マツダが挑む「人とITの共創」、改革のロードマップとは
続いてのセッションではマツダの常務執行役員兼CIO(最高情報責任者)を務める木谷昭博氏が講演。同社の1960年代から続くDXの歴史を背景に、2030年に向けたビジョンを語った。
マツダはかつて、3次元データを活用したバーチャルテストにより、相反する領域である“走り”と“環境性能”を両立させた「SKYACTIV(スカイアクティブ)エンジン」を生み出した。1990年代後半から開始した「マツダデジタルイノベーション(MDI)」を2010年から価値創造のためのDXのフェーズに移行し、現在はその知見を全社領域へ拡大。組織風土と業務構造の改革を両輪で進めている。「2030経営方針」の柱の一つである「人とITの共創による価値創造」実現に向け、生成AI活用をはじめとするDX推進活動に取り組んでいる。
たとえば、財務部門などでエッセンシャル業務(決算や資金管理)の工数を半分以下に削減して意思決定支援など付加価値業務へシフトさせる取り組みが進行中だ。また、保健師による健康ビッグデータの分析や、広報部門でのリリース作成にもAIが活用されている。今後、全社のデータ連携基盤の構築とAX(AI Transformation)による業務変革をリードすべく、経営ダッシュボードの構築などの試みも進行中だ。
コスト削減や自動化の先にある、AI活用で目指すゴール
セッションの後半は、木谷氏とアドビのマニッシュ・プラブネ氏による対談形式で進められた。まず、プラブネ氏から一連のDX変革実行の原動力について問いかけられた木谷氏は、社長からの「もっと加速し、大胆に」という後押しがあったエピソードを紹介した。マツダ社内の独自制度として立ち上げられた「AI道場」を筆頭とした取り組みの成果も現れており、スムーズに会社として投資する体制ができたという。
右:マツダ株式会社 常務執行役員兼CIO(最高情報責任者) 木谷 昭博氏
木谷氏は「繰り返し作業をAIに置き換えるのは、実は簡単ではありません。正確性を追求していくと、実は自分たちの業務基準の定義不足が課題とわかりました」と振り返った。マツダにおけるDXの柱の一つは、ITシステム開発・運用のAI化である。GitHub Copilotなどの導入によりコーディングの自動化が進む中、木谷氏は、外部パートナーに任せきりにするのではなく、自社でレビューし効率化をコントロールする重要性を説いた。
さらに、AIによって人の仕事が奪われるという世間の懸念を木谷氏は否定する。「AIで仕事がなくなることはなく、むしろ取り組みたいことがたくさんあります。自動化で浮いた力を、より素晴らしいシステムを作るために使っていきたい」と木谷氏。この言葉に応えるようにプラブネ氏も、マツダの変革が単なるコスト削減ではなく、社員がよりクリエイティブな領域へとシフトするための挑戦であると強調した。
AI活用は自動化がゴールではなく、人間がより判断や設計に集中できる環境を整え、製品の品質と創造性を高めるための組織全体のアップグレードを意味することが対談を通して示された。
そして2030年の目指す姿としてマツダが掲げるのは、「人」の能力の最大化と価値創造業務への集中だ。トップダウンの強い意志と、AI道場のようなボトムアップの取り組みが同期したことで、同社のDX/AXは加速している。

