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“小売店舗”視点で考えるO2O・オムニチャネル最新動向

オムニチャネルの技術は枯れたくらいがちょうどいい。Apple Payに見るキャズム超えの王道とは


Apple Payの対抗馬は、なんと「QRコード」

 新しい施策を考えるとき、IT側の目線で考えるとつい新しい技術に目が行きがちですが、「本当に現場のビジネスに寄与する」という観点では、実は前述の考え方が重要になってきます。

 この考え方を体現しているのが、9月9日のApple Pay発表のわずか数日前、9月3日に発表された新決済サービス「CurrentC」です。CurrentCは、Walmart、Best Buy、Targetといった米国の大手小売業が2012年に設立したコンソーシアム「Merchant Customer Exchange:MCX)」が中心となって提供する新決済サービス(ローンチは来年を予定)ですが、彼らはなんとNFCよりもっと枯れ切った「QRコード」を採用しています。

 Apple PayではNFCの端末を1台設置するのに数万円ほどかかる一方、MCXの発表によると、CurrentCはQRコードを利用するため、店舗にあるほぼすべての端末で利用可能であり、大きな設備投資は必要ない。Apple Payが実店舗での環境整備から着手しなければならないのに対して、CurrentCはおおむねサービスの普及に専念することができると評価することができます(とはいえ、NFCより複雑なUXなので、サービス自体の普及は苦戦するかもしれませんが……)。

Apple Pay と CurrentC の技術観点の”キャズム”比較

音波が「チェックイン」で大活躍する理由

 オムニチャネル系サービスでおなじみの「来店ポイント」や「位置連動プッシュ通知」でキーとなる「チェックイン」や「ジオフェンシング」といった概念でも、同様の考え方が重要となってきます。

 過去、こうした概念を実現するためにGPS、Wi-Fiなどなど多くの技術が活用されてきました。しかし、現在最も普及している方法、それは「音波」なのです。2000年代に、いま流れている音楽を判定する「Shazam」が携帯電話に搭載されるなど、音波を使ったサービスが多くの注目を浴びたものの、その後Wi-FiやBluetoothといった新しい技術の誕生とともに下火になっていきました(※1)。現在、チェックインで利用されている音波技術はShazamとは異なる方式で通信を行っていますが、音波はいまオムニチャネル領域で大活躍しています。

 きっかけは米国の大手来店ポイントサービス「shopkick」で来店検知技術として採用されたことでした。shopkickは人間の耳には聞こえない高い周波数の音波を使い、来店者が該当店舗に足を踏み入れたことを高い精度で検知します。

 2010年にサービスを開始したshopkickは急速に成長し、現在では150以上のブランドや小売業者の店舗に音波端末が設置されるようになり、700万ユーザーに利用されています。日本でも、同様の技術を使ったサービスとして「スマポ」「ショッぷらっと」があり、現在ではNTTドコモの「Air Stamp」「JR東日本アプリ」に搭載されるまでに至っています。

 一方、同じくチェックインの技術として注目されたWi-Fiは、2010年ごろからスマホの急速な普及によって通信回線が逼迫したことを背景に、通信キャリア各社がWi-Fiスポットの設置を推進したことで多数の店舗に導入されています。しかし、ユーザー端末側でWi-Fiが無効化されていることが多いことに加え、Appleが利用を制限(※2) したこともあいまって、チェックインのための技術としては現在ではまったく使われなくなってしまいました。

 昨年来注目を浴びているiBeaconも同様のサービスを提供するための技術という位置付けとなります。しかし、現時点では 実験的取り組みとしてしか使えないと判断でき、実利用という観点ではBluetoothを有効化することが一般化するまでは、音波が主流であり続けるであろうと予測することができます。

「チェックイン」として利用するための技術観点の”キャズム”比較

※1 Shazamと同類の技術は、現在、コカ・コーラのCMなどでも利用されています。
「コカコーラ、テレビCMの音を感知してゲームが始まるスマホアプリをリリース」(MarkeZine)

※2 AppleはWi-Fiを利用した位置情報技術を用いたアプリをマーケットから軒並み排除する対応を行っており、基本的に禁止していると認識されています。

「新しさ」に目を奪われることの落とし穴

 新しい技術というのはその新しさだけで魅力的に見えてくるものであり、ベンダー観点で言うと非常に魅力的な営業ツールとなります。しかし、実際にビジネスに利用しようとすると、その新しさゆえに多くの課題を抱え、成果に結びつけることが困難になりがちです。

 私は新しい技術を用いて将来を見据えた実験的な取り組みを行うことは否定するべきではなく、むしろ積極的に行うべきものと考えています。その一方で、枯れた技術が年月を経て、新しさゆえの課題を解決し終えて、すぐに結果を残したい施策では最適な選択肢になっていることが多い、ということも見逃すべきではない事実と考えています。

 オムニチャネルの施策を導入しようと考えられる方は、ぜひベンダーから勧められる「最先端の技術」ではなく、あえて古く枯れた技術に注目をしてみてはいかがでしょうか。

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この記事の著者

伊藤 圭史(イトウ ケイジ)

伊藤圭史
Leonis & Co.共同代表

上智大学卒業後、IBMビジネスコンサルティングサービス(現日本IBM)に入社。デジタルマーケティング施策推進、CRMシステム導入など、顧客政策を中心とした戦略・システムプロジェクトに従事。2011年12月にオムニチャネルに特化してシステムとコンサルティングサービスを提供するLeonis & Co.を設立。オムニチャネルの専門家として通信会社や百貨店、電鉄など様々な企業を支援。現在はトランスコスモスグループのオムニチャネル推進支援サービスの中核企業としてオムニチャネルマーケティングシス...

※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です

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MarkeZine(マーケジン)
2014/09/30 13:15 https://markezine.jp/article/detail/20940

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