良い売上をもたらす「積極ロイヤル」
西口:そうですね。では1の「積極ロイヤル」と2の「消極ロイヤル」では、どちらの層が大事でしょう。
MZ:1ですか? でも、積極と消極の違いがまだピンときていません。
西口:簡単にいうと、積極は離反しにくい人。消極は離反しやすい人です。同じくらいたくさん購入や利用していても、その心理を見ると、実は差があるのです。
2の消極ロイヤル層は、売上を支えてくれる点では貴重な存在ではありますが、この数が多いと非常に危険です。「次も買いたい」という明確な意思がなく、ブランドへの愛着がないため、強力な競合が現れたり、少しでも値上げをしたりすれば、一瞬で他所へ流れてしまいます。
たとえば売上が安定している人気スーパーでも、近所にもっと便利で安価な競合スーパーが登場すると、一気に客足が途絶えることはめずらしくありません。ロイヤル顧客は多くても、実態は消極ロイヤルが大半を占めている場合、ある日突然、顧客がいなくなる事態を招きます。
MZ:売上総額だけを見ていると、その危機に気づけないということですね。
西口:はい。ここで、前回の「良い売上」との関連をお話しすると、1の積極ロイヤルが一番「良い売上」をもたらしてくださる顧客です。この方々はプロダクトの価値を深く理解し、自ら進んで選んでくれる、「良い売上」の源泉です。積極ロイヤル顧客が多いブランドや事業ほど、安定しているといえます。
ですので、全体の購入額や購入頻度を高め、図の左側から右側セグメントに移行していただくこと、また消極的な層を積極的な層へと変えていくことが、マーケティングの重要な役割になります。そうして、積極ロイヤル顧客を増やすのです。
「どのセグメントからどこへ動いていただくか」を考える
MZ:全体的に、左下から右上への移行を促すことが、つまり「良い売上」の積み上げになる、と。
西口:その通りです。実は、「5segs」にも「9segs」にも別途、図に「顧客動態(顧客の動き)」を書き込んだ「カスタマーダイナミクス」があります。少し複雑ですが、9segsのカスタマーダイナミクスは次のように表せます。
MZ:なるほど。考えてみれば、顧客の状態は常に変化しているのですね。あるブランドを昨日まで知らなかった人は未認知で、今日知ったら認知、さらに購入に至ったら一般顧客になると。
西口:そうなんです。企業の視点では見落としがちですが、自分が顧客の立場で身の回りのブランドを思い浮かべると、わかると思います。顧客は常に動いている、動態なのです。その前提で、今の商品の状況を踏まえて、優先的に働きかけるべきセグメントを決めます。そして、そこからどのセグメントへ移行していただくのか、そのためにどうするのかを考えます。
表面的な売上の増減の裏側で、どのセグメントがどう動いているのか。特に、離反されるとインパクトが大きい消極ロイヤルがどの程度いるのかを意識することは、経営におけるリスク管理そのものです。
もちろん、新人や新任マーケターの方が急に経営の視点を持つことは難しいと思いますし、そう求められてもいないでしょう。ですが、ご自身が今向き合っている業務で「どんな顧客のどのような心理や態度変容を促すのか」を具体的に考えることは、仕事において必ずプラスになるはずです。
MZ:顧客の解像度を上げることで、無駄な投資を避け、「良い売上」を増やせるようになるのですね。
西口:はい。顧客をきちんと分類して捉えると、マーケティングはもっと精度高く実行できますし、より顧客に喜ばれる活動になります。次回は、事業成長と「価値」の関係と、良い売上を伸ばすための3つの法則を解説します。
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