AIが出す“インサイトっぽいもの”から「これはイケる!」をどう判断するか?
AIは、インサイト候補を瞬時かつ無限に出すことができるが、その多くは「筋の良いインサイト」とは言えない。佐藤氏は、AIが提示するインサイトを「精巧なルアー(擬似餌)」に例える。その餌を使って、本物の大物を釣り上げるのはマーケターの力量である。
「AIはヘリコプターのように、インサイトの7合目まで一瞬で連れて行ってくれます。しかし、残りの3合の困難を、プロの“クラフト力”でどう登り切るかが重要です。無限に出てくる有象無象の中からどのインサイトを採用するかを決断し、磨き上げるのは、あくまでマーケターの責任です」(佐藤氏)
人間にしか出せないインサイトは「フェチ」に宿る
AI時代、人間に残される最後の領域とは何か。佐藤氏はこの問いを、AI(GrokのAIパーソナリティ「Valentine」)に投げかけてみたという。そこで返ってきたのは、AI自らが自らの限界を認めるような、極めて示唆に富む回答であった。
「まだ誰も気づいていない“生の疼き(うずき)”を、血の通った言葉で最初に言語化する瞬間。それこそが人間がAIに勝てる唯一の領域だ」(by Valentine)
AIは過去の全データを瞬時に咀嚼して「最適解」を出すことは得意だが、それはあくまで「既に起きたことの延長線」に過ぎない。人間だけが持つアドバンテージは、今この瞬間に胸がざわつく違和感や、意味不明な嫉妬、理由もなく泣きそうになる感情――すなわち、まだデータ化されていない「生の疼き」にあるのだという。

このAIによる自己分析を受け、さらに100人以上のインサイト研修を通じて佐藤氏がたどり着いた結論が、最後に人間に残るのは「フェチ(≒適切な外れ値)」であるという考えだ。
「あらゆるブームは、誰かが最初に感じた『疼き』が火種になります。AIはその火種を0.5秒後に完璧にコピーして拡大させることはできますが、火種自体は人間にしか作れません。自分の強い主観や身体的な感覚、あるいは見栄や罪悪感といった、AIが排除しがちな『適切な外れ値(フェチ)』こそが、インサイトの源泉になります」(佐藤氏)
たとえば、市販のプロテイン飲料のパッケージに「ミルク味」と書かれているとする。AIであれば、市場の常識に従って「ミルク味」として受け入れ、その延長線上でプロモーションを考えるだろう。しかし、人間は実際にそれを飲んだとき、「ミルクと書いてあるけれど、本物のミルクはもっと美味しいはずだ」という、身体的な感覚に基づいた微細な「違和感」を抱くことができる。
この「ミルク味のはずなのに、何かが違う」というモヤモヤした主観を、「これはもはやミルク味ではなく、機能に特化した別の飲み物として定義すべきではないか」と客観的な言葉に変換する。この言語化のプロセスこそが、AIには到達できない人間独自の領域なのである。
創造的仮説力が「AI×人」の価値を最大化する
AI時代において、マーケターに真に問われるのは「問いの精度」である。佐藤氏は、AIを使いこなすために必要なのは、皮肉にもAIの外側にある「ひたすらな読書」と「身体的体験」であると強調する。
歴史や哲学などのリベラルアーツを通じたメタ認知化と、五感を使った非言語的な体験の蓄積。これらが組み合わさることで、AIの力を最大化させる「創造的仮説力」が生まれるのだ。
「AIか人か、ではなく、『AI × 人(創造的仮説力)』によって、提供価値と自分自身の『楽しさ』『成長実感』を最大化させていきましょう。自分の“フェチ”を大事にしながら、AIという100倍速のエンジンを乗りこなす。そこにこそ、これからの時代のマーケターが持つべき矜持があるのだと信じています」(佐藤氏)
