フェリカ、ガラパゴス化への道程
だから私などはその技術、ノウハウを世界に輸出すれば、日本の経済がもっと潤うのにと思うのだが、実際にはそうはいかないのだ。その壁が非接触ICのタイプA/Bという規格である。実はフェリカと同じ非接触ICでありながら、タイプA/Bは、国際標準規格(ISO/IEC IS 18092)を取得しているが、フェリカは取ることができなかった。そのため、現在も東アジアの一部と日本でだけ使われるローカル規格として甘んじねばならない。そのゆえ、欧米やアジアなどに技術を輸出しようにも、互換性がなく、国際基準に沿っていないという理由で断られるのである。
それにしてもなぜフェリカは、ISOが取れなかったのか。性能的に決してひけをとらないし、ライバルを上回る速度を持っている。それがなぜだめだったかというと、速さを出すために、金融取引に必須のセキュリティ面が少々おろそかになっていると見られたからだ。それで残念ながら、ISOの取得に失敗したのである。しかし、個人的には、これは欧米側のある種の「言いがかり」だと思っている。私は技術的な問題より、むしろ政治的・経済的な理由が強かったとみている。かつて、ジャパンアズナンバーワンと言われた日本を、「これ以上のさばらせたくない」と排除にかかったのだ。
NFC誕生のシナリオ
この結果、今に至るまでフェリカは孤立し、日本でだけ繁栄するというガラパゴス化の道を歩むことになった。しかし、ソニーとしてもこの状況は受け入れられない。先行するタイプA/Bとの共通化を試みようとした。そこでタイプAを代表する交通電子マネーのマイフェアを開発したオランダ・フィリップス社と組んで、フェリカとタイプA/Bがともに使える上位規格であるNFC(短距離無線通信規格)を開発した(2003年)。ソニーとすれば、これを元にしてフェリカとその他の規格に互換性を持たせて、フェリカの普及を促進させようとしたのだが、その思惑は見事に外れた。
ケータイ、スマホに決済機能を載せる際に、世界のキャリアやメーカーは、NFCを搭載することには同意したのだが、対応するのはタイプA/Bだけで、フェリカはコストがかさむとばかりに外しにかかったのだ。これなどは、欧米派のたくらみではないかというほどの徹底さである。iPhone5にNFCが入るという時もフェリカは抜きになりそうだというので、Suicaが使えると当てにしていた私は失望したものだ。
これからはスマホでクレジット決済が可能に
とはいえ、iPhone5にNFCは載らなかったわけで、国内のフェリカ派はホッと胸をなで下ろしている。仮にiPhoneにNFCが標準装備されていたら、今頃はその対応で全国の小売店はてんてこ舞いになっていたかもしれない。しかし、これでNFCの勢いが止まったかというと、そうではない。iPhone5をきっかけに、NFCの攻勢が始まっている。
例えば最近、発売された読み取り機になると、フェリカだけでなく、タイプA/Bにも対応して、設定さえ変えれば対応可能のものもあると聞く。また、三井住友カードは、Paywave(VISA)、Paypass(マスターカード)、オリコはPaypass(マスターカード)とそれぞれ提携して、国内・海外で早々にNFC搭載スマホを使って買い物ができるようにすると発表した。スマホのSIMカードに、タイプA/Bのチップを入れて使うもので、2013年2月にリリースされ、それからサービスインになる予定だ。
いよいよプラスチックカードの代わりにスマホでクレジット決済ができる日が来るわけだが、カード会社が熱心なのは、フェリカに比べた場合に、読み取り機の導入費用が安くて済み、しかも、互換性に富んでいるので、将来、外国からの観光客も利用可能で、加盟店の収益アップに繋がると期待しているのだ。
