実店舗で買い物をすると、購入した商品に合った広告がパソコンやスマートフォンに表示される世界
MarkeZine編集部(以下MZ):昨年11月の戦略発表に基づいて、この連載で一度アウトラインを紹介しました(該当記事)。ヤフーのプライベートDMPですが、Yahoo! DMPとして、先日リリースされたのですね。
石井:そうですね。パートナー企業との提携や、データ分析・コンサルティング事業を展開する株式会社Qubital(キュービタル)データサイエンスの設立など、周辺環境も準備が整ったので、Yahoo! DMPを活用して作成したセグメントに対して、まずはYahoo!プレミアムDSPの配信からスタートしました。
MZ:リリース内容を詳しく教えていただけますか?
石井:まずは今申し上げた、Yahoo! DMPを活用して作成したセグメントを利用したYahoo!プレミアムDSPの配信を始めました。ヤフー独自の技術を用いることでデバイス横断的にユーザーにアプローチできます。それから、行動予測による新規層の開拓など、マニュアルで提供していたサービスもシステム化します。
MZ:具体的に、どんなことが可能になるのでしょうか?
江川:例えば、あるユーザーが実店舗でパソコンを買ったとしますよね。すると帰宅後にパソコンを開くと、そのパソコンに合うケースやアクセサリー類のバナー広告が表示される。これには企業側のCRMシステムやPOSデータとの連携が必要ですが、このようにオンライン・オフラインを含めたあらゆるユーザーのデータを管理し、積極的にアプローチしていけるようになります。
多種多様なデータを活用することで新規層にアプローチ
MZ:広告主のデータと、ヤフーのさまざまなオーディエンスデータを組み合わせたプライベートDMPを開発する、という昨年の発表はインパクトがありました。
石井:デバイスが多岐にわたり、インターネットユーザーの行動も分散する中、それらをまとめるキーはデータしかないだろうと。そこで、ビジネスの軸をデータにシフトすると打ち出しました。もちろんこれまで中心としてきた広告事業にも注力しますが、マーケティングの観点からいうと、広告は当然としてメールコミュニケーションやLPO(ランディングページ最適化)なども含めてデータドリブンマーケティングを推進するという考えです。
MZ:企業の関心の高まりを受けて、DMP自体もリリースが相次いでいますが、Yahoo! DMPはどのようなところに優位性があるのですか?
江川:大きくいうと2つあります。ひとつは、ヤフーが保有しているデータを活用できる点です。これによって、広告主企業はすでに接点のある顧客だけではなく、潜在顧客も含めた、パーチェスファネル全体を構築することができます。
ヤフーはボリュームの面では月間で約590億PV(※)のメディアであり、加えて検索やショッピングなどのサービス提供を通して、多種多様なオーディエンスデータを蓄積しています。社内の検証の中でも、多様なデータがあるほどマーケティングの精度が上がることが分かっています。
※2014年4~6月における月間総ページビュー平均
そこで企業とヤフーのデータを組み合わせることで、企業だけでは接触できない潜在顧客に対しての施策を実施することが可能になります。
リアルタイム性を追求、CRMやPOSとの連携で広がる施策
MZ:広告主企業のデータだけだと、すでに顧客になっている人へのアプローチが中心になってしまうと。
江川:そうですね。なので、Yahoo! DMPの活用によってパーチェスファネルが拡大するというわけです。
もうひとつは、リアルタイム性です。これまで扱ってきたウェブ上のデータに加えてアプリのデータはもちろん、企業のCRMシステムやPOSシステムと連携する場合はそれらのデータも含め、あらゆるデータをリアルタイムで処理できる基盤があります。
MZ:リアルタイム性は、2013年11月の発表でも強調されていましたね。
石井:ええ。そのときに「0.2秒」というコンセプトを掲げました。それまでもデータのリアルタイムな活用を進めてきましたが、スピードをさらに速めて、Yahoo!プレミアムDSP以外のさまざまなマーケティングチャネルでも活用できるよう進めています。
江川:例えば、実店舗の前を通りかかったらそのユーザーに合ったクーポンが配信される、といったアプローチも実現可能です。実際そのためには企業側のシステムも整える必要がありますが、オンライン・オフラインを含めたリアルタイム性を追求していきます。
「もうすぐ旅行しそうな人」のグループを検出できる
MZ:ヤフーのデータの活用で、潜在顧客にアプローチできるというお話がありましたが、どのように潜在顧客を検出するのですか?
石井:膨大で、かつ多様なデータを分析することで、行動予測ができます。単に属性が似ている人をセグメントするのではなく、まさに同じ行動を取るだろうと予測できるユーザー層を特定してアプローチできるのです。
江川:例えば旅行のツアーを予約しようという人は、まずこんなキーワードで検索し、次にこのサイトを見て、と行動が似通ってきます。それを人単位でというよりアクション単位で、次にある行動をしそうな人をセグメントします。ページ閲覧や検索、購買データなど複数の種類のデータが組み合わさることで、その精度が3倍、4倍にもなることが分かっています。
MZ:なるほど、「もうすぐ旅行しそう」な人を捉えられると。それは、企業がすでに持っているデータだけではできませんね。
石井:ええ。そうした行動予測に加えて、もうひとつ新規層へのアプローチがあります。それが、会員属性を分析して、優良顧客になりそうなグループを見つけることです。
企業が持っている、優良顧客とそうでない顧客のデータ上の差異を把握し、それがわれわれのデータの中から見つかれば、優良顧客見込みのグループを精度高く抽出できます。その人たちに限定してアプローチできると、ユーザー視点でも自分に合った広告が表示されることになる。徐々にそういう世界に近づくと思います。
高度な分析をしたい場合、社内に高度なデータ分析ができるデータサイエンティストがいなくても、そこはQubitalデータサイエンスがサポートしていきます。
初期費用無料、導入のハードルを極力下げる
MZ:Yahoo! DMPの提供に先行して、Yahoo!タグマネージャーとYahoo!プレミアムDSPがサービスインしています。これらの連携によって、どのようなことができるのでしょうか?
江川:昨年から展開しているYahoo!タグマネージャーは、現在導入アカウント数が1万2,000を超えています。プラットフォームとしてはこれと連携したDMPを構築するので、Yahoo!タグマネージャーをすでに利用している企業なら、その管理画面の操作だけでYahoo! DMPも導入できます。
オプションとして、例えばCRMなどからデータを展開する際にはその開発が発生する、という感じです。Yahoo!プレミアムDSPも同様にシステムと連携しているので、Yahoo! DMPを通して設定したセグメントへすぐに配信していくことが可能です。
石井:DMPは、使ってみないとどのくらいリターンがあるのか見積もりづらい、というのがデメリットです。だから、そこで社内決裁が止まるケースがとても多い。それを何とか解消したいと考えて、初期費用や保管費用を原則無料にしました。
MZ:それは導入のハードルがすごく低いですね。
江川:まずは使ってみて、効果を実感していただこうと考えています。広告出稿などマーケティングの“出口”での課金、また企業のデータではなくヤフーのデータを利用する際に、その利用料がかかる仕組みです。
最初は広告配信、それからメールマーケティングやランディングページの最適化などにも活用を広げていただければと。ちなみにYahoo!タグマネージャーも初期費用等はかかりません。
オフラインとの連携を進めて統合的なアプローチを実現
MZ:CRMとの連携や、導入の手間などはどの程度ですか?
江川:社内に開発部門がある企業なら、すぐにできると思います。開発を外部に委託している場合も、それをサポートできるパートナー企業と組めるよう準備中なので、2カ月ほどで施策を実施できるようにしていきます。
いずれは仕様を一般公開して、技術力がある企業ならそれを参照してすぐに設定可能にしたいですね。まだ、Yahoo! DMPでできることがあまり知られていないので、しばらくは啓発フェーズかなと思ってはいますが。
MZ:最後に、今後の展開を教えてください。
江川:まずは、Yahoo!プレミアムDSPを配信中あるいは導入検討中の企業にプラスアルファとして提供し、今冬を目処に、広告以外のメールやレコメンドなども使えるようにしていきます。また、3カ月ほどは当社で直接運用し、細かいチューニングを重ねてから管理画面を広告主や代理店へ提供開始します。
Yahoo!タグマネージャーの導入時もそうだったのですが、簡単に使えるようにしようと思っても、できることが多岐に渡り操作もそれなりに複雑になってしまう。そのあたりの勘所も含めて、“使える”状態にしてから広くリリースします。
石井:中長期的には、実店舗などオフラインとの連携を進めていきたいですね。ヤフーのオンラインデータに対して、補完関係にあるパートナー企業と組むことも考えています。少し前までは絵空事に思えたことも可能になっているので、どんどん事例を作っていきたいと思います。
※Yahoo! DMPの名称は変更する場合があります。
※Yahoo! JAPANのマルチビッグデータは、Yahoo! JAPANでの検索履歴や、ページ閲覧履歴などをもとに構成されています。特定の個人を識別できる情報ではなく、また識別できる仕組みではありません。