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MarkeZine Day(マーケジンデイ)は、マーケティング専門メディア「MarkeZine」が主催するイベントです。 「マーケティングの今を網羅する」をコンセプトに、拡張・複雑化している広告・マーケティング領域の最新情報を効率的にキャッチできる場所として企画・運営しています。

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MarkeZine Day 2025 Retail

MarkeZine Day 2025 Autumn(AD)

一度は挫折、再始動でCVR改善。「ジャンカラ」のデータ戦略を支えた意識醸成とインキュデータの伴走支援

 多くの企業がデータ活用の重要性を認識しながらも、部門を横断した意識醸成やリテラシーの不足が原因でプロジェクトが円滑に進まないケースも少なくない。西日本を中心にカラオケチェーン「ジャンカラ」を運営するTOAIも、過去に同様の失敗を経験していた。では、彼らはいかにしてその壁を乗り越え、データドリブンな顧客体験の最大化を実現したのか。「MarkeZine Day 2025 Autumn」には、TOAIの渡邉啓介氏と、その挑戦を支援したインキュデータの及木翔平氏が登壇。一度は頓挫したデータ戦略を成功に導いた、組織変革とパートナーシップの秘訣が明かされた。

年間2,155万人が利用するカラオケチェーン「ジャンカラ」

 1986年設立のTOAIは、カラオケ事業の「ジャンカラ」を主力ビジネスとして、オンラインカラオケアプリ事業、買い物代行サービス事業、フィットネス事業など多角的な事業を展開している。グループビジョンは「素晴らしい『体験』を、世界中のお客様に」

 主力事業の「ジャンカラ」は西日本を中心に、年間2,155万人が利用するカラオケチェーンとして、現在200店舗を運営。ジャンカラブランドとして、「ジャンカラ」「スーパージャンカラ」「ジャジャーンカラ」「セルフジャンカラ」と4つのブランドを展開している。

 ジャンカラが特に力を入れているのがアプリの活用だ。公式アプリを使えば、部屋予約、楽曲予約、受付、飲食オーダー、決済まで全てをスマートフォン上で完結できる。入店から退店まで人と会わずにカラオケを楽しむことができるのが特徴だ。現在のアプリ会員数は888万人にのぼり、そのうち6割を女性が占めている。

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 「顧客体験を最大化するために、グループ戦略としてジャンカラアプリのようにIT・デジタルへの積極的な投資に注力しています。特に、データ活用は重要な要素だと考えています」(渡邉氏)

前回の挫折を教訓に、体制を再設計

 元々TOAIでは、経営層としても「データ活用を推進したい」という強い意志があった。そこで約3年前に一度プロジェクトをスタートさせたが、成果を出せずに頓挫した経験がある。今回はその反省を活かし、約1年半前からインキュデータの支援を受けて再始動した。

 渡邉氏によると、今回のデータ活用プロジェクトには、大きく3つの目的があるという。

株式会社TOAI デジタル戦略部 シニアマネージャー 渡邉 啓介氏
株式会社TOAI デジタル戦略部 シニアマネージャー 渡邉 啓介氏

 1つ目は、「経営とマーケティングの高度化」だ。データドリブンな経営体制を構築し、マーケティングの質を高めることで、顧客体験価値の最大化を目指す。

 2つ目は、「データ分析の業務効率化」。社内に散在するデータを統合し、分析可能な状態にすることで、手作業や専門部署への依頼に頼っていた分析業務の時間とコストの削減を目指す。

 3つ目は、「データを活用した新たな収益源の創出」。“歌唱データ”などのカラオケ事業特有のユニークな資産を活用し、データ販売を含む周辺ビジネスの収益化を探索するというものだ。

データ基盤・公式アプリ・配信アプリを三位一体で強化

 では、実際のプロジェクトの概要をみていこう。

 同社では、顧客体験と従業員体験の最大化を目的として、「データ基盤」「公式アプリ」「カラオケ配信アプリ」の3つの領域でプロジェクトを推進している。

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1、データ基盤構築

 カラオケ事業では、会員データに加えて店舗購買情報を管理するPOSシステム、HPやアプリのアクセスログ、広告データ、MA反応データ、サードパーティデータ、歌唱データ、配信アプリのコメントや画像データまで多様なデータが存在する。

 渡邉氏は「Snowflakeを活用し、これらのサイロ化されているデータを統合し、ダッシュボードやMAなどで活用するデータ基盤を構築しています。これにより、従来よりも作業時間を削減でき、業務の効率化が実現できると考えます」と説明する。

2、公式アプリの高度化

 公式アプリ「ジャンカラ」の体験価値向上に取り組んでいる。UI改善のためにGoogleアナリティクスの計測を再設計し、ユーザ行動の分析にも注力する。さらに、MAの導入とCRMの高度化により、「従来は実現できなかった施策も実行できるようになる」と渡邉氏は述べた。加えて、MAツールを使いこなせる人材も社内で育成していく方針だ。Snowflakeとの親和性の高さから、MAツールには「Braze」を採用した。渡邉氏は、新たに収集したデータや過去のデータを深く分析することで、「新しいロイヤリティプログラムに生まれ変わらせたい」と力を込めた。

3、カラオケ配信アプリ

 同社が提供するカラオケ配信アプリ「UTAO」は、自宅でカラオケを楽しめるほか、歌唱動画の投稿やライブ配信ができる。今回のプロジェクトでは「UTAO」のデータ活用環境の整備も進めている。元々MIXIが運営していたカラオケ動画/ライブ配信コミュニティアプリ「KARASTA」の事業譲渡によって誕生した「UTAO」だが、データ活用を通して今後のビジネス上における方向性を決定していくという。

 「分析に関しては、統計モデルを用いたKGIとKPIの影響を可視化していきます。また、歌唱データや動画データといった非構造化データを分析し、ライバーの新評価ロジックの構築なども考えています」(渡邉氏)

 並行してオンライン広告も最適化させる。具体的には、課金者に対し重点的な広告配信を実現するほか、従来活用していなかった媒体を活用し認知度も高めていく考えだ。

部門横断の意識醸成と“伴走型スキルトランスファー”で内製力を底上げ

 今回のプロジェクトでは、3年前に頓挫した経験を踏まえ、「意識醸成にかなりの時間を使った」と渡邉氏は振り返る。

 「以前のプロジェクトでは、各部門で活用に向けた意識醸成がうまくできていませんでした。そこで今回は、デジタル戦略部門、営業企画(マーケティング)、システム部門、営業部門まで複数部門の担当者にデータを活用した目的とゴールについて、繰り返し説明しました。スタート前にメンバーの認識を揃えられたことで、プロジェクト推進の基盤になりました」(渡邉氏)

 さらに、「データ領域に知見を持ったメンバーが社内で不足していた」という課題もあったという。そこで、渡邉氏は「パートナー企業の選定には特に気を遣った」と話す。

 「リテラシーが不足している従業員もプロジェクトを通して成長できるように『スキルトランスファー(技術移転)』を丁寧に進めてくれるようなパートナーを探していました。インキュデータは単なる開発委託先ではなく、メンバーの育成と成長を含めた伴走支援をしてくれたので非常に満足しています」(渡邉氏)

 この「伴走支援」の進め方について、及木氏は具体的なプロセスを明かす。「プロジェクトの開始当初は、ツールの操作や施策の設計など9割方を我々が担当し、TOAIの皆様にはまず見て習熟してもらうことから始めました。そこから徐々に比率を変え、最終的にご自身たちで推進できる状態を目指しました」(及木氏)

 及木氏は、このプロセスで重要なのは、常に「ビジネスの目的」を問い続けることだったと続ける。「議論を重ねる中で、『当初想定していたツールよりも、こちらの方がビジネスの成功に貢献できる』といった判断に至ることもありました。ツールを導入することが目的になるのではなく、あくまでビジネスの成功に貢献することこそが、我々の本質的な価値提供だと考えています」(及木氏)

インキュデータ株式会社 ソリューション本部 副本部長 及木 翔平氏
インキュデータ株式会社 ソリューション本部 副本部長 及木 翔平氏

 TOAIがスキルトランスファーに注力しているのは、「インハウスへの強いこだわりがあるため」と渡邉氏は明かす。

 「『骨抜きのような会社になりたくない』という経営層の方針と、社内にリソースを抱えることによってスピード経営を実現していきたいという思いがあります。ただ、全てを内製化するのではなく、フェーズごと、機能ごとに外部パートナーさんにサポートいただく部分と社内でやる部分とで、メリハリをつけるということは意識しております」(渡邉氏)

UI/UX改善でCVR上昇、“お気に入り店舗”が鍵

 渡邉氏は「プロジェクトの成果も出始めている」と、具体的な効果についても言及した。

 公式アプリのUI/UXを改善したことで、予約の成約率は劇的に向上月を追うごとにCVRは上がっている状況だという。また、データ分析を行ったことで、従来はあまり重要視されていなかった「『お気に入り店舗の登録』という機能がCVRに大きく寄与していたことがわかってきた」と話す。

 さらに、今回のプロジェクトは社内組織にも大きな変化をもたらした。渡邉氏によれば、これまでは「イベントやキャンペーンを企画し、それをいかに多くの人に伝えるか」というマスマーケティング的な発想が中心だったという。

 しかしプロジェクトを通じて、データに触れるメンバーだけでなく、企画に直接関わらない従業員の意識まで変化した。「『こういうタイミングで、こんな気持ちでいるお客さまに、このメッセージを届けたら来店してくれるのではないか』。そんな会話が、普段の日常会話の中でも生まれるようになったのです」と渡邉氏は語る。データ活用が、画一的な情報発信から、顧客一人ひとりの感情に寄り添うコミュニケーションへと組織全体をシフトさせたと、渡邉氏はその手応えを強調した。

データ起点で体験価値10倍へ──DXプラットフォーム構想とUTAO連携

 今後の展望について渡邉氏は「データ起点の新しいカラオケ体験を創出し、顧客体験価値10倍を目指す」と語る。

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 また、「カラオケDXプラットフォーム」も構想中だ。自社で開発・運用しているアプリ、POSシステム、データ基盤などを一つのプラットフォームとしてパッケージ化し、業界の他社へ展開していく考えである。渡邉氏は「業界全体が盛り上がっていけるような活動をしていきたい」と力を込めた。

 加えて、リアル店舗の「ジャンカラ」と「UTAO」もシームレスに連携させる。

 「例えば、ジャンカラで歌った曲が、帰りにアプリを開くとその歌がレコメンドされたり、それをうまく歌唱している方の動画が簡単に閲覧できたりと、リアルとオンライン上の体験を繋げていきたいです。Spotifyさんのようなサードパーティデータとの連携なども将来的には見据えております」(渡邉氏)

 TOAIのデータ戦略は、一企業の成長戦略に留まらず、カラオケ業界全体の未来を創造しようとする先進的な取り組みだ。講演の最後、及木氏は「我々もTOAI様の目指すべき姿の実現を一緒に担えればと思います」と、これまでの伴走支援を振り返りつつ今後の連携にも意欲を見せた。

 さらに、「我々はビジネスとデータを双方向に翻訳し、戦略策定からデータ基盤構築、マーケティング施策の実行までを一貫して支援しています。皆様のビジネス変革においても、ぜひご相談いただければ幸いです」と続け、セッションを締めくくった。

さらに詳しく事例を読みたい方におすすめ!

 TOAI様へインキュデータが個別インタビューを実施し、プロジェクトの目的や抱えていた課題、データ活用への取り組みについてお伺いいたしました。プロジェクトを経て得られた成果についても詳しく記載しておりますので、本記事に興味を持たれた方は、インキュデータ作成のTOAI様の事例インタビュー資料も併せてご覧ください。

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この記事の著者

太田 祐一(オオタ ユウイチ)

 日本大学芸術学部放送学科を中退後、脚本家を目指すも挫折。その後、住宅関係、金属関係の業界紙での新聞記者を経て、コロナ禍の2020年にフリーライターとして独立。現在は、IT関係を中心に様々な媒体で取材・記事執筆活動を行っています。

※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です

提供:インキュデータ株式会社

【AD】本記事の内容は記事掲載開始時点のものです 企画・制作 株式会社翔泳社

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MarkeZine(マーケジン)
2025/11/20 10:00 https://markezine.jp/article/detail/49905