逆転の発想が生み出した低価格
Oculus Riftはパソコン側でアプリを起動し、その映像をヘッドマウントディスプレイに外部出力する。このディスプレイ、実は7インチのスマホのディスプレイと同じものが使われている。Oculus Riftの魅力のひとつである低価格は、こうしたパーツの調達によって実現したものだ。
アプリはSDKを使って作成する。開発の選択肢としては、C++でネイティブに書く、Epic GamesのUnrealエンジンで書く、あるいは3Dゲーム開発ツールとして人気のUnityを使って作成することもできる。映像は上下左右が膨らむように加工し、左右の映像をずらして視差を生むことで奥行きが生まれる。

現在、世界中でさまざまなアプリが公開されている。たとえば上の写真はすごいジャンプを体験できる「Hiyoshi Jump」。Unity Technologies Japanの伊藤周氏が作成したこの作品では、ちょっとジャンプするだけで一瞬にして何十メートルもジャンプしたかのような映像を3D体験できる。この映像はGoProという小さなビデオカメラ6台を立方体の一面ずつに1台ずつ設置して撮影した映像を合成加工して、Unityでアプリにしたもの。
上の写真を見るとわかるとおり、映像は上下左右が膨らんだようにゆがんでいる。ここにOculus Riftの非常に大きな特徴がある。広視野角な映像はディスプレイにそのまま表示するとどうしてもゆがんでしまう。従来製品ではレンズによってそのゆがみを矯正していたが、そのためにコスト高になる傾向があった。
しかし、Oculus Riftは「映像自体をゆがませる」という逆転の発想によって、光学系の負担を少なくした。これで複数のレンズや特殊なディスプレイを使う必要がなくなり、製品を低価格で提供できるようになったのだ。

Oculus Riftを可能にしたのは、こうしたアイデアだけでなく、さまざまなパーツの性能がアップしたこと、クラウドファンディングサービスの存在など、近年整いつつあるハードウェア開発環境が寄与するところも大きい。
ゲーム以外の活用も始まっている
Oculus Riftはもともとゲーム用に開発されたものだが、その用途はゲームだけではない。Ford、日産などの自動車メーカーは仮想試乗体験に利用している。建築の世界では、建物のプロトタイプをOculus Riftで仮想体験する試みも始まっている。不動産・住宅情報サイト「HOME'S」を運営するネクストはバーチャル内覧アプリケーション「Room VR」試験版を先日発表したばかりだ。このアプリでは、部屋の広さや窓からどんな風景が見えるのかを体験できる。

また、ファッションの世界でも、今年2月にファッションブランド「SHIROMA」が、渋谷パルコで春夏コレクションのテーマを反映させた海底都市の世界を体感できるコーナーを設けるなどプロモーションにも活用されている。NASAでは「Kinect」とともに技能訓練に採用。ほかにも、リハビリや苦手克服体験、あるいは教育現場で恐竜の学習をするときにOculus Riftを付けて見上げるとどれくらい大きいかがわかるなど、さまざまな応用が可能になる。
個人ユーザーもさまざまな活動を展開している。日本では「GOROman」氏と古典奇術の実演家である藤山晃太郎氏が「オキュ旅」という旅行企画を提案。Oculus Riftの前面にビデオカメラを付け、両耳にマイクを装着した状態で沖縄、宮古島を旅行。映像と音声データのダウンロード権として事前にカンパを募り(1000円~)、その旅行を追体験できるというものだった。
また「ねぎぽよし」さんが作成した「MikuMikuSoine」というアプリも登場。Oculus Riftを身に付けて仰向けに寝る。左を見ると初音ミクが、右を見ると「艦隊これくしょん」の雪風がおり、添い寝してほしい方のキャラクターを見るとそのキャラクターが添い寝してくれるというもの。
ここでのポイントは、キャラクターの選択を「右か左を見る」というジェスチャーによって行っていること。これは「ナチュラル・ユーザーインターフェイス(NUI)」と呼ばれ、キーボードやマウスではなく、人間の自然な動作によってコントロールを可能にする。