日本では、どんな企業がインバウンドマーケティングを実践しているのか
正直なところ「インバウンドマーケティング」はこの1年、日本でホットなキーワードとは言い難い状況だった。その中で、アワードで5部門受賞という快挙を成し遂げることができたのはなぜなのだろうか。高広氏は次のように説明する。
「広告というビジネスが成立するとき、ある広告主がリーチしたいオーディエンスをある媒体が大量に抱えていて、広告媒体と広告主のニーズがマッチするから広告枠が売れる。ところがB2Bをメインにした業界やB2Cでもニッチな業界では、既存のメディアは大きすぎる。しかし、セグメントするとリーチできるターゲットが小さくなり、広告媒体の費用対効果が合わない。B2Bの企業の多くは、自分たちが広告を出すメディアというのがそもそも存在しないんです。つまり、広告主となりえる人たちを中心にマーケットを見るのか、それより大きいマーケターという人たちの市場を見るのかという違いなんです。

たとえば検索連動型広告によって、今まで広告主じゃなかった会社が広告主になるという現象を目の当たりにしてきた。同じように、今のデジタルのツールの恩恵をうけて、今まで広告主と呼ばれる人たちの陰に隠れていたマーケターはもっとたくさんいるはずで、彼らは自分たちの努力でマーケティングするしかない。そういう人たちに、インバウンドマーケティングに非常に合うんです。しかし、そういう市場があるということを、みんなは気づいてない。
広告代理店は、媒体を売るビジネス。したがって、出稿すべき適切な媒体がないB2B企業を支援することは難しい。B2Bのマーケティング支援するために、集めてきた名刺をもとにリードスコアリングやリードナーチャリングをする会社はあった。しかし、質のいいリストを集めるところから、最終的にお客さんになるところまで含めて対応できるマーケティングエージェンシーは、マーケティングエンジンしかない。こうした考え方は、B2BだけでなくB2C企業の中でも従来型の広告では機能しないようなところに役立っている」(高広氏)
いま、知りたい人のための本「インバウンドマーケティング」

高広 伯彦 著
ソフトバンククリエイティブ
1,680円(2013年9月30日 発売)
インバウンドマーケティングについてもっと知りたい、体系的に学びたいという人のために、高広氏が入門書として執筆した書籍『インバウンドマーケティング』が9月30日に出版される(一部書店ではすでに発売中)。本書の中で、高広氏は「インバウンドマーケティング」に初めて出会ったとき「ある種の懐かしさを覚えた」と述べている。
では、なぜ私が今「インバウンドマーケティング」に注目し、かつ、このようにオンラインマーケティングの“ 歴史” を振り返ろうとしているのかというと、このコンセプトが、インターネットを中心にしたマーケティングの世界で、先人たちが産み出してきた概念を積み重ねてできた地層の上に成り立っているからです。
(「インバウンドマーケティング」より)
4章構成の本書は、まず日本人にとって聞きなれない「インバウンド」という言葉の説明から始まり、「インバウンドマーケティング誕生前史」と題して、検索連動型広告から(当時、画期的過ぎて理解されなかったGoogle AdWords の考え方を計算式を用いて説明)、Googleが提唱した「ZMOT」という考え方、One to Oneマーケティング、リコメンデーション、パーミションマーケティング、マーケティングとPR、そして、インバウンドマーケティングの登場へと一気にさかのぼって現在に戻ってくる。
続いて、インバウンドマーケティングの方法論を体系的に示し、最終章では日本での導入経験なども交えてインバウンドマーケティングを行うための実践的な流れを説明。わかりやすく淀みのない解説は、読む人の頭の中にインバウンドマーケティングのイメージを鮮明に描き出す。
マーケティングをマーケティングするのが好きなんです
インタビューの最後に、最近話題の「ネイティブ広告」について質問すると、「タイアップとネイティブアドの違いは、広告をクリックしたときに、メディアの中の記事ページやキャンペーン用につくられたページに行くのではなく、その企業がずっと運営しているブログやYouTubeにアップしている動画が出るのが望ましい。それが本来の意味でのネイティブアド。だから僕らはネイティブアドは、非常にインバウンディな広告だと思っているんです」と答えてくれた。
今年8月、東芝はLinkedInが買収したSlideShareを使った「SlideShareコンテンツ広告」を展開した。この日本企業初のネイティブ広告もマーケティングエンジンが手掛けたもの(東芝は今年3月、HubSpotを採用し、B2B事業のグローバル展開を開始している)。
「マーケティングビジネスにおけるマーケティングが好きなんです」と笑う高広氏。今までも、そしてこれからも、その思考で私たちをインスパイアしてくれる存在であり続けるだろう。