経営会議までの2時間目が火ぶたを切った。
緊急対策本部のメンバーとして、広報室の丸山室長、広告宣伝部の勅使河原部長、お客様相談室の久保田室長、人事・総務部の阿部部長、法務部の難波部長の5名が集まった。
みんな、初めてのことで顔が緊張している。なかでも法務部の難波部長は腕組みをして微動だにしない。
これまでの1時間で調査したことを美咲から報告をして、できる限り早い段階で公式謝罪文を出すべきであることを提案した。それを受けて、広報室の丸山室長が一同に水を向けた。
「今回の一件は、わが社の社員がしてはならない犯罪行為をしてしまったことに端を発しています。ネット上の反応を見るまでもなく、早急に社としての正式な謝罪を行うべきだと思いますが、皆さんいかがでしょうか」
広告宣伝部の勅使河原部長がいち早く反応した。
「賛成ですね。一刻も早くしっかりとした説明責任を果たさなければ、会社や商品のブランドが毀損するリスクがあります。ベンダーや小売店への対応も踏まえ、至急謝罪文を公表すべきです」
人事・総務部の阿部部長が続いた。
「賛成です。今回の一件で社員や株主の中でも動揺が広がっています。なるべく早く社としての公式な見解を述べ、説明する義務があると思います。すでに株価への影響も見られます」
直接的な対応に追われていた、お客様相談室の久保田室長が勢いづいて主張する。
「賛成です。相談室には今日の朝からお客様よりお叱り電話をいただいています。その多くが、今回の一件が『事実であるのかどうか』の確認と、『謝罪の有無』です。企業の説明責任を果たす観点からも事実をきっちりと公表し、お詫びをするべきです。事態を曖昧にし続けると、多くの電話を受けるオペレーターたちの士気も下がってしまいます。ただでさえ今回の一件では、『お叱り』を超えた悪意のある誹謗中傷が多くなっています。これらの誹謗中傷電話のこと、『電凸』と言うのですか、初めて知りました。
その電凸とみられる電話は、午前中だけで28件もありました。どんどん増えている感覚です。オペレーターの中には『確かに社員がやった行為は悪いことだけど、なんでここまで言われなくちゃならないんですか』と涙ながらに訴えてくる者もいます。皆が『電話を取るのが怖い』と言っています。一刻も早く事態を収束すべく動くべきです」
会議室が「一刻も早く謝罪文を出すべきだ」という空気で満たされようとしたとき、腕組みをしていた法務部の難波部長が重々しく口を開いた。
「私は賛成しかねる」
続きは3月26(月) 12時に公開予定です。ぜひご覧ください!
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