自分はピラミッドのどこにいるのか?
BOP、すなわち「ピラミッドの底」とは、中国やブラジル、インドなどの大多数を占める貧困層(下流社会のそのまた下)のことである。従来、この層はいくら人数が多くてもビジネスの対象とはならないと思われていたが、最近その概念が変わってきているという。
BOP層は、物やサービスを買うときに割高な買い物を強いられている。それはなぜか? 著書『アマゾンのロングテールは、二度笑う』で知られるコンサルタントの鈴木貴博氏の分析を見ていただきたい。
「彼らがどのような割高な買い物をしているのかというと、『ネクストマーケット』によれば、たとえばBOP層が水道水を手に入れるのにかかる価格は、普通の層にかかる価格の実に37倍だそうです。下痢止めのクスリは普通の層の約10倍、電話代も1.8倍の価格で購入しています。これを「貧困による割り増し」と呼ぶそうです。」
「なぜ「貧困による割り増し」が生じるのでしょうか。たとえば通信のようなサービスでは、大口ユーザーはVIP待遇の割引を受けることができます。特に、大企業同士が激しくしのぎを削って顧客を奪い合うような市場であれば、なおさらです。そのように激しい競争のターゲットとなるのは、BOPではなく中流以上の普通の市場です。ですから電話代にしても運送代にしても、普通の市場の方が安くなるわけです。大企業は、BOP層に見向きもしませんから、顧客を獲得するための割安な価格設定といったことは行われません。その分、BOP層の顧客が支払う単価は高くなります。」
「実は、このようなBOP市場に目をつけて成功している企業が出始めています。たとえば日本でもおなじみのP&Gです。P&Gは、インドのBOP市場向けに、ブランド品のシャンプーを一回一回使い切りの小分けパッケージにした商品を販売しているそうです。これなら日給生活をしているBOP層でも、シャワーを浴びに行くときに買えばよいということで人気を集めています。小分けにしたために単価はとても安いのですが、利幅は十分にとれます。」
(以上、鈴木貴博 著『アマゾンのロングテールは、二度笑うより引用)
ここまでの文章、「P&G」を「グーグル」に、「シャンプー」を「キーワード広告」に置き換えれば、まんまキーワード広告業界の描写ではないだろうか。従来の常識なら、全国に向けて広告を打つことなど夢のまた夢であった中小企業(大手広告代理店から見た場合のBOP層)に、グーグルが広告をキーワード別に小分けして販売してくれるようになったという構図だ。
自分を「BOP」なんて呼ぶのもどうかという話もあるが、「ロングテール時代のマーケティング2.0」といった浮き足立った表現を使うより、はるかにマシだと思う。その意味では「BOP」は、理論やキーワードで浮かれそうになる自分を正気に戻させるための「使えるコンセプト」かもしれない。
続いて後編では、ロングテールビジネスの代表的存在であるアマゾンについて分析し、「ロングテールビジネスとはなにか」、その実体を探っていこう。
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