データから浮かび上がるセオリーと実態のギャップ
一方、「予測」に対して「意図」の側は、個人の求めるものを踏まえて適した提案をする、オーディエンスベースの考え方だ。「企業が売りたいものを売るためにデータを活用するのが、予測の方向性。対して意図の方向性は、個人の好みに関する情報を集めて、好みに合った提案をするのにデータを活用します。どの象限でデータマーケティングを追求するのか、自社や自分のブランドで明確にすることが必要です」と鈴木氏。

それに応じて、本間氏は「データマーケティングというと、顧客の行動データをたくさん取って活用すると思いがちですが、行動する前の嗜好性に関するデータも実はとても有効なんです」と応える。特に、個人の嗜好性や行動からアプローチを導き出そうとするマーケティングは個人情報の扱いがかかわるため、何を目指すのかを部内でしっかり議論することが大事だという。
ここで菅原氏から、「こうした最新のデータマーケティングの考え方で、改めて自社ブランドに関するデータを見返したとき、セオリーと実態とのギャップが意外と大きいのではないか」と投げかけられた。それを受けて鈴木氏は、一般的にスニーカーにかける予算が低いとされている女性層に、2万円以上する価格帯のシューズが爆発的に売れているという話を紹介する。
買った人をきちんと理解するのが本当のマーケター
ニューバランスジャパン社内でも議論したが、この現象の理由はよく分からないという。だが、これを以前のように企業の都合で描いた「物語」で理解しようとすると、本当のカスタマーの姿を見誤ってしまう。
「何らかのきっかけで、一部の女性層にニューバランスがファッションアパレルとして映るようになったんでしょうね」と本間氏。「この手の話は最近よく起こる。僕たちが物語にとらわれすぎて、本当のお客様が見えていなかったのかもしれません。買う人を最初に設計するのではなく、買った人をきちんと理解するのが本当のマーケター」と続ける。
「企業の利益としては、いまだにマスマーケティングを通して理想の顧客を追い求めるほうがいいとする向きもあるのでは」という菅原氏の問いに、本間氏は「そんなのはもう無理」と言い切る。
花王でも以前、ファミリー向けシャンプーとして位置付けていたブランド「メリット」で男性を意識したWebバナー広告を展開したところ、予想以上に男性からの反応があったという。「お客さまのことを理解する手段が得られた今、それをうまく使えるかどうかが問われています。マーケターは勝手な期待に頼らず、データだけから顧客動向を読み取る理解力を養わなければ」(本間氏)
鈴木氏も「データと向き合うと、不都合な真実ばかり出てくる。でもそれにとにかく立ち向かっていくしかない」と今後の心構えを話す。本セッションはデータマーケティングを最大限に生かす理論と姿勢が凝縮した、貴重な講演となった。