調査は現在・過去を語る
今回もブランドのお話を続けます。ブランドという言い方が馴染まなければ、“らしさ”と言い換えて考えてみてください。ブランドとは、人のアタマの中に存在するものですが、どのような像で存在したいかについては、企業サイドで意図して設計し、築き上げていくものです。そして、その設計書のことを“ブランド・ビジョン”と呼ぶのです。というところまでは、前回のお話でした。(詳しくはこちらへ)
ブランド・ビジョンづくりのファースト・ステップとして、状況把握のために、調査をしてみようという話になることがしばしばあるものです。でも、調査を実施する前に、ちょっと立ち止まって考えていただきたいことがあります。確かに調査はある目的では、有効で不可欠な手法です。
しかし、調査をブランド・ビジョンづくりのツールであると捉えたときに、その特徴・役割を念頭に入れて上手に使っていかないと、時として大きな勘違いをしてしまう危険性があるのです。それは、調査が教えてくれることと、調査では知りえないことがあるということです。すなわち、調査は、あなたのブランドが今、どういう状況にあるかということは示唆してくれますが、どういうブランドになるべきかについて教えてくれることはほとんどないということです。
言い換えれば、調査は、現在もしくは過去について把握する手法です。顕在化している事象を、事実として認識するためには、欠くことのできない重要なステップなのです。ところが、その一方で、未来を明るく照らし出すことについては、調査は苦手と言わざるを得ません。例えば、
あなたは、リンゴジュースとオレンジジュースのどちらが好きですか?
と聞かれれば、簡単に答えることができるでしょう。それは、リンゴジュースとオレンジジュースを飲んだ経験を元に、ご自身が現時点でどちらが好きかを天秤にかけて、判断することができるからです。質問に簡単に回答できるということからおわかりのように、その調査結果は明らかな事実として信憑性のあるものとなることでしょう。しかし、
あなたは、リンゴ味のビールとオレンジ味のビールのどちらが好きですか?
と尋ねられたら、多くの人はちょっと困ってしまうと思います。もし、これがケーキの話だったら、その味を食べたことがなくとも、これまでのご自身の経験の延長線上で想像がつくかもしれません。しかし、このお題目でビールについて判断するには、さすがにあまりにも今までの経験からかけ離れ過ぎているのです。回答しづらい質問の結果の信憑性は、先ほどのジュースの場合に比べると疑わしいものになるということがお分かりいただけたのではないでしょうか?
調査は、表層的な事実を浮き彫りにすることが得意分野と言えそうです。しかし、その内部にある深層的な意識を引き出すためには、アンケートのような定量調査ではちょっと難しそうです。デプスインタビューやグループインタビューなどの定性調査を駆使して、分析し、推測することも必要となるのです。
しかし、それにも限界がありそうです。回答者である人間は、自分が経験した、もしくは擬似的に体験したような気になれる事柄には判断がつきやすいですが、未経験のものには判断があいまいになりがちなのです。これが、調査の限界なのです。一見当たり前の話かもしれませんが、没頭するとつい忘れてしまいがちになりますので、常に意識しておきたいものです。
従って、あなたのブランド・ビジョンのあるべき方向性を、調査で判断するのは間違っています。現在、消費者があなたのブランドをどのように捉えているのかを把握するために用いるのが正しい使い方です。
消費者のアタマの中で、どういう像を描いているのでしょうか?
(調査を実施しなくとも、観察によって分かり得る範囲で考えてみることが重要です。)