長い尻尾、短い尻尾
私は、「ロングテールの法則」は、人生でも、ビジネスでも、「使えない」と思う。その論拠を示してみよう。
まず人生や日々の生活では明らかに使えない。自分の過去・現在・未来を、ロングテールの法則で考えてみても収穫は特にない。明日、1カ月後、1年後、あるいは今この瞬間に何をするべきか、ロングテールの法則を使って考えても、何も決まらない。
ではビジネスではどうか。ビジネスで「使える」とは、要するに「儲かる」ことだ。あなたのビジネスは、ロングテールで「儲けられる」だろうか。
「ロングテールの法則」を成立させる条件とは?
まず、私のビジネスである「お客様事例の制作・コンサルティング」。商品が1種類しかないので、「尻尾(テール)」が作れない。今この原稿はファミリーレストランで書いているのだが、ここにしてもメニューは50種類ぐらいしか載っていないので、やはり尻尾は伸ばせない。では日立金属工具鋼はどうか。営業対象である町工場はロングテールかもしれないが、商品である工具鋼はおそらく百数十種類ぐらいではないだろうか。ロングテールと呼ぶには長さが足りない(※1)。
一方、オンライン書店のGoogleアドワーズの尻尾も長い。キーワード広告は、検索キーワードの数だけ存在する。人々の検索ニーズは多様であり、何十万、何百万通りもある。だから尻尾も十分に長くできる。
ビジネスにおいて、「ロングテールの法則」を成立させるには、尻尾を十分に長くするほどの「商品点数」がなければならない。さらにネットの活用でコミュニケーション費用(販売管理費)を最小にし、かつ在庫リスクからも解放されていなければならない(在庫の問題については後述する)。
そんなビジネスは、世の中に多くはないはずだ。アマゾン(書籍&CD)、グーグル、ヤフー(キーワード広告)、iTunes(音楽)、とっさにはそれぐらいしか思いつかない。
ロングテール的思考の危険性
「キーワード広告への出稿。ロングテール手法の活用」などのマーケティング・プランを実施したとしても、それはロングテールで儲けていることにならない。単に、グーグルから見てその人がロングテールの一部であるというだけだ。その人は、尻尾の一番後ろにくっついただけのことだ。
しかし、尻尾の後ろに並んだだけなのに、自分は最先端のロングテール・マーケティングをしていると「錯覚」してしまう人が後を絶たない。そうであるなら、ロングテールとは、「使えない」だけでなく「危険な」コンセプトでもある。
私は、キーワード広告を否定しているのではない。そういう広告を出して投下した資金以上の売上が上がるのなら、それは素晴らしいことだ。だが、「ロングテール時代のマーケティング2.0」といったタイトルのセミナーが開かれているのを見ると、直感的に思うのは、ロングテールとは、たぶん供給側にとって都合のいい言葉である。
私は、キーワード広告を出稿している中小企業の経営者の1人であるわけだが、この私の状況は、「ロングテール」と呼ぶよりは「BOP(ボトム・オブ・ザ・ピラミッド)」と呼ぶ方が的確なのではないかと思う。