携帯でWebページを表示した場合は、JavaScriptは完全に無視されます。そのため、以前執筆した「JavaScriptを使ったアクセス解析とはなにか」で紹介したような、JavaScriptを利用したアクセス解析は、全く利用することができません。したがって、アクセス解析を行うには、サーバに記録されたアクセスログを解析するか、アクセスを記録する専用のプログラムが実行されたコンピュータをWebサーバとインターネットの間において記録を行うような方式が中心となります。
JavaScriptが使えないため、リンクをクリックした瞬間や、ページを閉じた瞬間など、クライアント側の動作のタイミングでアクセスを記録することもできません。また、クライアントの画面サイズや利用可能色数など、パソコンならJavaScriptで取得する情報も得ることはできませんが、これについては機種ごとにスペックが決まった携帯では、ユーザーエージェント情報から解析が可能です。
クッキーも使えない
続いて「クッキーを利用できない」という点です。クッキーについては、本連載ではまだあまり詳しく解説していませんが、サーバからブラウザに小さなデータを送ってそれをブラウザに保存してもらい、アクセスのたびにそれを送り返してもらうという仕組のことです。これを使って、「あるサイトにログインしているかどうかとか」といったことを保存させたりすることに利用されますが、アクセス解析にも重要な役割をはたします。それはアクセスしてきたブラウザごとに値の異なるクッキーを発行し、それを使ってブラウザごとに識別することで、いわゆる「ユニークユーザー数」を取得することが可能だからです。

こうしたユニークユーザー数測定用のクッキーを発行しているところは、大手サイトなども含めていくつもありますし、サイトに広告が掲載されている場合には、その広告データの配信元がクッキーを広告とともに配信し、それぞれの広告がどれだけ見られているのか、といったことに利用している場合もあります。しかし、携帯電話の場合は、クッキーを利用することも基本的にできません。auなど一部の携帯は対応していますが、こちらの場合もリファラー情報と同様に、その情報を使ってアクセスを測定するには、ちょっと偏りが強い傾向にあります。そのため、ユニークユーザー数を測定したり、ログイン状態の保持にはそれとは異なる方法を考える必要があります。
携帯電話とユーザーエージェント情報
ここまで、携帯電話でどんな情報が取れないか、ということをまず解説してきましたが、だめなことだけを列挙しても意味がありません。それでここからは、「取得できる情報からいかに解析を行うのか」という重要事項について説明していきます。
携帯電話からのアクセスのログを解析する上で、最も多くの情報が取得できるのは、ユーザーエージェント情報です。なぜなら、携帯電話のユーザーエージェント情報には「どのキャリアの携帯なのか」ということだけでなく、携帯の機種などの情報が埋め込まれているからです。以下にいくつかの携帯電話の送ってくるユーザーエージェント情報のサンプルを示します。
- DoCoMo/2.0 P903i(c100;W24H12)
- KDDI-SA39 UP.Browser/6.2.0.12.1.3 (GUI) MMP/2.0
- SoftBank/1.0/706SC/SCJ001/SN123456789012345 Browser/NetFront/3.3 Profile/MIDP-2.0 Configuration/CLDC-1.1
これを見るだけで、それがどこのキャリアの携帯なのかということが、大体見当がつくのではないでしょうか。(1)は、DoCoMoの携帯です。DoCoMo/2.0と書かれているのは、それがFOMAの携帯であることを意味しています。もし、FOMAではない携帯の場合は「DoCoMo/1.0」になります。その後ろにある「P903i」と入っているので、これがパナソニックの携帯P903iからのアクセスであることがわかります。
同様に(2)はKDDIという文字が入っていますから、auで、機種名は「SA39」です。(3)はSoftbankの携帯で、機種は「706SC」です。ちなみに「UP.Browser」や「NetFront」というのは、搭載している携帯向けブラウザの名前です。DoCoMoの機種の「c100;W24H12」はキャッシュ(つまりダウンロードできるページの総サイズ)が100キロバイトであり、その画面サイズが12文字×24文字であることを意味しています。
キャリアごとにユーザーエージェントのルールが
携帯電話では、機種ごとにその性能が決まっており、パソコンのように自分の好きなブラウザをインストールしているということはありませんから、これだけでユーザーの環境はかなりわかります(PC向けのサイトを表示するいわゆる「フルブラウザ」が搭載されている機種もありますが、その場合については後述します)。ユーザーの環境とは、画面の大きさや対応しているHTML(やXHTML)のタグの種類、どれだけのサイズのページを表示できるか、利用可能な絵文字、Flashが再生できるか、といったことです。
携帯で表示できる情報や表現力は、キャリアや機種によって大きく異なります。それは、携帯の古い機種を検証用に貸し出すサービスが成り立つほどです。アクセスしてきたサイトの利用者が、どんな機種を利用しているのかを解析することは、サイトをどれだけのキャリア、どれだけの機種に対応させるのか、という仕様を決定する上で、非常に重要な情報だといえます。「どんな機種がどんなユーザーエージェントを返すのか、そのルールはどうなっているのか」という情報は、各キャリアのサイト上で公開されているので、それを使って調べることができます。
携帯の機種は新機種がどんどん登場しています。それぞれのキャリアごとにユーザーエージェントに法則はあるものの、その解析にあたっては、新しい情報を使って解析を行わないと正しく解析できない場合があります。なお、フルブラウザ(PCサイトビューワなど)を搭載した機種で、それを使ってアクセスをしてきた場合は、上記のユーザーエージェントとは異なるものが送られてきます。これは携帯電話のユーザーエージェントではサイトの内容が携帯向けに表示されてしまい、フルブラウザの意味がなくなってしまうためで、この場合は、よりパソコンのブラウザに近い情報が送られてくるようになっています。そのため、フルブラウザ経由のアクセスは、それを別に集計することが可能です。