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事業と人を成長させる「強み」起点のマーケティング思考

マーケティング戦略は「現状分析」が8割。リクルート時代の“しくじり”で学んだ、戦略を考える5ステップ

分析の正体──「縦と横」で比べ、差から考える

 では、分析とは何か。私は、分析=比較だと捉えています。何かと何かを比べて差分に気づき、その差分の理由を考えること。比較対象があって初めて、物事を深く思考できます。

 前項の家の例に戻ると、隣家との比較で屋根の傾きが20度違ったと仮定します。その差分に気づき、「なぜ隣同士で20度も違うのか?」と疑問を持つ――これが分析の第一歩です。「単なるデザインの好みだろう」と片づけてしまうと、そこで思考は止まってしまいます。差分には必ず理由があると考えるのが、マーケターにとって重要な姿勢です。日照権や積雪、風向といった背景要因があり得る――そうした仮説に対して「本当か?」と検証しにいくことが分析です。

 分析の問いは大きく2つに集約できます。

  1. 他に要因はないのか(他の仮説はないか)
  2. この要因は本当にそうなのか(仮説は妥当か)

 差分を見てこの2つの問いを持つ。差分に着目し、仮説を持って検証する。これが分析の基本姿勢です。

 マーケティングにおける数値の比較は、原則縦と横です。多くのモニタリングシートは、縦(商品・チャネルなど)×横(月・週など)のマトリクスになっていますが、その縦と横に何を置くかが肝になります。たとえば――

  • 縦=商品別:どの商品が売れているか/どれだけ伸びているか
  • 横=月別:前月比・前年同月比はどうか

 縦横の置き方が変われば、見える差も変わります。分析=縦横の比較と覚えておくとよいでしょう。

解像度を上げる──“平地”を平地で終わらせない

 ここまでの話をまとめると、現状分析とは「前提となる構造=設計図とルール=前提の中で起きている現象を、比較によって明らかにすること」でした。

  そして、最も重要なのが解像度です。数値化できるものはすべて数値にし、限界まで現状を詳らかにする。私たちは日常会話では「ちょっと」「だいたい」「多めに」と国語で伝えがちですが、ビジネス、とりわけマーケティングでは数値にすることが決定的に重要です。

 重要性をお伝えするため、比喩で補足します。あなたが戦国時代の城主で、敵の大軍が攻めてきているとします。城から外を眺め「あそこは山間の平地だ」とだけ捉え、スピード優位の騎馬隊で出撃を決めた――ところが実際の“平地”は、ぬかるみで足が2〜30cm沈む、草が10〜20cm生えている、石が80〜100個転がっている……。浅い現状分析で立てた打ち手は、実行段階の“想定外”で簡単に崩れます

 大事なのは、平地を平地として捉えたところで終わらせないこと。地表の細かな凹凸まで把握するレベルに解像度を上げることです。Googleマップで日本全図から街区、番地へと落としていくイメージで、構造を俯瞰(ズームアウト)しつつ、障害が見えるところまで徹底的にズームインして調べる。これが、現状分析を正確に行うために必要な解像度です。

 私は過去の“しくじり”を振り返るたび、ほぼこの解像度不足で躓いていました。ズームインを途中でやめ、見落とした石に躓いていたのです。比喩で抽象的にお伝えしましたが、ビジネスの現場で見落とさないためには、前提から疑って数値を見ることが大事です。私は現状分析の際に、よく「そもそも」という言葉を使います。これは加工されたデータの裏側にある数値を想像し、「なぜこのような差分が起きているのか」を根本から考えるためです。また、疑問や仮説が生じたときは、ローデータを見にいくことが多々あります。マネジメントであっても、実データやファクトを自分の眼で見ること。マーケティングを担う人にとって重要な姿勢だと思います。

まとめ

 まとめると、覚えておいてほしいポイントは2つです。

  1. 現状分析=「前提となる構造=設計図」と「ルール=前提」の中で起きている現象を、比較によって明らかにすること。
  2. 必要な解像度=ズームインできなくなるところまで、細部のデータとファクトを把握すること。

 この2つを徹底するだけで、次のステップである(2)初期仮説の精度は一気に上がります。戦略の勝率はここで決まると言っても過言ではありません。私の持論―「マーケティング戦略は現状分析が8割」の理由は、まさにここにあります。

 次回は、初期仮説の構築と検証について、皆様と一緒に考えていきます。

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この記事の著者

金井 統(カナイ オサム)

NexGen Inc. CEO
新卒でNTTドコモに入社。端末のマーケティングを経験した後、iモードでビジネス展開をする会社へのコンサルティングに従事。その後、リクルートへ転職。マーケティング室のVP(ヴァイスプレジデント)として、横断の人材育成・知見流通とHR領域のマーケティング責任者を担当。HR領域におけるToC及びToB双方のプロダクト横断での事業・マーケティング戦略、ブランディングからdirectADやSEO等のネットマーケティング、...

※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です

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MarkeZine(マーケジン)
2025/11/07 08:30 https://markezine.jp/article/detail/50085

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