“ROIより露出重視”中国広告業界の実態
ネットの普及、発達を背景に、日本の広告業界はROIを重視する傾向にあるが中国の場合は事情が違うようだ。クライアントも「どれだけ費用対効果を向上させたのか」よりも「どれだけ露出できたのか」を重視する傾向にあるという。
「ネット広告が発達する以前の日本の状況と似ている部分があると思います。『ネット広告への出稿とマス広告へ出稿する感覚が同じである』と例えると、イメージしやすいかもしれません」(森氏)
このような状況なので、メディア側が公表している媒体データも信頼性が薄く、トラッキングタグを埋め込んでキャンペーンの効果を計測する習慣も、まだまだ日本のように根付いていないようだ。
「インプレッション、クリック数などメディアが公表している数値は、正直信頼性が薄い印象を受けます。裏を返せば正直にクリーンなビジネスをしっかりと展開すれば、それだけで差別化ポイントになると思います。また、中国経済の成長が落ち着いてきた段階で、ROIに対する意識も高まってくるのではと予想しています」(森氏)
“異常に儲かっている”中国ネット企業
EC最大手タオバオ、検索大手バイドゥなど日本でも知名度の高い会社をはじめ、中国ネット企業の業績は軒並み好調のようだ。
過去に日本でもネットバブルが起こり、その中で様々なサービスやビジネスが生まれ消えていった。今まさにバブルの状態にある中国ネット業界は、どのような成長の軌跡を描いているのだろうか。
「日本のネット業界のトレンドをざっくり振り返ると、ポータル、サーチ、そしてソーシャルという順番で成長してきた印象です。しかし、中国ではそれらの分野分けは無意味で、すべてが同時平行で伸びているイメージです。以前、弊社グループの役員が中国視察に訪れた際、『ウェブ1.0、ウェブ2.0、ソーシャル、アドテクテクノロジー、全てが同居して伸びている』という印象を語ったのですが、まさに的を得た発言だと思います」(森氏)
上海を歩いてみると気づくのだが、街中の広告の3割~4割程度がネット関連企業の広告という印象を持つ。これを見るだけでも、中国ネット業界の好調ぶりが想像できる。
「中国のネット人口は5億人と言われていますが、彼らからするとまだ5億という意識でまだまだ伸びると考えてます。競争が激しいため、いかに初期段階でユーザーを獲得するのかが、勝負の分かれ目となります。オンライン、オフライン関係なく広告・宣伝を大量に実施するのは、初期段階でユーザーからの信用を勝ちとるためです。そのため、初期投資は多大な金額となります」(高橋氏)
自社サービスに注力し、飛躍を狙う
このように、お国柄の違いという言葉だけでは済まされない中国と日本の違い。競争は激しく、時には柔軟な判断も必要とされるであろう環境の中で、今後、同社はどのようなビジネスの展開を描いているのだろうか。
「先に言ったように、現在は広告代理事業が柱となっていますが、今後はアドプラットフォーム事業を展開していきます。事業立ち上げのセンターピンは、やはり取引社数だと考えており、まずは自社で開発した広告主向けサービスDSP『MicroAd BLADE』を現地中国企業に拡販し、事業の軸に育てていくつもりです。
また、ビジネスのスケールを拡大させるために人材確保は欠かせません。現在は中途採用がメインですが、今後はマイクロアドチャイナとして、新卒を採用していく予定です。新卒から鍛えることで、日本人と同じような意識で働いてくれる人が増えると思います。新卒の中からスター社員を生み出す風土を作って、他の人がああいう風になりたいと思い、切磋琢磨する環境を生み出していきたいと考えています」と森氏は今後の展望について語ってくれた。
1年後の中国は誰にも想像がつかない
「『中国はどんな国なのか?』という言葉自体、あまり意味を成しません。例えば、上海と北京は同じ中国にありますが、違う国同士だと考えた方がよいです。1年後の中国は、誰にも想像がつかないと思います」
取材の中でたくさんの興味深い話を聞くことができたが、筆者は上記の言葉が最も印象的だった。筆者は大学一年生の時に、上海の復旦大学へ短期留学した経験がある。この言葉を聞いた際に、復旦大学の教授が同じように語っていたのを思いだしたのだ。筆者が留学してから15年近く経ち、上海の街並は劇的な変化を見せ、東京を凌ぐビル群が立ち並んでいた。1年後の上海はどのような景色に変わっているのだろうか、興味は尽きない。
