、データを活用した事前・事後の分析までサポート。TikTok上のユーザー理解を深め、広告効果を高めたい方は、ぜひお気軽にお問い合わせください。