マーケティングで、マーケターが本当に使いたいAIツールは?
生成AIは使っているものの、マーケティング業務で活用できているとは自信をもって言えない……多くの読者がそうした状況にあるのではないだろうか。
パーソル総合研究所の「生成AIとはたらき方に関する実態調査(参考)」によると、週4回以上使用するヘビーユーザーは全体の約11%に過ぎず、6〜7割の層はほとんど使用していない。活用している層の用途も、調べ物や情報整理、文書作成、アイデア出しといった汎用的なものが大半を占め、業務の本質的なプロセスへの組み込みには至っていないことがわかる。特に経営層では「自分の業務には必要性を感じない」「どのような業務で使えるのかイメージできない」といった声が多く、ツールとして使用が許可されていても、具体的なアウトプットのイメージが持てないことが活用定着の大きな障壁となっているようだ。
では、マーケティングで真に使えるAIツールとはどのようなものだろうか。MarkeZine Day 2026 Springのパネルディスカッションで紹介されたのは、NECの「ターゲット顧客の反応がわかるAIツール」だ。
「複数のアイデアを検討する際、想定するユーザー像に対してどの程度の反応が見込めるかを定量的に示すことができれば、売上・認知・集客という主要な事業指標への貢献を即座に判断できるようになります」(小図子氏)
上記の考えをもとに開発されたのが、NECのマーケティング施策立案ソリューション「BestMove(ベストムーブ)」である。「BestMove」は、商品企画・マーケティング業務のプロセス変革を目的としたAIソリューションで、その特徴は高精度な購買データを内包している点にある。
特筆すべきは、JCBのクレジットカード購買傾向データ(個人・店舗を特定できない統計情報)およびPontaのID-POS/レシート購買傾向データとの連携により、幅広い購買傾向データを網羅的に保有していること。さらに、高額利用者約1,000万人規模のパネルデータに加え、味・匂い・捨てられないものといった志向性に踏み込んだ独自の追加アンケートを実施することで、高解像度なターゲット顧客の抽出を実現している。「BestMove」でアンケート・インタビューを繰り返すことで、顧客に会わずして本音を探ることができるのだ。
空前の抹茶ブームが到来!抹茶飲料に関心のある海外旅行客は?
セッションでは、実際に「BestMove」を活用している伊藤園のマーケティングの取り組みが紹介された。
まず挙げられたのは、つくりたての抹茶を楽しめる体験型抹茶飲料「matcha LOVE」での取り組み。「matcha LOVE」では、昨今の抹茶ブームとインバウンド需要の高まりを受け、海外観光客をターゲットとする方向へ戦略を転換しようとしていた。「振って抹茶を作る」というユニークな体験価値と、やや高めの価格設定は、むしろインバウンド層に刺さる要素と判断したのだ。
それにあたり、まずは、商品/サービスに反応する可能性の高い消費者を抽出して分析した。施策を担当した伊藤園の矢野氏は次のように話す。
「『BestMove』を活用して顧客分析をしたところ、やはりインバウンド向けの顧客クラスターが自動生成されました。健康・栄養意識の高い層やサステナビリティ重視の層など、自社では想定していなかったセグメントも提示され、思考の整理と発想の拡張につながりました。
たとえば、『手作り飲料(しゃかしゃか抹茶)に興味がある人』というクラスターの特徴や、その方々の潜在ニーズなど、深いインサイトを抽出することができました。さらに、そのセグメントを選択して施策立案ボタンを押すと、具体的なマーケティングアイデアまで出力されたので驚きましたね」(矢野氏)
SNS動画の絵コンテ、売り場陳列イメージの作成までAIで完了!
「matcha LOVE」の施策例として挙げられたのは、SNSプロモーション動画。予算をかけずにインバウンド層により刺さる動画を作りたいという課題を「BestMove」にインプットしたところ、完成度の高い絵コンテが自動生成された。
この絵コンテを基に新たな動画を制作しSNSに投稿すると、「24時間で3.1万viewを獲得(125%アップ)」「動画制作にかかる工数を33%削減」「人間が思いつかないフレーズの提案」といった成果を得られたという。
また、実店舗で「matcha LOVE」を展開する際は、「BestMove」で売り場の陳列イメージを画像で生成。調整を重ねた上で店舗側に提案した。インバウンド専門店舗はもちろん、通常店舗で大きく訴求してもらえたこともあり、インバウンド店舗に匹敵する販売実績につながったそうだ。
AIアンケートで「抹茶」に対するイメージを国別に検証し、店頭POPを改善
続いて紹介されたのは、「BestMove」のAIアンケート機能を使って、中国人とアメリカ人向けのPOP改善案を策定した事例。「インバウンド」をひとくくりにしていたことへの問題意識から、国別の反応を検証してみたという。
BestMoveの新機能であるAIアンケート・AIインタビューを活用した中国人ユーザーへの調査では、「手に取りにくい」という否定的意見の背景に「抹茶=苦い」というイメージがあることが判明。一方で、「体験できる」という点は高く評価されており、この結果をもとに「体験」と「苦くない」という2点を訴求したポップを制作した。
一方、アメリカ人ユーザーへの調査では、抹茶に対する健康的なイメージが強く、味わいについても「まろやか」という好印象が得られた。風味・味わいの訴求をより前面に打ち出す必要があるという気づきになったそうだ。
「このクオリティの結果が最初から出てくるのは驚きでした。時間の短縮はもちろん、新たな気づきが得られ、マーケターとしてやるべきことへの確信も持てる。そのスピード感が、これまでとまったく違うと感じています」(矢野氏)
「お~いお茶」をモンゴルで拡販、顧客調査をAIで大幅に効率化
最後にモンゴルにおける「お~いお茶」拡販における、「BestMove」の活用事例も紹介された。現地に赴くことも難しく予算も限られる中、従来はインターネット検索や現地コンサルタントへのヒアリングといったアナログな手法に頼らざるを得なかった。こうした制約を背景に、コストをかけずに打てる手を模索した結果、「BestMove」を活用することになったという。
「海外在住の健康志向な人」をターゲットに設定し、無糖緑茶を食中飲料として手に取ってもらうためのアイデアとして、「モンゴルの定番料理との食べ合わせ」という訴求切り口を「BestMove」で検証。その結果、高評価クラスターからの反応が良好であることが確認され、施策の方向性に一定の手応えが得られた。さらに高評価層へのインタビューを重ねることで、モンゴルの食習慣や飲料に対する意識など、現地に赴かずとも得られる示唆が着実に蓄積されていった。
立案した企画を91%が低評価?AIの「フラット&客観的」なアウトプットが活きる場面も
施策立案の過程で有望視されたアイデアのひとつが、「寿司マスター監修の緑茶にぎりレシピ付きPOP」だ。「お~いお茶」で炊いた寿司米を抹茶塩で握る"グリーン寿司"のレシピカードをPOPにするという内容で、日本のイメージを活かしつつ低コストで実現できる案として現実味があると考えた。
しかしAIアンケートで検証したところ、91%が低評価という結果が出た。というのも、モンゴルは内陸部が多く新鮮な魚介を扱う寿司の家庭調理はハードルが高いのだ。現地の食習慣とマッチしないといった具体的な理由が提示され、思い込みを冷静に修正するきっかけとなった。
矢野氏は「商品への思い入れが強いほど低評価から目を背けがちになるが、BestMoveはその結果をフラットかつ客観的に提示してくれる。ここにAIの本質的な価値がある」と話す。
加えて、「BestMove」の最新機能として画像を用いたABテストも紹介された。これは、商品情報とキーワードをもとに抽出した1,000〜2,000人規模のランダムサンプリングユーザーに対し、VOC(Voice of Customer)を収集しながらスコアリングを行い、集団全体のトップ5・ワースト5の意見を集約するもの。寄せられた意見はペルソナ単位で分解・可視化されるため、高評価層・低評価層いずれのユーザー像も詳細に把握することができる。
さらに、特定のペルソナに近い実在のユーザーと直接対話したい場合は、該当ユーザーを抽出してオンラインインタビューができるサービスもこれから備えていくようだ。
さらなる盛り上がりを見せるインバウンド市場だが、言語や文化の壁もあり、顧客理解に苦戦している企業も多いだろう。もとより、海外で顧客調査やテストマーケティングを行うとなると、どうしてもコストが膨らんでしまう。こうしたマーケティング業務でこそ、AIによる効率化が価値を生むのではないだろうか。
最後に、NEC小図子氏は「今回紹介された伊藤園様の事例が、“AIを活用していてもなかなか成果につながらない”と課題を感じられているマーケターの参考になれば幸いです」とセッションをまとめた。

