いまや日常化した「かざす」行為
毎日の暮らしの中で電子マネーの活躍する場面が増えてきた。ラッシュアワーの朝に駅の改札では多くのビジネスマンが電子マネー入りの財布をかざしてスイスイと通っていく。昼時のコンビニでは弁当やサンドウイッチを手にしたOLたちがレジの前に並んで次々と電子マネーをかざして代金を支払っていく。1~2秒で決済は終わるため、その列が長くなることはない。
「かざす」という行為が、いまや当たり前になってきた。改札の通過だけでなく、レジでの支払いを早く手軽に済ますには、電子マネーを使うに限るという風潮が広がっている。しかし、こんな光景が当たり前になったのはまだ最近のこと。電子マネーは誕生から約10年しかたっていない。
日本で最初の電子マネーは、2001年11月に誕生したEdy(現・楽天Edy)だった。少し遅れて」JR東日本のSuicaも産声をあげた。それ以降に普及した電子マネーはICOCA、PiTaPa、PASMO、naanco、WAON、iD、QUICPay、VISAtouchなどの種類がある。
電子マネー王国ニッポン誕生秘話
電子マネーとはお金をバリューというデジタルデータに変えてやりとりするものだ。現在はICカード型電子マネーが中心で、このタイプは、ICにバリューをチャージすることで繰り返し利用できるのが特徴である。日本で普及している電子マネーは、フェリカと呼ばれる非接触ICが中心で、これを使ったタイプが主流を占めている。
フェリカはソニーが開発した非接触ICの無線通信規格のことだ。1988年からソニーは新規事業として、ICの開発に取り組み、この新しいチップをフェリカと名づけた。本格的な研究はJR東日本から首都圏の改札システムの改修に際して、打診があったときから始まった。ターミナルのラッシュアワーで人の流れを止めないで、スムーズに流すためのデバイスはできないかとの要望を受け開発に入った。人の流れをとどめないためには、非接触ICの応答速度を高めるしかない。研究では海外で使われていた非接触ICからとりあえず必要でない機能を次々と取り払い、高速反応が可能なICを作る作業を続けた。
その結果、0.2秒という処理速度を実現するに至るのだが、その成果をソニーはまず香港の地下鉄で試した。オクトパスという名称の非接触ICカードをつくり、その高い性能を多くの人が支持して見事に成功をおさめた。それを見たJR東日本はフェリカの導入の検討をはじめ、2001年11月に首都圏でのIC乗車券(Suicaと後に呼ばれる)がスタートした。このように、フェリカは初めから交通乗車券としての宿命を背負って生まれている。
そしてSuicaは実用化に入り、IC交通乗車券からストアーバリューを使って買い物もできるようになり、駅ナカ、街ナカへと利用店舗を広げていく。いまや首都圏は、Suicaをはじめとした、フェリカ型電子マネーの全盛期を迎えており、世界に類を見ない電子マネー王国となっている。