動き始めた日本の動画広告市場
欧米では、すでにメディア企業の動画広告でのマネタイズが一般的になり、市場が成熟しつつあると言われている。それに比べて、数年遅れを取っていた日本市場ではあるが、今日ではエコシステムが整い、積極的に活用する企業が現れ始めている。
例えば、動画活用に積極的に取り組むゴルフダイジェスト・オンライン(以下、GDO)が運営するゴルフ総合サイト内の「GDOゴルフ動画」において、オンデマンドコンテンツ(VOD)と動画広告の活用が行われている。
GDO動画では、動画コンテンツが再生される前に、プレロール広告が挿入されている。GDOのサイト訪問者はゴルフを愛好するユーザーであることから、経営層や高所得層の割合が高く、車や不動産・金融商品の関心が高いことが推測される。そのようなユーザーの嗜好と合致する動画CMを中心に配信している。
「GDOは日本国内の男子、女子、シニアツアーに加えて、米国PGAツアー、スタイルゴルファーアカデミーなどの映像をオンデマンドコンテンツとしてWeb上で配信しています。コンテンツによってはプリロール動画広告を映像の前に差し込んでいるので、広告収入を得ることもできています。GDOはインターネット上でのライブストリーミングの実績もあり、今後は『GDOゴルフ動画』内でのライブ配信を行うことになるでしょう。
イベント前にTwitterなどのソーシャルメディアでライブストリーミングを行うことを知らせて、視聴者を集めます。SNSによる拡散効果もあり、配信中も視聴者がどんどん膨らみ、盛り上がっていきます。さらに映像の前などに広告を差し込むことで、新たな広告収入を得ることが可能になるのです」と、ブライトコーブ株式会社 CMO ジェフ・ワトコット氏は語る。
海外動画広告市場におけるライブストリーミングの波
日本よりも数年、動画広告への取り組みが進んでいると言われる欧米。そんな一歩先ゆく欧米の現在のホットトピックスは「ライブストリーミング」だという。
「ライブストリーミング」とは、インターネットなどのコンピューターネットワークを通じて、生中継の映像や音声などのデータを配信・再生する方式のこと。
海外では、より先駆的なライブストリーミングの取り組みが行われているという。カタールのドーハに本社を置く衛星テレビ局であるアルジャジーラの番組「アルジャジーラ・イングリッシュ」は、テレビと同じ内容をネット上で同時に放送している。モバイルデバイスからも視聴でき、さらにテレビとは異なるCMを流すこともできるという。
「モバイルデバイスであれば、その視聴者がどの地域から見ているのか、またその人の性別などもわかるので、オーディエンスに合ったパーソナライズ広告を出すことができます。パーソナライズ、ターゲティングを行うことで動画広告のCPMを上げることができるのです」
この仕組みは、「AD Replacement(アドリプレイスメント)」という。自動的に視聴者の地域などを特定し、その人に合った広告を流す仕組みだ。例えば、住んでいる地域が推測できる人には近くのバーの広告を、女性には化粧品の広告を、といったように。
これは、オーディエンスの属性を問わず一斉に広告を流す、既存のテレビCMとは真逆の発想だ。テレビCMはたしかにリーチは稼げるものの、それを見た人の中に、いったいどれだけ自社のターゲットが存在しているか、広告主であれば一度は考えたことがあるのではないだろうか。
ライブストリーミング流行の要因
「ライブストリーミングは、特にアメリカの放送局で広がりを見せています」とジェフ氏。同社に寄せられる問合せのうち、今年は75%がライブストリーミングに関する案件だったという。前年は25%だったことからも、その注目度の高さを感じる。ライブストリーミングが注目されている要因について、ジェフ氏は語る。
「一つは、技術の発達により、カメラやエンコーディングなどにかかるコストが低減したことです。アメリカでは新聞記者が取材風景をiPhoneで撮影し、ライブストリーミングで配信するサービスも始まっています。二つ目は、スマートフォンやタブレットを持つ人の数が増え、単純にオーディエンスが大きくなったことです。三つ目は、ソーシャルメディアを使って、一瞬のうちに視聴者を集められるようになったことです。
視聴者へのインフォメーション手段がメールマガジンや広告しかなかった時代に比べると、その即時性は比べものになりませんよね。また、ソーシャルメディアを使った仕掛けが、視聴者のワクワク感を醸成することもあり、ライブストリーミングの可能性は広がっています。そして何と言っても、放送局にとって最大の魅力は広告収入が増えることでしょう」