信頼は将来の通貨と言っても過言ではない
ソーシャルメディアがより普及するという前提に立つと、過剰なまでの透明性が世界にもたらされるだろう。グーグルグラスを例に挙げてみよう。このメガネを掛けると、自分がデートしながら目に入ってきたレストランの情報が全て見える。
デートにふさわしい雰囲気なのか、口コミ評価はどうなのか、サービスレベルは、家族向けかカップル向けか、食事の種類、もしかしたら既に友達が中にいるかどうか、などの情報がわかるようになる。この考えに対してAugie氏は次のように主張した。
「確かに気持ち悪い印象を持つが、現実に普及すると慣れるものだ。10年前を思いだしてほしい。クレジットカードをインターネットで使うのだって相当気持ち悪かったはずだ」
他の例で考えて見よう。あなたはいつも使用している常備薬を買いに薬局へ行く。ラベルを見ると、いつもの原材料や製造工程の情報だけではなく、この会社が動物実験を繰り返していたことが最近明らかになったというニュースが入ってくるかもしれない。
このような将来像を考えた時に大切な点は本当の信頼を消費者と築くことだ。ファンではなく、フォロワーでもなく“信頼”。「信頼は将来の通貨と言っても過言ではない」(Augie氏)
イノベーションは失敗の繰返しから生まれる
イノベーションは失敗の繰返しから生まれる。ソーシャルメディアをマーケティングに活用する際に、投資対効果をすぐに求めてはいけない。アマゾンは創業から6年間赤字だった。ボーダーズは2001年にeコマースをはじめた際、アマゾンに全オペレーションをアウトソースした。小売業でのeコマース売上比率は1%に過ぎなかったし、先駆者のアマゾンでさえも赤字に苦しんでいたからだ。ボーダーズはその10年後、2011年に倒産した。
Bob Garfield氏とAugie Ray氏は異なる文脈からソーシャルメディアを語ったが、共通の視点は、消費者や社会がコンシューマーテクノロジーの進化で大きく変化する中、企業活動や収益にどのような影響を及ぼすのかという点だ。
これからどのソーシャルメディアが来るのか? その活用ノウハウは? という話はこのセッションではまったくない。いまマーケティングが直面している大きなチャレンジは、顧客とのAuthenticな関係性の構築であり、そのためには信頼を得るための行動が必要であり、最終的には収益が直結している。そして、ソーシャルメディアは関係構築のために大きな影響を及し、もしくはビジネスプラットフォームになり得るという話だった。
日本でもソーシャルメディア単体の視点からマーケティングを語るアプローチは既に事業者からは敬遠されているが、そのせいで「ソーシャル」自体が過小評価されている面もあると感じている。まさに今、企業が自社の将来的なマーケティング像を明確にした上で、ソーシャルメディアを再度見直す時期に来ているのではないだろうか。