目的はただ1つ。認知向上
はじめまして、協和発酵キリン コーポレートコミュニケーション部の長谷川一英と申します。このコラムでは、昨今注目が集まっているソーシャルメディア、iPadを活用したマーケティングに取り組んだ協和発酵キリンの施策実現に至るまでの舞台裏から、効果測定までをお話しします。これらのメディアを活用したマーケティングに取り組もうと考えている、広報・マーケティング関係者の方の参考になれば幸いです。
さて、本題に入る前にまず弊社について簡単に紹介させてください。
協和発酵キリンは2008年に合併してできた、まだ若い会社です。前身は「協和発酵工業」と「キリンファーマ」という、開発力に定評のある製薬企業で、「がん、腎、免疫疾患を中心とした領域で、抗体技術を核にした最先端のバイオテクノロジーを駆使して、画期的な新薬を継続的に創出し、開発・販売をグローバルに展開することにより、世界の人々の健康と豊かさに貢献する、日本発のグローバル・スペシャリティファーマとなる。」という事業ビジョンを掲げています。
他の製薬会社とは異なり、バイオテクノロジーに強みを持っています。なかでも抗体医薬と呼ばれる医薬品の研究開発に注力しており、世界標準にもなりうる優れた技術を持っています。
このようにしてスタートした協和発酵キリンですが、合併した会社の宿命というか、社名が変わったことで企業認知度が低下してしまいました。2009年12月に実施した調査結果によると、競合の製薬企業の社名認知率は80~90%だったのに比べ、当社は66%という結果でした。この結果を受けて、2010年の広報の課題は一般の方への社名と業態認知の向上と位置づけて活動を開始しました。
2009.12 企業認知度調査実施
2010.01 コミュニケーション(トリプルメディア)戦略立案
2010.02 パートナー企業開拓、全体スキーム構築
2010.04 プロジェクト始動 TV、公式HP、YouTube、webメディア、Twitter展開
2010.05 公式HP上のTwitter連動キャンペーン実施
2010.06 iPadアプリ公開
2010.09 企業認知度調査実施
製薬企業のコミュニケーション活動
製薬企業は信頼感や誠実さが非常に大切になります。これらが損なわれるようなコミュニケーション活動をすることはできません。その中で、競合他社はTVなどリーチが大きいマスメディアを有効活用しているケースが多く見受けられます。
具体的には、企業イメージを伝える広告や特定の疾患の啓蒙活動を行ったり、一般向け医薬品の広告を展開することで、社名や業態の認知を広く獲得しています。
当社の場合は、販売している製品はすべて「医療用医薬品(=処方箋の必要な医薬品)」です。医療用医薬品については、マスメディアを使った広告が薬事法などにより禁止されています。よって今までは少ない広告予算で企業姿勢を表現するTVCMを制作して、週に1回程度放映するということを行っていました。
しかし、これでは、認知率を上げるには不十分なのは明らかです。全く異なるコミュニケーション活動を考える必要があります。そこで、2009年から1年をかけて新たなコミュニケーションの手法を研究してきました。
新しいコミュニケーションという点からすぐに思いつくのが、ネットメディアの活用です。マスメディアの広告費は年々減少しているのに対し、ネット広告費は増加を続け、2009年はついに新聞広告費をも上回り、テレビにつぐ第2の広告媒体になったのです。
しかも、日本においてもTwitter利用者がすごい勢いで増えていました。私自身は、数年前から個人的にブログで情報発信をしていて、ソーシャルメディアのパワーもわかっていましたが、Twitterの威力には、計り知れないものを感じました。
ネットメディアを活用した新しいコミュニケーションを創っていこう、そう考え、具体的な戦略の構築を開始しました。戦略を練るにつれて、ネットメディアの展開だけでは、一気に多くの人に社名や業態を伝えるのは難しいこともわかってきました。そして最終的にたどり着いたのが、いくつものメディアを活用する、クロスメディアでした。この戦略のポイントは2つあります。
- 各メディアの特性を活かすことで、限られた予算の中で最も効果的なコミュニケーションを展開できる。
- ソーシャルメディアを組み入れることで、「ターゲットの皆さんに見に来てもらう」ではなく、「自ら出て行く」コミュニケーションを行うことができる。
マーケティングの目的、課題、ターゲットはまとめると、以下のように定義しました。
- マーケティング目的…2012年の新薬発売までに 社名と業態の認知率を上げること
- マーケティング課題…合併間もない会社で認知率が低い/TVCMは予算上大規模に実施できない/薬事法のもと具体的な製品の告知はできない
- コアターゲット…30-40代男性ビジネスマン