全社的なサーチマーケティング対策
サーチマーケティングのガイドライン作成
最初の施策として、私が本社チームに対してサーチマーケティングのトレーニングを行い、チームと一緒にサーチマーケティングのガイドラインを作成しました。このガイドラインには次のような内容を記載しました。
- 会社が取るSEO対策の方針と方法
- 各支社で行える決定事項や変更事項など問題が発生した場合の対処方法
- レポートなどの統一ルール
- 本社と支社間の決定や報告などの流れ
- 代理店に任せる作業内容
こうしたガイドラインを徹底させる事で、サイトの色やメッセージを統一し、ブランドのイメージやキャンペーンの目標をどの市場においても統一することができます。

全体サイトマップの作成と地域設定
次に、すべての市場向けサイトと言語サイトが本社の.comドメインを使っていたので、サイト全体のサイトマップを作成し、Google向けの地域設定(Geo Targeting)を行いました。その結果、各サイトが市場や言語に対して正確に表示されインデックスされるようになりました。市場ごとに、別々の代理店に任せていた時には対応できていなかったポイントでした。
体制やツールの見直しと社内教育
広告代理店の見直し
また、同時に契約代理店に関しても「SEOと広告の両方のサービスを提供できる会社はどこか」「複数の国や言語を担当できる会社はどこか」といった点を見直し、5社にまで減らしました。
他部署向け説明会の実施
社内のサーチマーケティングに対する理解度を向上させて協力を得るために、IT、広報、製品開発など他の部署向けに説明会を持ちました。ここでは、イン・ハウスチームが行うサーチマーケティングが会社全体にもたらす利点に触れながら必要性を説明し、各部署が取り組んでいるプロジェクトの多くにおいてサーチマーケティングが役に立つこと、イン・ハウスチームとのコミュニケーションの大切さを説明しました。
ITチームがサイトのデザイン、コードやタグなどのSEOを理解することで、ウエブサイト完成後に最適化を行うといった作業を減らすことができます。SEO観点からの改善要求にも、抵抗が少なくなりました。
また、広報や製品開発部がキーワードの重要性や性質を理解することで、製品のネーミングやキャンペーン用のコピー、そしてプレスリリースなどの公表文書も検索に対して最適化させることが可能になります。実際、「他の部署が行うキャンペーンがウエブサイトや検索連動型広告に反映されない」「TVコマーシャルのキャンペーンがウエブサイトに反映されない」「キャンペーン用ウエブページのURLが雑誌広告に掲載されない」などといった問題が改善されました。

利用しているツールの見直し
本社および支社で使用している各種マーケティング関連ツールの見直しも行いました。第一言語もしくは第二言語として、最も多くのスタッフが使える英語をレポート用言語とし、ツールは英語でレポート可能なものを選びました。それまでは、日本は日本製のツールを、中国は中国製のツールを使用するという様に各国で使用するツールに統一性がない状態でした。しかし、多言語対応のツールが増えてきたこともあって、解析ツールや検索連動型広告用ツールなどを、全社で各種1つずつに絞りました。代理店に対しても、レポートはできるだけ英語で提出するように要求しました。
こうしたツールの統一は、日本語で作成されたレポートを日本支社で英語に訳して本社に提出するといった無駄な作業をなくすことができます。レポートによってレイアウトや内容が違うといった問題も無くなりました。
検索連動型広告での社内競合の回避
イン・ハウスチームで検索連動型広告キャンペーンの全市場レポートを見直した結果、対象地域・ブランドなどでいくつかの重複が見つかりました。そこで、各支社の担当地域を表にし、広告キャンペーンに徹底して反映させました。
例えば、各ブランドが実行していたキャンペーンの全てに「社名」が入っていることが調査の結果分かりました。そのため、社名/ブランド名に関わらず全社に共通するキーワードは1つのキャンペーンに集めて設定し、そのキャンペーン内に含まれる言葉はブランドレベルのキャンペーンに含まないことにしました。
また、『高級化粧品ブランドA』と『一般化粧品ブランドB』は“化粧品”や“口紅”など、一般的な化粧品カテゴリーのキーワードで競合している事が分かったので、どのキーワードをどちらのブランドがキャンペーンに含めるかを両ブランドのイン・ハウスチームで話し合い、決定しました。また「ブランドBは“高級”という言葉をキーワードに含まない」というようなルールも決めました。
イン・ハウスチームを中心にして、こうした調査/調整を行うことで、支社間で同じキーワードを競り合うといった問題を解消することが可能です。
体制を整えれば意思決定後の反映スピードが向上する
以上の様に、イン・ハウスチームを設定することで得た利点はいろいろとあるのですが、中でも最も大きなメリットと言えば、新製品やキャンペーンの方針に変化が出た場合や、会社の体制など何かしらの変化が起こった場合、素早くサイトや広告キャンペーンに反映できるようになった事でしょう。代理店だけでなくイン・ハウスチームもサイトや広告キャンペーンの変更/管理を行えるようにしたので、必要に応じて素早く変化を反映できるようになりました。
企業のサイズやビジネスの対象市場の数などによってイン・ハウスチームの形は多少違ってくるとは思います。しかし、ウエブサイトのデザイン、SEO対策、検索連動型広告、さらにはソーシャルメディア対策など、サーチマーケティング業務をイン・ハウスチームを通して社内でしっかりと把握し、各キャンペーンの目標を徹底させ予算管理を行う事は、どの企業にとっても大切です。社内でのイン・ハウスチームの立場を確立し、他の部署の理解とコミュニケーションを向上させることで、部署間に途切れの無い社内全体を横断したキャンペーン展開が可能になります。