ツールや技術はできた。次はユーザー企業の組織的な課題を議論するべき時だ
―今年のAdobe Summitに参加して、どのような点が最も印象的でしたか?
島:一番記憶に残ったのは、やはりクラウドとの連携が去年よりも更に一気に進化していたというところですね。
去年のAdobe Summitでも、部分的ですがケビン・リンチ CTOが入稿データをドラッグ・アンド・ドロップでCQにアップするデモを見た時は感動的でした。今年は、その機能が全ツールに波及されている状況でした。あのインターフェイスを見たら、Adobeが「コラボレーション」と言っているのは嘘じゃなくて、本当に起きているのだなと感じました。
昨日、アカウント・マネジメントの担当者と、米国で開発担当された方と会ったのですが、これまでの開発からがらっと変わったこのインターフェイスの変更は、トップダウンで変えられた状況だったらしいですね。
また、エグゼクティブの基調講演やデモから、今まで見えなかったAdobeの方向性がはっきり見えてきたと感じました。
やはり我々は現場のプレイヤーなので、ツールをごそっと入れるのはハイリスクです。ですから、今までの資産をうまく使いながら、どのように進化していけるかを考えないといけません。Adobeの「オールインワン」の提案は魅力的ですが、現実的にはすぐには導入できません。自社の導入済みのツールと提案されるツールを自分たちでうまくつなぎ合わせながらソフトランディングすることが一番大事だと思っています。
今回、デジタルマーケティングの製品群がマーケティングクラウドとして5つにまとめられました。それによって、各々の戦略的な機能がシームレスに連携できるようになってくれたことで、自分たちでつなぎ合わせていたコストが不要になるのはうれしいことです。これによって、IT的なコストや、カスタマイズ部分を維持するための人件費を削減し、マーケティング思考に時間を費やすことができます。
また今回のサミットでは、今までの製品のテクノロジーではできなかった機能がたくさんできるようになっています。つまり、「できない」ことを技術のせいにはできなくなってきたのです。これはすごいことと思いましたね。
小川:最後に島さんがおっしゃった事に近いのですが、Adobeからユーザー側にボールを投げられたという気がしています。
今まではツールが連携してないからとか、活用できないことに対して、いろいろな理由や言い訳がもろもろありました。それが、「ツールや技術はある、理想的なマーケティングを実現できるような世界はできました」という状況になりました。このことにより、今後はおそらく各企業側がこれにどう対峙していくのか、そもそも高度なマーケティングをやるのかやらないのかも含め、判断をしていかなければいけなくなります。
つまり、あとはもう組織の問題ですよね。基調講演のなかで幾度も語られたように、テクニカルな課題はAdobeのツールで解決できるようになりました。そして人の問題はワークフローの連携ツールで解決するとは言っていますが、人の部分はツールだけでは解決できません。結局は自分たちの会社の中の組織や、責任範囲、そこにコミットするかどうかという判断が重要になってきます。
縦割り組織の課題についても、Adobeは「サイロ(縦割りの組織)」を破壊して、連携すべきと話していましたが、これには良い面と悪い面があると思っています。基本的には壊すべきだと考えますが、壊してコミュニケーションを取るべきタイミングと、壊さない状況でがんばるべきタイミングがあるはずです。マーケティングもソーシャルも部署を全部ひとつにして皆で一緒に考えましょうとやっても、絶対うまく行かないと思っているのですよね。それより、縦割り組織を壊さなくても、異なる役割をつなぐパイプがあればいいと私は思っています。パイプをどこに引いて、どのくらいで流しこんでやるかといった整理が必要だと思います。
日本に合ったマーケティング最適化をするためにはどういう体制にすべきか、その辺の議論がようやくできはじめるのかなと感じました。
