ビッグデータがマーケターから注目される理由
ビッグデータが増殖する背景には、「ソーシャルメディアの普及によって一般人がコンテンツを量産していること」「動画コンテンツが次々に生み出されていること」「スマートフォンやセンサーが波及することで、データ蓄積機械が拡大していること」ためと中澤氏は指摘する。
これまでも情報自体は存在していたが、活用できるだけの技術やインフラが整っておらず、ROIの面からも本格的な普及には至っていなかった。しかし昨今では、大量データを高速処理できる技術の進歩や、ハードウェアが進化しただけでなく、クラウドサービスによる低コスト化も相俟って、マーケティング活用するための環境ができ上がりつつあるという。また、個人(カスタマー)が自ら発する情報量が爆発的に増え、マーケティングに有用な情報が一気に増えている状況でもある。
「ビッグデータによって、分析精度や速度の飛躍的な向上が期待でき、予測モデルやレコメンデーションモデルを格段に進化させられるようになる。マーケターにとって非常にチャンスで、取り組むべきテーマだと思っています」(中澤氏)
ビッグデータがマーケティングにもたらすもの
ビッグデータを活用できるようになれば、何が変わるのだろうか。これから中澤氏が取り組んでいきたいと考えている具体例が紹介された。
分析精度・速度の飛躍的向上
買いそうな人、影響力のある人を特定できる可能性
実際、購買シェアを100%取ることは不可能。購買シェアを上げるという考え方ではなく、高額利用してくれる優良顧客を捕まえる。
今、求めている商品や情報を、より正確に予測できる可能性
従来のレコメンデーションモデルは基本バッチ処理によるもの。前日までの購買履歴や閲覧履歴を元にレコメンデーションしていた。リアルタイムのログデータを追加することができるようになれば、今ユーザーが欲している商品を提供できるようになるのではないか。
顧客ごとにベストなタイミングでプッシュできる可能性
定型的なDBではログのデータを表形式に落とさないといけないため、100ある情報を10までそぎ落としてフラグ化しないといけない。
本来、必要な残り90%のデータが使えず、分析の精度があがらなかった。ログの生データを大量に扱えるようになれば、飛躍的に予測の精度が上がると期待できる。
マーケティングオートメーションの高度化
モデル(ルール・パターン)の継続的な高精度化
ビッグデータの活用が最も進んでいるソーシャルゲームの世界では、データサイエンティストが中心となって毎日モデルをチューニングしている。バッチを待たずしてクイックPDCAが可能に。
顧客ごとに最適なアクションのリアルタイム化
ユーザーが次に求める情報や商品を先回りして提供することで、“今日買ってくれたら半額ですよ”といった店頭でのアクティブ感、インタラクティブ感をWeb上に持ち込めるようになる。
ビッグデータ活用のために必要なこと
今後、ビッグデータの活用ができるかどうかで、マーケティングパワーの格差が広がっていくと指摘する中澤氏。だが、ビッグデータ活用にはクリアすべき2つの大きな課題があるという。
課題1:データ・マネジメント
顧客の購入文脈を把握するため、商品選択・購買シーン以外での接点やコンテンツを用意し、マーケティング活用を前提とした豊富なデータを蓄積しておく必要がある。さらに、位置情報を取得できるアプリを配布するなどして、スマートフォンでの恒常的な接点の確保も欠かせない。
集めたデータをマーケティングに利用できる形で格納しておくことも大切だ。クッキーを用いて、顧客マスタとPOSデータ・アクセスログデータを紐付けておく。加えて、ログイン共通化などによって、顧客マスタとソーシャルIDの紐付けておくことも必須だ。
課題2:人材と組織
どんなにビッグデータを集めてシステムを組んだとしても、結局それを使うのは人間だということを忘れてはいけない。マーケティングオートメーションのためにシナリオを書くのは人間だし、エンジンをモデリングするのも人間。データを集めるための仕組みは情報システムの人間には任せられない。
とはいえ、人数もお金も限られた中で実現するためには、テーマを絞り、専門スキルを持つ人間を集めてタスクフォースを組むことが有効なのではないか。縦割りではなく、マーケター・データサイエンティスト・データマネージャーの3人一組でひとつのゴールに向かって動ける組織をつくらないと、うまくいかない。