「人間の非合理性」がAI時代の武器になる
AI全盛の時代に、なぜこのような人間中心のアプローチが必要なのでしょうか? その答えは、人間の脳の仕組みにあります。行動経済学者のダニエル・カーネマンは、人間の思考を「システム1(速い思考:直感・感情)」と「システム2(遅い思考:論理・分析)」に分類しました。
AIが得意とするのは「システム2」の領域です。しかし、人間は常に合理的な判断をするわけではありません。非合理で感情的な「システム1」によって意思決定を行っています。
記事の冒頭で述べたとおり、AI活用が進めば進むほど、論理的な正解はどの企業も提供できるようになり、コモディティ化します。その時、最後に差をつけるのは「システム1」への共鳴力です。
AIには理解できない心のバイアスや文脈、一見非効率に見えるこだわりやストーリー。こうした情緒的な価値こそが、AIのアルゴリズムを突き抜け、生活者に選ばれる理由を作るのです。
これからのマーケティングは、「AIによる最適化」と、「人間による価値創生」のハイブリッド戦になります。AIという強力な武器を使いこなしながらも、最後は人間の知性で生活者の隠れた本音を読み解き、新しい「生活文化」を創り出す。これこそが、AI時代のマーケターに課された究極のミッションと言えるでしょう。
断片的な接点を、途切れることのない一連の体験へとつなぎ、互いに響き合う重層的なつながりへと編み上げる。この創造的な飛躍こそが、AIには代替できない人間ならではの領域であり、私たちが目指すべき「至高のCX」なのです。
【次回予告】実践のヒントを探る
最適化の罠に陥らないための戦略概念は見えました。では具体的に、どうのように「価値創生CX」を実践すればよいでしょうか?次回は事例を通して、そのヒントを探ります。
※本記事は制作中の書籍の情報を含みます。図版など一部が刊行時の内容と異なる可能性があります。
書籍のご紹介
本記事は、5月刊行の書籍『至高のCX 生活文化の形成を見据えた「新しい顧客体験」の戦略と実装』の一部を抜粋・再構成したものです。書籍では、価値創生CXモデルの概要や、実現のためのステップを詳しく解説。さらに9カテゴリのケーススタディとフレームワークを用いて、価値創生CX設計の勘所を学べます。
「低迷する既存ブランドを回復させたい」「戦略に変化が必要だが、何を変えたいかわからない」という悩みにお答えする1冊。ぜひ、ビジネスにお役立てください!


