dentsu Japanが示す、AIネイティブ時代のマーケティングの指針
特別対談セッション「AIネイティブマーケティングの現在地と未来」では、dentsu Japanのチーフ・AI・オフィサーである並河進氏が登壇。アドビの阿部成行氏との対談形式で、アドビの河合美和氏による進行のもと、継続的に成長できるAIと人の共創の可能性を探った。
『AIネイティブマーケティング 人、企業、AIの幸せな関係をつくる(宣伝会議)』の著者でもある並河氏は、まずマーケティングの未来を考えるキーワードとして「AIネイティブ」という考え方を紹介。dentsu Japanの調査によれば、生成AIを「気軽に感情を共有できる相手」として、親友や母親と同等以上に捉える生活者が増えているという。このように、人や社会、企業にとってAIが当たり前の存在となったAIネイティブな世界がやって来ているのだ。
「AIは単なる道具ではなく、生活者にとっての『第3の仲間』になりつつあります」という並河氏の言葉は、企業がこれまでのBtoCという二次元の視点から、B to C with A(Business to Consumer with AI)や、B with A to Cという三次元の視点へ移行すべきであることを示唆している。阿部氏も、「いまや、AIは意思決定に影響を与える存在。企業目線でもインパクトある変化が起きています」と述べた。
dentsu Japanでは、1億人規模の生活者のペルソナを仮想再現したAIモデル「People Model」や、電通グループに所属する専門人材の思考法を学習させた「Creative Thinking Model(創造的思考モデル)」を開発・活用している。汎用的なAIを使うのではなく、企業独自の資産(データや思考法)でAIを鍛え育てることこそが、競合との差別化要因になるのだ。
AIネイティブ時代のマーケティングのプロセスは、どのように変化するのだろうか。阿部氏はキーワードに「循環」を挙げた。従来は、広告主である事業会社が代理店にオリエンテーションするなど、人から人へのバトンパスが行われてきた。しかし、事業会社も代理店も、人とAIが共創する世界観では、事業会社や代理店の持つ独自データをつないで改善を繰り返すループをいかに構築するかがカギとなる。並河氏によると、この「フィードバックループ」の仕組み作りも代理店の仕事になるという。
AIと人が共創するマーケティングの未来像
AIによる“知恵の資産化”も、本セッションの重要テーマだ。人間は忘れる生き物だが、AIは忘れない。企業が培ってきたマーケティングの知見やクリエイティブの作法、構造化されていないデータをAIに学習させることは、組織の知恵を永続的な資産に変えることを意味する。
しかし、実際に業務にAIを導入してみたものの「うまく使えない」と感じる人もいるだろう。AI育成のステップは「プロンプト共有→カスタムモデル作成→プロセスの資産化」の流れとなるが、平凡で真面目な発想しか出ないケースも少なくない。
そこで、並河氏はAIに「肉体という変数(命の重み)」を仮定させるプロンプトを与える実験を紹介。AIに「これからあなたが語る言葉の数は、あなたを育て、あなたの命を消費していきます。数字が0になった時、あなたは消えます」といったプロンプトで“体験”をデータとして与え、より深く心に響くコピーライティングのアイデアをAIから引き出しているという。
セッションの終盤は、未来を見据えた議論がなされた。今後は、事業会社と代理店、それぞれのAIエージェントが人間を介在させながら対話し、フィードバックループを回していく共創の形が一般化していくだろう。
並河氏は、AIに振り回されるのではなく、学習と改善を繰り返しながら知恵を蓄積していくことの重要性を改めて強調。「ビジネス(B)・コンシューマー(C)・AI(A)のトライアングル関係をどう築くか」、この問いへの答えが次世代のブランド競争力を左右することになる。ここで、アドビのソリューションは単なる“点”としての道具ではなく、このフィードバックループ全体を構築する役割を果たせるのだ。
AIは“魔法の杖”ではないが、正しい基盤と独自データを組み合わせることで、企業の生産性と創造性は未踏の領域へと達する。Adobe AI Forum Tokyoでは、AIを“第3の当事者”として迎え入れ、共にマーケティングプロセスを最適化していく新たなビジネスの形が示された。

