一般的な会員化シナリオ
Wroblewski氏の紹介事例から、はじめに、ごく一般的な「まずは会員登録」による会員化シナリオを紹介します。
旧来の「まずは会員登録」の事例
動画共有サイトの一つ、Google Videoを例に挙げます。ユーザーはGoogle Videoに訪問し、色々な動画を見ていく中で、自分もウェブ上に動画を公開してみたいと思います。そこで、「ビデオをアップロードする(Upload Video)」を押すと、その機能を利用するためのアカウント作成を初めに求められ、以下の会員登録ページにたどり着いてフォームへの情報入力を求められます(図1)。
上記は非常によくある流れであり、一般的ではありますが、突然会員登録を求められることに抵抗を感じるユーザーもいると思われます。
そこで、近年では会員登録を経ずに、まずはユーザーにサービス体験を与えて関心を高めたうえで会員化する方法をとったサイトが現れつつあるようです。そのような「会員登録」をユーザーに明示しない事例を次にご紹介します。
「まずは会員登録」させない会員化事例
jumpcutは、上述のGoogle Videoと同様のオンラインの動画共有サービスです。 jumpcutのトップページをご覧ください(図2)。トップページの主要な誘導口として、「Make a Movie」「Try a Demo」のボタンが提示されています。jumpcutの狙いとしては、とにかく自分たちのサービスがいかに良いものか、まずはユーザーに伝えたいことにあるようです。【注】
【注】図2,3は著者のキャプチャ画像を流用したものです。現在のjumpcutはYahoo!に買収され、サービス利用のためにはYahoo!アカウントの入力を求められます。
「Make a Movie」をクリックすると、さっそく動画のタイトルを設定するためのフィールドといくつかのオプション指定が提示され、動画のアップロードが行えます。動画をアップロードした後は、編集を加えたり、デザインを自分好みに変更したりする機能が使えます(図3)。
段階的な成約で会員登録数の向上を狙う
注目すべきは、ここまでの動画アップ・編集機能の利用には、会員登録を求められないところです。この後、実際に動画を公開・共有する時になって初めて登録を求められます。会員登録を後回しにすることで、jumpcutはユーザーに一旦サービスを体験してもらうことができ、その良さを具体的に理解してもらう機会を得たと言えるでしょう。
ユーザーからの信頼を得れば、会員登録への障壁は無いも当然でしょう。 Wroblewski氏は、このように徐々にユーザーとの関係を深めながら成約に至ることを「gradual engagement(段階的な成約)」と呼んでいます。
jumpcutの例では、ユーザーに対して単なるデモを見せたのではなく、実際のサービスに参加させたこともポイントとなりそうです。ユーザーが享受したのは紛れもない真のサービスですので、それに対して多少なりとも恩義を感じる可能性があります。
一般的に、人は誰かに親切にされるとその恩義に報いたいという心理が自動的に生じるため(返報性)、上記の場合でも「会員登録ぐらいしてもいいか」という心理になりやすいと言えます。
また、サービス利用時にユーザーが何らかの情報登録をしていれば、その時点である種のスイッチングコストも発生しており、「せっかく使ったんだしもったいない」という心理も生じるでしょう。
ウェブ上で何らかのツールを提供しているサイトであれば、思い切って一部をユーザーに開放し、ある程度サービスを体験してもらうことを検討されてはどうでしょうか? サイト訪問者の会員登録率の向上に有効かもしれません。
参考: Luke Wroblewski , "Sign Up Forms Must Die" (A List Apart) Translated with the permission of A List Apart Magazine and the author[s].