流通が進化していく
消費の歴史のもうひとつの側面は「流通の進化」です。明治初期の日本、まだモノが豊富でなかった時代、良いものや舶来品を手に入れる方法は極めて限られていました。唯一とも言えるチャネル「百貨店」に憧れを求めて、多くの人が遠方にある数少ない店舗に足を運びました。当時、百貨店各社が在庫をあまり置かず、カタログ購入を促す形式の系列店を地方に展開したのも自然の流れと言えるでしょう(最近よく"在庫のない店舗"が議論に上がりますが、その先鞭は100年以上前からあったようです)。

このように、流通の希少性が高い時代には「何を仕入れて、どこに持っていけるか」で勝負が決まります。いわゆる売り手優位の世界です。その後、時代を経て経済が発展すると、米国流のGMSをモデルに大量・広範な仕入れを武器としたダイエーなどの新業態の登場によって買物の利便性が高まります。消費者の選択肢は増え、新業態の旗手ダイエーは長年王者であり続けた百貨店を抜き去ります。

やがて、普通のモノが行き届くようになると、逆に領域特化で展開する専門店がより細かなニーズに応えるかたちで流通が進化。消費者の購入チャネルは増え、新しいチャネルの登場を待つことになります。
IT革命は「権威の喪失」と「完全競争化」をもたらす
この「消費者の成熟」と「流通の進化」という流れを一気に加速させたのが「IT革命」でした。消費者はネット上に集まった情報やクチコミを読んで、1日で“専門家”となったうえで店舗に向かい、そこでは買わずに帰りの電車の中でAmazonで購入するといった行動も生まれました。消費のモチベーションは買い手側に委ねられ、買う場所はかつてないほど幅広い選択肢から選べるようになったのです。私はこれを「権威の喪失」と「完全競争化」というキーワードで捉えています。
権威の喪失
「権威の喪失」とは、従来の消費の火付け役であった「権威」が、80年代に加速した消費者の成熟の流れによって失われていき、ITがトドメを刺す形で喪失したとを指します。
テレビや雑誌、店頭での接客だけでなく、人々は良くも悪くも「ネット上で正しい」「ネットで話題」とされるものを良しとして消費をするようになります。そして、以前よりも強く「本当の価値」や「コスパ」を求めるようになりました。ファッション誌から流行が生まれづらくなったというのは、こういったことから来る現象と理解することができます。
完全競争化
「完全競争化」というのは買い方の話です。流通は時代と共に進化し、「モノ」とそれを「買う場所」の蜜月関係は徐々に薄れていく傾向にあります。今はインターネット接続が可能であれば、どこにいてもAmazonにアクセスして商品が買える、カカクコムを調べれば一番安い店舗を選ぶことができるようになりました。

いわゆる「地域で一番」では売れなくなり、「日本で一番」あるいは「世界で一番」の会社にならないと勝てない、“Winner Takes All”の色が強くなっていくことがわかります。このような世界では従来の勝ちパターンは通用せず、今まで勝ってきた企業は、あらためてこの環境下での自社の存在価値を再定義しなければ消費者から選ばれない時代になっていくわけです。
私は、オムニチャネルはこのような時代に適応するための「経営戦略」と考えており、コンサルティングプロジェクトをお受けするときは最初に各社は「何のために存在するのか」を討議することから始めています。そういった意味で、一部の側面しか語っていない「オムニチャネル」という語感や、ツール・事例に終始する議論には違和感を覚えるのです。
最後に
さて、当初予定よりも長く担当させていただいた連載は今回で最後になります。「オムニチャネル」という言葉は、本領域に特化したLeonis&Co.を立ち上げた2011年当時では想像もできないくらい大きな注目を浴びるようになりました。反面、使い方が広がりすぎて本質論が理解されづらくなったようにも感じていました。
私なりのオムニチャネル論を語らせていただくことで、少しでも多くの方にオムニチャネルの本質を理解していただき、正しい市場形成につながればと思っていました。今後は、実店舗が大好きな一人のコンサルタントそして経営者として、オムニチャネル時代に適応しようとする各社をご支援できるよう、頑張っていきたいと思っています。ご質問や相談等ございましたらお気兼ねなくLeonis&Co.のウェブサイトよりお気軽にお問合せください。