投資フェーズを終え、収穫フェーズを迎える動画サイト
膨大なトラフィックを生み出す動画サイト。可能性を評価されつつも、強固なインフラが必要なために目先を見ると“金食い虫”でしかなかったサイト群に、ようやく黒字化の見通しが立ち始めている。
世界最大の動画共有サイト「YouTube」は2010年に売上高が前年の倍以上に成長。2010年秋ごろから「黒字化する日は近い」という報道が目立ち始めている。一方、日本の雄「ニコニコ動画」は一足早く、2010年1~3月期には黒字化。動画サイトもビジネスとしての投資フェーズを終え、収穫フェーズを迎えつつある。
欧米の大手金融機関に所属するアナリストの予測を眺めてみると、YouTubeの2011年売上高は10億ドル(約800億円)を超えることが濃厚なようだ。対して、2月に発表されたばかりのニコニコ動画の2011年9月期の売上高予想は97億2000万円。対象期間が違うので単純に比較できないが、市場が日本に限られている中で、かなり健闘していると言えるのではないだろうか。
動画サイトがビジネスになることを証明しているのは、YouTubeのような巨大なサイトだけではない。実は収益面を見ると、YouTube以上に優等生なサイトがある。2009年10~12月期には黒字化を果たし、今年の売上高は「5億ドル」になるとCEOが宣言したそのサイトの名前は「Hulu」だ。
全米動画広告の約30%が視聴されるHuluとは?
調査会社comScoreがレポートした2011年2月のデータによると、Huluはアメリカで9番目に利用されている動画サイト。ユニークユーザー数は約2700万人とされている。
視聴者数だけを見ればそれほど大したことはないサイトなのだが、注目すべきは動画広告の視聴数。Huluでは2月中に動画広告が約11億3100万回も再生されている。時間に換算すると約4億5400万分。アメリカで流れる動画広告全体の再生回数が約38億3000万回ということだから、Huluでそのうちの29.5%が再生されたことになる。
なお、ユーザー1人当たりの動画広告視聴回数は48.1回。アメリカ全体の平均値である30.2回を大きく上回る。それだけヘビーユーザーの多いサイトだと言うことができるだろう。
こうした数字から察していただけるように、Huluは基本的には広告モデルで成り立つ、無料で視聴できる動画サイト。特定のクライアントソフトをダウンロードする必要はなく、Webブラウザから動画を視聴できる。
特筆すべきは、サイトで配信している動画コンテンツがすべて著作権者の許可を得て掲載している合法のコンテンツだというところ。『ザ・シンプソンズ』『BONES』といった最新の人気番組や、『特攻野郎Aチーム』『超音速攻撃ヘリ エアーウルフ』といった過去の名作、さらに1000本以上の映画やドキュメンタリーが配信されている。
米メディア大手がバックに控えるメディア連合=Hulu
では、なぜHuluにはそんなに優良なコンテンツが揃っていて、しかもそれを広告付きとはいえ無料で提供できるのだろうか。理由は、その誕生の経緯にある。Huluは2007年3月に設立。NBC UniversalとNews Corp.というアメリカの大手テレビ局・映画会社を抱える巨大メディア企業2社によるジョイントベンチャーで、当時は「YouTube対抗のサービスか」と報じられていた。
サービス公開は2008年3月からとなるが、業界をリードする2社が旗振り役を務めたことが奏功したのか、ローンチ時のコンテンツ提供会社の数は40社。2009年4月にはThe Walt Disney Companyも資本参加してメディア企業による大連合の様相を見せ、今ではFOX、NBCUniversal、ABC、MGM、MTV Networks、National Geographic、Paramount、Sony Pictures、Warner Bros.など260社以上からコンテンツ提供を受けている。
違法なコンテンツが含まれておらず、テレビ放送される優良なコンテンツが揃い、バックには業界を代表するメディア企業が控えている。そんな条件が整っていることから、Huluは広告主から支持されるサイトとなり、Johnson & Johnson、McDonald's、Visa、Pepsi、Nestle、Microsoft、Procter & Gambleに、トヨタ、ホンダ、日産といった625社以上の広告が入っている。