アウトバウンドからインバウンドへ、現代マーケティングの転換点
2010年に出版された書籍『Inbound Marketing』は、マス広告や大量のEメールといった手法で人を振り向かせる従来型のマーケティング手法を「アウトバウンドマーケティング」、検索エンジンやブログ、ソーシャルメディアを通じて、人々に見つけてもらう新たな手法を「インバウンドマーケティング」と位置付け、大きな注目を集めた。
著者であるブライアン・ハリガンとダーメッシュ・シャアは2006年にHubSpot社を設立。マーケティングソフトウェア「HubSpot」を開発し、インバウンドマーケティングのコンセプトとともに世界中に広がっていった。現在、HubSpotは世界56か国、約10,000社で採用されている。
日本でインバウンドマーケティングに主眼を置いたデジタルマーケティングエージェンシー「マーケティングエンジン」を設立し、HubSpotを展開している高広伯彦氏は、共同創業者である林雅之氏とともに、インバウンドマーケティングのカンファレンス「INBOUND 2013」に参加。HubSpotのパートナー企業を表彰するアワードの国際部門で、同社は5冠を獲得するという栄誉に輝いた。帰国したふたりの話は、まずこのイベントの様子から始まった。
インバウンドマーケティングを実践する人々が集う「INBOUND 2013」
今年8月にボストンで開催された「INBOUND 2013」は、インバウンドマーケティングを実践しているマーケターたちが集う一大イベント。もともとHubSpotのユーザーグループ(HUG)から発展したもので、今年はアリアナ・ハフィントン、セス・ゴーディン、ネイト・シルバーらをキーノート・スピーカーに迎え、5000人を超える参加者が世界中から集まった。
世界中にHubSpotのパートナー企業は1400社。そのうちの400社が米国以外にある。アワードは、ドメスティック(米国内)とインターナショナルの2つに分かれ、マーケティングエンジンは、インターナショナルの「New Agency Of The Year」「Agency Of The Year」をはじめとする5部門で受賞した。「去年のアワードを見て、俺たちも絶対あそこに立とうと話をしていた」という両氏。1年後に夢が現実のものになった。
実はこのアワード、参加するためにエントリーする必要はない。HubSpotはクラウドベースのソフトウェア。パートナー企業の顧客がHubSpotを利用してどのくらいインバウンドマーケティングを実践しているのか、メール配信数からコンバージョン率まで、データはすべてHubSpot社に集約される。さらに、マーケティングの過程で見込客リストに入ってから顧客化するスピード、その後の効果といった指標も含めて評価され、受賞者が決まる。受賞は、カンファレンスの前週に送られてきた一通のメールで知らされたという。
「今回うれしかったのは、受賞そのものより世界中から集まってきた他国のエージェンシーの人たちから、『あなたたちみたいに僕らもなりたい』と言われたこと。日本では、日本語化されていないツールを日本人は使わないという思い込みが業界の中にある。このことを覆せたことも楽しかった」(高広氏)
2012年6月に両氏がボストンのHubSpot社を訪れ、インバウンドマーケティングの可能性について確信し、同年8月、マーケティングエンジンを立ち上げて1年。「世界で標準化しそうなマーケティングツールを日本人が使わないということは、日本人のマーケティング思考のガラパゴス化が進むことにつながる」と語る高広氏。今回の五冠は、日本でのチャレンジが実を結んだ瞬間だった。