コンテンツ作りの3つの軸と、参加の設計
明石氏は、バズる動画には3つの訴求軸があると整理した。「視覚」、「感情」、「思考」だ。
「視覚」は最も即時的な反応を引き起こす。0.1秒で判断される世界では、背景の統一、シンボリックな見た目が「あの人だ」という認識を生む。そして、「感情」は共感、感謝、感動、笑いに分けられる。思考はお得感や発見といった認知的な訴求だ。
この3つには順序がある。「視覚」は0.1秒、「感情」は数秒、「思考」はさらに時間がかかる。ショート動画では、まず視覚で止め、感情で引き込み、思考で納得させるという流れが重要になる。
もう1つ、明石氏が強調したのは「参加のハードル設計」だ。
「TikTokでほぼ滑るチャレンジ企画は、『友達と一緒にやってください』というもの。友達なんていないから。1人で完結できて、顔出し不要で、やりやすいもの。これが伸びます」(明石氏)
また、かつてTikTokでは、ユーザーにダンスを踊ってもらう「ダンスチャレンジ」が流行した。しかし、「今も『ダンス』をプロモーションに用いていたとしたら“古すぎる”」と、明石氏は苦笑する。参加を促す「型」もまた、常に更新されているのだ。
久保田氏はこれを、ロックミュージシャンがライブ会場で呼びかける「Singing(歌え)」と「Listen(聴け)」の違いに例えた。かつてのブランドコミュニケーションは「俺の話を聴け」だった。だが今は「一緒に歌おう」が求められる。視聴者を参加させる仕掛けが、エンゲージメントを高めるのだ。
そして参加者たちは、誰かの動画を真似し、その真似がまた真似される。明石氏はこれを、フランスの社会学者ロジェ・カイヨワが提唱した遊びの四分類の中の「ミミクリ(物まね遊び)」になぞらえた。界隈の中で型が再生産され続ける構造は、まさにミミクリの世界だ。
アルゴリズム時代のブランド創造に求められるもの
セッションの終盤、議論は「一過性のバズ」と「長期的なブランド」の両立に向けられた。久保田氏は「短期的なバズを生む部門と、長期的なブランドアイデンティティを守る部門は往々にして対立する。これを統合できるのはトップマネジメント(経営層)の理解しかない」と断言した。
ブランドへの投資は、ランニングの効果に例えた。
「健康のためにランニングをする人はいますが、それで寿命が何秒伸びるかなんて誰にもわからないものです。しかし、継続しなければ確実に衰退します。このエビデンスを求めにくい領域に対し、経営層がいかに確信を持ってリソースを配分できるかが組織の勝敗を分けるのではないでしょうか」(久保田氏)
最後に、日本マーケティング学会会長の西川英彦氏は「理論は常に実践から生まれる。今回の実務家とアカデミアの融合によって、アルゴリズム時代の新しいマーケティング理論の芽が見えた。若いマーケターには、このカオスで予測不能な環境を楽しみながら、新しい知見を創出してほしい」と締めくくった。
3月4日(水)の「MarkeZine Day 2026 Spring」に、久保田進彦氏が登壇! 詳しくは、イベントページをご確認ください。

