Webはヒアリングツール兼コミュニティの発生場所に
番組開始当初は、制作スタッフ周辺をモデルに行われたプロファイリングだが、平均的な30代の日常を描くという番組の特徴からも、リスナーの共感を得られるよう、さまざまな形でリスナーの声を取り入れていった。その手段として活用されているのが、番組公式サイトを含めたさまざまなWebサイトである。
例えば、番組サイトでは「日本全国30代サラリーマン実態調査」というコーナーを設け、アンケートを実施。「実際にリスナーが何を考えているのか」という情報をモニタリングし、リアルな社会の雰囲気を番組内に取り込めるようにしている。番組終了直後に安部礼司が毎回更新する公式ブログにも、感想やリスナーの日常生活の悩みなどが多く寄せられ、番組内に活かされている。
番組スタート時はちょうどSNS『mixi』がブレイクした頃と重なり、mixi内に番組ファンコミュニティが立ち上がったことも、リスナーの生の声として参考になったという。番組を離れた場所で、リスナー同士が横の繋がりを持ち始め、クチコミ現象が起こったのだ。番組の盛り上がりにつれてmixi内のコミュニティも活発化、現在では8つの関連コミュニティが作成され、総登録者数は1万7千人を超えている。

また、ラジオを聴きながらmixiコミュニティ内で実況コメントをして盛り上がるリスナーが現れるなど、従来パーソナルメディアとして位置づけられてきたラジオも、時代によって聴かれ方が変わってきているようだ。
「これまでラジオと言えば、家や車の中などのプライベートな空間で聴かれるメディアでした。それが今では、ブログやSNSを介して『みんなで一緒に聴く』という形が一般化している。これは10年前だったら考えられない新しいラジオの聴かれ方でしょう」(嶋氏)
重要なのは、リスナーの信頼を裏切らないこと
このように、番組サイトの調査コーナーや公式ブログ、mixiなどが、今までなかったコミュニティの受け皿としてうまく機能したことで、「どれだけの人がこの番組を聴いているのか」を体感する場となり、クチコミやリスナー同士の連帯感の活性化にも役立っている。
実際の視聴者の動向や属性などが見えづらいのが従来のマスメディアの特徴といえるが、『あ、安部礼司』ではWebをリスナーとのコミュニケーションツールとして活用しながら情報をうまく拾い上げ、番組に反映させている。こうした、参加型の2WAY企画に通底しているのが、リスナーとの信頼関係を大切にし、自発的な行為を行ってもらうよう配慮するということだ。
「リスナーの信頼を裏切らないことが、最も気をつけている点です。もちろん、リスナーの方々も、コメントをスタッフが読むのだろうということはご承知でしょうが、そうは言っても『“安部礼司”とコミュニケーションしているんだ』という世界観を壊さないことが大切。マーケティング的なものに利用されているという風に感じると、リスナーは答えてくれません。リスナーからの番組への信頼を尊重したアクションを取り、楽しんでもらえるように心がけています」(坂野氏)