自動入札ツールが日本で普及しなかった2つの理由
自動入札ツールが当時普及しなかった理由は、大きく2つあると考えられる。
日本市場との親和性の低さ
1つ目は「自動入札ツールと日本市場との親和性の問題」だ。
自動入札ツール発祥の地米国・英国で当初開発されたツールは、キーワード入札を効率よく最適化させるためのものであり、元々は、運用のプロセスよりも結果を重視するように設計されている。
そして多くの場合、その運用は広告主自身がおこなっている。一方日本では、リスティング広告の運用は、ほとんどが広告主に代わり広告代理店がおこなう。広告主と、これをサポートする広告代理店との関係、報酬の支払われ方なども、異なるともいわれている。
また日本では、広告主はリスティング広告の運用のプロセスも欧米の広告主よりも重視すると言われる。広告代理店は、キーワード毎の広告掲載位置など、広告主のリクエストに可能な限り応えるべく、細やかなサポートをしてきた。
既に完成された業務フローに、欧米の商習慣を汲み取って製品設計がなされた自動入札ツールを組み込むことは、なかなか難しい。その結果「人手で運用しても、自動入札ツールで運用をしても効果はそれほど変わらなく、広告主に従来のサポートをするには、かえって手間がかかってしまうこともあるし、利用料を支払ってまで導入するメリットがない」という広告代理店の話もしばしば聞かれた。
コスト負担の問題
2つ目の理由は「自動入札ツールのコスト負担の問題」だ。
広告主・広告代理店が自動入札ツールを利用する場合、通常リスティング広告取扱高の数%の利用料が発生する。リスティング広告業界では、広告代理店間の競争が激しく値下げ合戦が続き、十分な利益を取るのが難しいと言われている。
広告代理店が、数%のツール利用料を、媒体マージンの範囲内で吸収することは容易でない。他方、広告主側からすると、効率的運用、最適な運用は、そもそも広告代理店に支払うマージンに含まれているはずで、自動入札ツールの導入に、何故広告主が負担をする必要があるのか? という思考になる。
自動入札ツールの受益者は誰か? コスト負担はどちらがすべきか? 当時人手によるきめ細かいサービスモデルが完成されていた日本のネット広告代理店業界では、これまで自動入札ツールは広告主と広告代理店をWin-Winな関係にする魔法のツールとはなりえなかった。
したがって日本では、自動入札ツールを最初から組み込んだビジネスモデルで事業展開を始めたヴィクシアや、業界の第一人者が欧米のSEMエージェンシーさながらのコンサルティングサービスを提供しているルグランに代表される一部の事業者、一部のケースを除き、これまで自動入札ツールはなかなか浸透しきれないでいた。
2012年、自動入札ツールの導入が急増!広告代理店を中心に導入が進む。
しかしここ最近、自動入札ツールを取り巻く環境が、変わりつつあるようだ。
シード・プランニングは、2012年の4月~5月の2か月間にかけて調査したところ、2010年には200件程度だった導入件数が、2011年~2012年にかけて急増しており、2012年5月時点での導入件数は、推定で約1,200件と、2年で6倍にもなっているのである。
総導入件数1,200件※広告代理店による自社開発、OEM分は除く(シード・プランニング作成)
現在自動入札ツールは、ロックオン社のAD EBiS AutoBidや、ブレインパッド社のL2 Mixerなど、国内ベンダーの製品を中心に、導入件数を伸ばしている。
詳細を見てみると、大手広告代理店以外にも、これら国産ツールは、中小規模の広告主向けのサポートをする広告代理店への販路を広げているようだ。
導入件数においてNo.1シェアを持つロックオン社は、導入実績が5,000件を超える業界屈指の広告効果測定ツール「アドエビス」の拡販において構築した、強力な代理店販売チャネルを活用。
また利用者への手厚いサポート体制を強みとし、導入件数を急速に伸ばし、現在自動入札ツール市場全体の成長を牽引している。同社はまた、自動入札システムをリクルートと共同開発した実績も持つ。
かつて広告代理店と自動入札ツールを共同開発した実績を持つブレインパッドは、既成製品であるL2 Mixer以外にも、業界最大手級の広告代理店に対して、OEMによる自動入札システムの提供もおこなうなど、多くの自動入札運用実績を持っている。
このように、最近の国産ツールは、広告主ではなく、広告代理店への拡販で導入件数を伸ばしているのだ。
従来から広告代理店が自動入札ツールを導入する動きはあった。しかし前述したような「自動入札ツールと日本市場との親和性の問題」や「自動入札ツールのコスト負担の問題」といった理由から進まなかった導入が、なぜここに来て急速に導入数をふやしているのだろうか。
それには広告代理店とリスティング広告を取り巻く環境の変化が理由にあるようだ。次回の記事ではどのような環境の変化が起こっているのか、詳細を解説していく。
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