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MarkeZine Day 2026 Spring

【新年特集】2025→2026 キーパーソンによる予測と展望

2026年、マーケティングはどこへ向かうのか/江端浩人氏の着眼点

マーケティング施策を起点に、経済はどう伸びていくのか

 生成AIが思考の共働者としてマーケティングに加わることで、現場にはこれまで以上に多くの問いや示唆が集まるようになってくるだろう。それらは施策の改善やアウトプットの質向上にとどまらず、市場をどう捉え、どの方向に進むべきかといった、意思決定そのものを支える材料として扱われ始めているのではないだろうか。その結果、マーケティングはブランディングや販促を担う機能を超えて、経営に近い役割を静かに内包し始めると筆者は考える。

 ただし、この変化は最初から市場全体に広がるわけではない。生成AIを前提としたマーケティングが生み出す学びや示唆は、まず自社の中で循環し始める。それは、生成AIを単に活用するのではなく、自社のマーケティングプロセスそのものを、生成AI前提で組み直していくところから始まるのだ。

 施策を通じて得られた仮説や判断、成功や失敗が、特定の担当者の経験としてのみ蓄積されるのではなく、組織の中でデータやノウハウとして共有され、参照され、次の意思決定に使われていく。こうした動きが積み重なることで、企業の内側に、知や判断が自走的に循環する自社内エコシステムが立ち上がり始めているのだと感じる。

 自社内で生成AI前提のマーケティングプロセスが定着し始めると、その影響は次第に、事業部や関連組織へと広がっていく。マーケティングで得られた仮説や判断が、商品開発、営業、カスタマーサポート、経営企画といった複数の部門や事業の意思決定に参照されるようになる。こうした動きが進むことで、単一組織を超えたグループ内エコシステムが立ち上がり始めてゆくのではないかと筆者は考える。

 この社内エコシステムが成熟してくると、必然的にその視線は自然とマーケティングパートナーへと、企業の外側へと向かい始めるだろう。自社やグループ内で蓄積されてきた仮説や判断、学びが、代理店や制作会社、データ提供者、テクノロジーパートナーといった外部の知や経験と接続されることで、マーケティング施策は単独の企業活動を超えた広がりを持ち始める。そこでは、どちらか一方が正解を持つのではなく、複数の主体が仮説を持ち寄り、試し、学び合う関係性が生まれていく。

 こうした関係が積み重なった先に、マーケティング施策を起点とした価値創出が、企業間を横断して連鎖し、マーケット全体を捉えるエコシステムが立ち上がり始めるだろう。

 筆者が認識している限り、このような構想は残念ながらまだ実現していない。むしろ現場には制限が多く、苦労している人のほうが多いように思える。既存のベンダーやコンサルは社内調和を重視しすぎており、ツールの導入やリスク回避のための社内規制の導入を重んじ、広がりどころかマーケターなどに逆に足かせとなるケースも見受けられる。これでは部分的な成長しか見込めない。

 このような状況を打破するためには、業務を共にしているベンダーやパートナーも巻き込んだ大きなエコシステムの改修が必要になってくる。従って、マーケティングのリーダーは経営やDXを取り仕切る社内部門を筆頭にアライアンスを組み、社内の変革にとどまらず、社外も巻き込んだエコシステムを構築するべきだと筆者は考える。生成AIが前提となった今、生成AIが存在し共働する世界を前提に、業務やプロセスそのものを構想し直す演繹的な思考が求められている。

演繹的思考が生み出す、マーケティングの新たな姿

 これまでのマーケティングは、成功事例を積み重ね、共通項を抽出し、次の施策に活かすという帰納的な思考を中心に発展してきた。この方法はいまだに有効であり、過去のデータが、未来をある程度説明してくれるということは今後も変わらないだろう。しかし、生成AIが前提条件となり、環境変化の速度が人間の理解を上回る時代においては、この前提もある程度見直すことが必要となる。

 そこで重要になるのが、演繹的な思考と行動である。演繹とは前提を置き、仮説を立て、仮説を元に検証し、結果を分析のうえ、前提を更新する、過去の蓄積から正解を探すのではなく、仮説を起点に理解しにいく姿勢だ。

演繹革命-日本企業を根底から変えるシリコンバレー式思考法』校條浩著より抜粋

 最も、演繹的に考え、動ける個人が増えれば、それだけで組織が変わるわけではない。個人の仮説や試行が、その場限りのアイデアや思いつきとして消費されてしまえば、変化は組織に定着しない。重要なのは、そうした演繹的な思考や試行を、組織として受け止め、共有し、次の意思決定へと接続する仕組みを意図的に設計できるかどうかだ。

 生成AIは、この接続点において、個人の思考を記録し、構造化し、再利用可能な知へと変換する役割を担い始めている。演繹的に動く個人と、それを活かす組織構造が噛み合ったとき、マーケティングは再び、価値創出の中核として機能し始めるのではないだろうか。

 生成AIを「どう使うか」を考える前に、生成AIがいる状態で「仕事はどう進むのか」「役割はどう分かれるのか」を考える。ツールの操作方法を学ぶよりも、仮説を立て、試し、フィードバックを得ながら次に進むという思考と行動の往復そのものを、当たり前のものとして受け入れている姿勢が重要になる。

 この姿勢は、従来のマーケティング教育や研修で重視されてきた「正解を学ぶ」「成功事例をなぞる」といったアプローチとは、明らかに異なる重心を持っている。よく言われていたKKD(勘と経験と度胸)とは、ある意味真逆の思考、行動様式だろう。

 筆者が昨年関わった「スタンフォード式 生成AI BootCamp」では、生成AIを「思考の共働者」として引き受け、個人や組織の思考・行動・役割が、どのように変わり始めるのか、その兆しを感じることができた。今年もその変化の輪を広げる一貫として、セミナー講演の場を通して、情報を発信していく予定だ。MarkeZine読者の方々も共に、変化を楽しんでいこう。

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この記事の著者

江端 浩人(エバタ ヒロト)

iU大学教授、江端浩人事務所 代表、MAIDX LLC代表、AlMONDO事業顧問

米ニューヨーク・マンハッタン生まれ。米スタンフォード大学経営大学院修了、経営学修士(MBA)取得。伊藤忠商事の宇宙・情報部門、ITベンチャーの創業を経て、日本コカ・コーラでマーケティングバイスプレジデント、日本マイクロソフト業務...

※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です

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MarkeZine(マーケジン)
2026/01/23 09:30 https://markezine.jp/article/detail/50312

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