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2年目の美咲、新たな困難に挑戦!『ソーシャルメディアマーケター 美咲2年目』発売特別企画 ─ 第5回

指令1~緊急事態発生!クライアントの炎上事故に対応せよ!(本書より転載/第5回)

 唯一、反対を表明した難波が、怒りを押し殺して語り始めた。

 「謝罪することについて異論はない。わが社の社員が罪を犯したのだから、当然説明責任を果たした後、問題を起こした社員には社の規定に則り適切な処分を与えるべきだろう。しかし、さきほど遠藤さんと伊藤さんに見せていただいたネットの書き込みや、お客様相談室にかかってきている悪意のある誹謗中傷については、はなはだ許せるものではない。これらの書き込みや電話をしてきた悪意のある者に対しては、わが社として毅然とした態度をとるべきではないのか」

 恐る恐る美咲が切り出す。

 「難波部長、『毅然とした態度』とは具体的にはどのようなことですか?」「法的な措置、具体的には名誉毀損で訴えることを検討するということだ」

 「法的措置!?」

 その場にいた全員が、あまりの驚きに言葉を失った。果敢にも美咲がその沈黙を破った。

 「難波部長、お気持ちはわかりますが、いまは誹謗中傷をしてきている人たちに対する法的措置を論じることよりも、一刻も早く正式に謝罪をし、企業としての説明責任を果たすことが最優先事項だと思います」

 「いや、だから謝罪文を出すことについては反対しませんよ。ですが、その謝罪文の中に、度の過ぎる誹謗中傷行為に対しては、社として名誉毀損なども含めた法的措置をとる可能性があることをしっかりと明記しておきたいということです。事実、今回の一件に乗じて、日本ビバレッジに対する悪意に満ちた都市伝説的な情報や、風説の流布(注10)ともとれる言説を流している輩もいるようじゃないですか。私は単に謝罪文を公表することには反対だ」

 難波の放った爆弾発言で、会議室には一気に緊張感が走った。

 お客様相談室の久保田が、それも一理ありと納得した顔で続く。

 「確かに、度が過ぎた攻撃的な電話は多いですね。お叱りには誠意を持って対応しますが、なかには端から会話をするつもりのない人もいます。こちらが何を言っても聞いてくださらず、オペレーターを『お前』と呼んだり、名前を聞き出そうとしたり、『社長を出せ』と脅してくる人もいます。私も、そういう人には何かしらの対応をしたいですね。心情的には、ですが」

 広報室の丸山、広告宣伝部の勅使河原、人事・総務部の阿部には、どのような対応が最適なのか、もはや判断できない様子だ。困ったわ、それぞれの立場の責任者だからこそ意見がわかれるのもわかるけど……。美咲が思い切って仕切り直す。

 「難波部長、久保田室長、お気持ちはわかります。確かに、ことに乗じて悪意のある誹謗中傷をしてくる人が少なくないことも事実です。しかし、謝罪文に法的措置の可能性を示唆する一文を入れることについては反対です」

 難波部長が怒りをあらわにした表情で美咲に問う。

 「ほう、それはなぜですか。遠藤さんはこうした書き込みや電話が正当なもので、弊社には甘んじて受け入れろ、とおっしゃるのですか。客なら何をやってもいいんですか!」

 難波の剣幕に圧倒されながらも、美咲はきっぱりと断言した。

 「残念ながらそうです。難波部長、久保田室長、いま、ネットの中は日本ビバレッジへの不信感で満たされています。感情的になっている方も多く、非常にセンシティブな空気が できあがってしまっています。そんなとき、日本ビバレッジが出す謝罪文に『法的措置を検討する』なんて一文があったら、炎上が鎮火に向かうどころか、真逆に向かってしまいます。取り返しのつかない事態に向かってしまうリスクがあるんです。感情的になっている方々に対して、さらにその感情を逆なでする行為は絶対に控えるべきです」

 いい加減、うんざりした顔で難波がさえぎる。

 「遠藤さん、もうね、感情うんぬんはどうでもいいんですよ。要は法的にどうなのか、ということなんです。こちらも法を犯したことについてきっちりと落とし前をつけるわけですから、相手にも同じことが言えるんじゃないのか、ということなんですよ。業務妨害や名誉毀損で訴えることは不可能じゃないはずです」

 そうきたか。やっぱり法務部の部長だけにそう言いたくなるわよね。

 「お気持ちはよくわかります。ですが、世論は感情で動きます。特に炎上時において、その傾向は顕著です。以前、ある企業が炎上してしまったとき、謝罪文に『社や個人の名誉を毀損するなどの明らかな違法行為については法的措置をとる方針である』と、法的措置について示唆したことがありました。結果、『逆ギレ』ともとれるこの対応に対して、炎上は鎮火に向かうどころか、さらなる批判や抗議を招き、謝罪文を発表する前よりも大きな大炎上となってしまいました。いま私たちがしなければならない最優先事項は、してしまったことに対して説明責任を果たし、しっかりとお詫びをすることではないでしょうか。一刻も早く、お客様や取引先、社員の不安や不信を解決することに集中しましょう」

 一刻も早く、お客様や取引先、社員の不安や不信を解決することに集中しましょう」過去の事例を知って、難波と久保田もしぶしぶ納得したようだった。

 時計の針は14時を指そうとしていた。予想外のところで時間をとられたが、広報室、広告宣伝部、お客様相談室、人事・総務部、法務部として、一刻も早く謝罪文を公表すべきとの統一見解に至った。ふぅ~、ようやくここまで来たわ。美咲は大きく深呼吸をひとつ入れた。経営会議まで残すところあと1時間。いよいよ最大の山場を迎えようとしていた。

注10 風説の流布

 有価証券の価格(主に株価)を意図的に変動させることを目的に虚偽の情報を流すこと。風説の流布と認められた場合、金融商品取引法によって罰せられる。相場の変動を目的としない意図的な虚偽情報の発信や拡散は「風説の流布」にはあたらない(その場合は業務妨害罪などで罰せられる可能性がある)。

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謝罪文の構成要素

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MarkeZine(マーケジン)
2012/03/26 12:00 https://markezine.jp/article/detail/15333

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