ビッグデータ・テクノロジーに求められるフレキシビリティ
意思決定の科学を提唱したサイモン(1987)は、「シミュレーションは組み込んだ仮定を超えるものではない。コンピュータはプログラム化されたことしか実行できない」(A simulation is no better than the assumptions built into it. A computer can do only what is programmed to do.(p.14))と述べています。たしかに、どんなにデータ処理が高度化しても、現場のベテランの「直観」という情報処理能力にはかないません。
ビッグデータのテクノロジーが画期的であるのは、複雑な社会や人間行動の多様な軸=ディメンジョンを意思決定プロセスに取り込み、膨大なデータのコントロールができるようになったことです。分析軸が増えるほどディメンジョンの組み合わせは膨大になっていきますが、「直観」をデータで確認する、あるいは補完する、さらには個人の認知限界を超えて新しい気づきをもたらす、そうした可能性が高まってきたのだともいえます。
ただし、上記のステートメントに倣えば「BIは、そのなかに組み入れられているディメンジョンで規定されたことしか実行できない」ことも事実です。
単純な例で、ヤマザキのランチパックのマーケット・バスケット分析を行うことを想定してみましょう。ランチパックと一緒に売れる他の商品を知りたい場合もあるでしょうし、ランチパック(ピーナツ)と同時に購入する別のランチパックを知りたい場合もあるでしょう。また、スイーツ系、スイーツ系のなかのフルーツ系、フルーツ系のなかのご当地ものというカテゴリ、あるいはおやつタイムに売れる商品、今月の新商品、値段の影響、POPの影響、天気の影響など、実にさまざまな切り口が考えられます。
BIには、システム設計者があらかじめ固定化した分析軸=ディメンジョンに縛られずに、利用者(マーケター)側で新しくディメンジョンを付加したり、ドリルダウンの階層を自由に設計したりするフレキシビリティが求められます。
さらに、ルーチン業務のためだけではなく、店舗の増床、大きなキャンペーンなど、1回限りの意思決定への支援も必要です。そのように考えると、サイモン(1979)の意思決定のタイプ(定型vs.非定型)と、データのタイプ(構造化vs.非構造化)の4つのセルの境界を越えたBIの拡張が、いま求められているといえるでしょう(下図)。
【参考文献】
- Simon, H.A.(1979), The New Science of Management Decision (Revised edition), Prentice-Hall.
- Simon, H.A.(1987),The Science of the Artificial (Third edition), The MIT press.
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