少数精鋭で大組織を動かす「螺旋的拡大戦略」
現在はコンテンツが充実してきたDataPracticeだが、その実態は立ち上げ当初2名、現在も13名という少数精鋭のチームが牽引している。このチームが巨大組織を動かす成功の鍵を、浅村氏は「螺旋的拡大戦略」だと語る。
「個々のプログラムを小さく始め、それぞれをダイナミックに連携し、継続的な改善を通じて進化・拡大・浸透させていくことで、螺旋を描くように連続的な価値向上を実現する考え方です」(浅村氏)
この戦略は、次の3つの要素で構成されている。
1.スモールスタート
まず壮大な計画は立てず、小規模な実験から着手することで、リスクを最小限に抑えながら成功の種を見つけ出す。たとえば『Insight Carving』は、自組織内から30名程度の参加を募りその価値検証からスタートし、今や2,000人規模も視野に入る全社プログラムへと発展した。また、『exLens』の原型も、最初は参加部門を限定し約1,000名を対象とした数問の簡易的なアンケートだったという。
2.施策の連動性
次に、個々のプログラムを分断された「点」ではなく、参加者が自然と次のステップへ進めるように「線」や「円環」として繋ぐ。たとえば、『Insight Carving』で意識変革を遂げた参加者が、次に『exLens』で自組織の現状を把握し、そこで生まれた成功事例が『DDM Award』で全社に共有される、といった一連の流れを設計することが重要となる。
3.継続的な進化・拡大
そして、一度の成功に安住せず、参加者からのフィードバックを元にプログラムを常に改善し続ける。『exLens』では、当初はDDM成熟度の可視化のみだったが、年々エンゲージメントサーベイや各種ツールの利用率といったデータを拡充させ、より実践的なツールへと進化を続けている。
戦略を支える最大の原動力は、経営層のコミットメント
ただし、と浅村氏は続ける。この3つの要素を機能させるには、もう1つ不可欠な要素がある。それが「経営層のリーダーシップとコミットメント」だ。
「『Insight Carving』の初回参加者も社長・役員から始まり、全セッションで経営層のビデオメッセージを共有しました。『DDM Award』では経営層が分析テーマを設定し、最優秀賞決定戦では社長自らが参加して称賛する体制を構築しています。経営層が自ら『変革の当事者である』という強いメッセージを発し、コミットし続けることが、全社員の意識と行動を変える、最大の原動力となっているのです」(浅村氏)
社内実践から顧客価値へ、そしてAI活用の未来へ
富士通の取り組みは社内にとどまらず、そこで培われたノウハウは顧客への新たな価値提供へと発展している。その代表例が、既に食品メーカーや金融など約30社へ提供している『Insight Carving』プログラムだ。
「自社で実践し、成功も失敗も経験してきたからこそ、お客様の現場に寄り添った、リアルな課題解決につながる支援ができています。いわば、我々自身で徹底的に試行錯誤した生きた知見を、惜しみなくお客様にご提供しているのです」(浅村氏)

データ基盤と人・組織という土台が整った今、富士通は変革のフェーズをさらに先へと進めている。次に見据えるのは、データとAIを駆使した業務変革、そしてマネジメント変革だ。
「AIの進化は目覚ましく、企業の競争力の源泉になると捉えています。しかしAIを最大限に活かすためには、その学習基盤となる良質なデータが不可欠です。そして最終的にそのデータやAIを使いこなし、価値を生み出すのは『人』なのです」(浅村氏)
浅村氏は、「今後も最先端の技術を取り入れながら、組織と個人の行動変容を促し、データとAIの活用を全社に浸透させていく。積みあがった社内の実践知を社会にも拡げていくことで、顧客、そして社会全体の変革を牽引していきたい」と今後の展望を語り、講演を締めくくった。
