分析組織立上げ、データ活用の立役者に聞く
個人投資家向けに、資産運用をもっと身近に、もっと楽しく感じられるサービスを展開するフィデリティ証券。1998年の日本マーケット参入以来、400本以上のファンドを取り扱い、投資信託にフォーカスしたオンライン証券会社の草分け的存在として資産運用をサポートしてきた。また、同社は分析組織の立ち上げと運営を実現。SAS Institute Japan(以下、SAS)のマーケティング・ソリューション「SAS(R) Customer Intelligence」を活用しサービス力および企業力の向上を進めている。
その立役者がカスタマー・インサイト&データ・マネジメント部長の江口武氏だ。2013年3月に入社した同氏。前職は航空会社で旅客機の座席を管理するレベニューマネージメントの部門と、データベースマーケティングに主に携わっていた。前職でも現職でも、顧客行動分析の専門チームの立ち上げに関与。社内ネットワークを大切にしながら、順調に組織を発展させている。
データベースマーケティングの領域において、多くの企業が頭を抱える課題が、分析組織の運営や他部署との連携だろう。フィデリティ証券がデータ活用と組織運営に成功している秘訣は何だろうか。SASでコンサルティンググループのマネージャーを務める羽根俊宏氏が、江口氏にその知見を尋ねた。
好みだけでなく、本当のニーズを見極める
羽根:金融業界では技術革新に伴う顧客対応の高度化が注目されています。銀行業界では顧客一人ひとりに最適なご提案をするためのOne to Oneマーケティングが改めて注目されていますし、証券会社では従来型の営業店を起点にした人海戦術から、システムを活用したお客様理解と、それを営業現場で活用する方法が模索されています。このようなトレンドを考えたときに、どのように顧客との関係性を築いていく必要があるとお考えですか。
江口:One to Oneマーケティングへの変遷は時代的に必須といえます。例えば、投資信託ビジネスの世界では販売手数料が無料のファンド(ノーロードファンド)が増えており、手数料収入という大きな収入源が縮小しています。となると、販売手数料に頼らない収益体制への変革が必要です。すると従来型のマスマーケティングは通用しなくなってくる。
加えて投資信託など、元本が保証されていない金融商品を売買する世界においては、私たちもお客様の知識、経験、資金余力を十分に把握したうえで、お客様にとって一番良いと思われる商品をご案内しなければなりません。
羽根:お客様の好みだけではなく、そのお客様の商品に対するリスク許容度を理解する必要があるのは、金融商品のご提案に特有の要件ですよね。一般的な消費財と大きく異なる点だと思います。
江口:そうですね。さらにニーズも刻々と変化するので、把握するのが非常に難しい。今日はこれが欲しいと思っていても明日は違うかもしれないし、今日これが売れているから良さそうといっても、本当にニーズに合うかどうかはわかりません。
米国325社の実態調査から紐解く効果的な「ロイヤリティ・プログラム」
ブランドへの親近感を醸成し、LTVを高めるために多様な業種でロイヤリティ向上の施策が行われています。米国で実施された実態調査からは、効果的な顧客ロイヤリティ・プログラムを持つ企業の共通点と課題が見えてきました。今回、課題と解決のヒント、効果ある施策を打つための5つのポイントをまとめた資料を作成しました。ダウンロードはこちらから。ぜひ、ご覧ください!
サービスや資料のお問い合わせ:jpnsasinfo@sas.com
顧客理解の鍵は「購買行動」と「予兆」の把握
羽根:確かに金融商品はお客様のライフイベント、人生に密接に関わってくるものなので、お客様のライフステージにしたがってニーズは変化していきますし、継続的にそのニーズを捉えていく必要がありますね。
江口:仰る通りです。お客様のニーズや資金力について、一度把握したらおしまいではありません。20代、40代、60代と、ライフステージごとに投資の目的や期待する成果は変わっていきます。変化をいかにとらえるか、いかに予測するかを考えるときに、やはりデータベースマーケティングは役立ちますね。
羽根:お客様の理解やマーケティングを行うにあたって、江口さんご自身はどういった切り口で分析されていますか。
江口:例えば、投資信託をお買い上げいただく方は、比較的年齢が高い方が多いのですが、そういったデモグラフィック属性でセグメントするのではなく、実際のお客様の購買行動を見ていくことが、お客様を理解するために大事なことだと考えています。
さらに、“買おうと思ったけどやめた”といった、お客様の揺らぎは取引のデータからは読み取れません。この購買行動に至らない“予兆”がお客様を理解する際にはとても重要だと考えています。そこで、弊社のサイトにお越しいただいた方の行動の把握だけではなく、そこから次の行動の予兆を見出す分析に着手しています。
また、購買行動には必ず理由があるわけですが、お客様のニーズを正確に把握するには、直接お聞きするしかない。例えば、弊社では顧客満足度調査を実施して、その意見をベースに自分達でできることを考えながらサービスを展開しています。ただ、様々なお声が出てくるので、まとめるのは大変ですね。そのために、テキストマイニングの活用も始めています。
羽根:なるほど。「お客様目線で」を標榜するのは簡単ですが、それを徹底して実践している企業はまだそう多くないのかな、と思います。ただ、データや分析技術を駆使すれば、お客様のニーズを徹底的に理解することができますし、今後の“予兆”を事前に把握することもできます。こういった取組みを行うのは、今は一部の先進企業が中心ですが、分析技術が広まるにつれて、もっと一般的になっていくのでしょうね。
分析は目的ではない、その後に何をするかを意識
羽根:ところで、セグメントという言葉が出てきましたが、顧客セグメンテーションをされる上で、気をつけている点は何でしょうか。
江口:購買行動に関連するデータは、選り好みせずにとにかく沢山集めることですね。また、単純に生のデータを使うだけでは、切れ味の鋭いセグメンテーションはできないので、顧客を分類するための軸の作り方、選び方はいろいろ試行錯誤しています。これが大変ですね。
羽根:業界を問わず、データをクレンジングするための作業量や、そもそも分析を実施する上での経験不足が課題という話をよく伺います。江口さんのデータ分析業務では、データの抽出、加工に時間を割かれている状況でしょうか。
江口:やはり、最初はデータの抽出と加工に7割はかかっていました。ですが、取り組んでいるうちに加工のコツは見えてきますので、時間は短縮されていきます。また、限界もわかってきますね。見切りをつけるまでの時間が早くなってくる。
羽根:確かにデータの加工や分析は、一度はじめるとキリがない世界ともいえます。分析のための分析に陥って、その後のマーケティングや営業のアクションに結びつかないケースもよく見ます。アクションのためのリードタイムを考えて、分析に区切りをつけることはとても重要だと思います。
江口:そうですね。分析において重要なことは、セグメンテーションを作ることではありません。“みんなで何をするかを決めて実行する”ことです。作ったセグメンテーションの内容をプロダクトに関わるメンバーに漏れなく・わかりやすく伝え、そこから何ができるのかをみんなで考えて、一つ一つ実行に移す。ただクラスタリングやセグメンテーションをしただけでは不十分です。そのための時間配分が大切だと考えます。
分析担当者は「相手に寄り添う」意識を持つべし
羽根:江口さんは前職でも現職でも、分析組織を立ち上げてらっしゃいますね。言葉にすると簡単ですが、様々な業種の企業が、その実現を目指して苦労されているところです。江口さんが度々成功されている秘訣は何でしょうか。
江口:まだ私も道半ばなので、最終的に成功したかどうかは評価できません。ですが、私たちの行っている分析が、社内各所で行われている活動の“見える化”に役立っていると感じていますね。
例えばセールス活動では、必要なKPIを明らかにした上でレポーティングを定期的に行い、わかること/わからないことを分析してセールス担当に伝えていくということをしています。そのため分析担当者は、ビジネスを理解して、その主旨に合った分析をすることを徹底しています。
これは難しいことではなくて、相手に寄り添って理解するという意識を持てば良いのです。フロントラインに立っている人と会話をし、自分なりにビジネスを理解しながら、自分の分析の精度を上げていく。ニーズに対する正確さに磨きをかけていくわけです。
羽根:当たり前のようですが、結果を活用する部門のニーズを徹底して理解し、それに沿った分析を継続して行っていくことが、分析部門成功のエッセンスということですね。
米国325社の実態調査から紐解く効果的な「ロイヤリティ・プログラム」
ブランドへの親近感を醸成し、LTVを高めるために多様な業種でロイヤリティ向上の施策が行われています。米国で実施された実態調査からは、効果的な顧客ロイヤリティ・プログラムを持つ企業の共通点と課題が見えてきました。今回、課題と解決のヒント、効果ある施策を打つための5つのポイントをまとめた資料を作成しました。ダウンロードはこちらから。ぜひ、ご覧ください!
サービスや資料のお問い合わせ:jpnsasinfo@sas.com
部署を巻き込むコツは「面白いネタ」の提供
羽根:江口さんの体験では、分析組織のチーミングを含め、いかに現場や関連部署を巻き込むかが重要ということになりますが、そのコツはどのようなものでしょうか。
江口:一言で言えば、面白いネタを提供することです。“どうしてこうなるのかわからない”と、社内の人々が疑問に思っているものが掴み所ですね。そこを分析してみて自分が“あーっ!”と発見したことを伝えると、みんなも“あーっ!”と驚いてくれるものです。そして、原因と結果の関係をわかりやすくデータで説明すると、多くの人がハラ落ちするし、面白がってくれます。このステップを踏むことで、またやろうとか、こうしようとか、フラットに話し合えるようになるわけです。
ポイントは、分析結果が出たらプロットを立ててストーリーをつくって、わかりやすく説明すること。分析担当者は分析結果をまとめただけの資料を渡すのではなく、分析の目的を明確にして全体を説明したうえで、必要なところだけディテールを説明する。何のための分析で、何をすれば、どのような結果が出るのかを伝えることが大切です。
羽根:確かに、金融機関で営業・マーケティングのアクションを実行する際には、関連所管部や営業店などを巻き込むことが必須ですので、ビジネスシナリオや“驚き”を共有して、プロジェクトを盛り上げるというお話はとても納得感がありますね。
分析スキルかプレゼン能力、まずは片方があれば良い
羽根:分析チームのメンバーには、ビジネスを理解し、分析の結果を正しくアクションにつないでいくことも求められますね。しかし、そのようなことができる人材は非常に少ないですよね。
江口:ロジックを組み立てて展開する力は、場数を踏むことで必ず身につきます。最初から分析スキルとプレゼン能力の両方がある人なんていません。まずはどちらかを持っている人を集めて、両方できる人に組織全体で育てるべきだと考えています。
羽根:お客様視点に立つためのデータ活用を実践し、社内においては分析担当者以外の部門メンバーが興味を持てるアプローチをする。江口さんの取り組みは業界を問わず参考になるお話です。最後に今後のお取り組みに対して、弊社に期待される点があれば、お聞かせください。
江口:私は10年来のSASユーザーですが、近年のSAS製品はとても使いやすいものになっていると感じます。さらに他社製品の特徴なども取り込んでいってくれると嬉しいですね(笑)。
また、御社ならば産学を超えたベストプラクティスの共有というサポートが可能だと思っています。データの活用はテキストを買いさえすれば明日からすごいことができる、というわけではありません。なので、同じ境遇の仲間の話を聞いて、自分達はどうするかを考える場を提供してくれるとありがたいです。
SASさんの強みは製品だけではなく、業務やシステム導入のコンサルタントも含め、“人” への信頼感が高い点です。SASの方々は顧客のサポートに使命感を持って対応してくれていると感じます。ですから、今後もこれは継続してほしいと強く思います。
羽根:非常にありがたいお言葉です。江口さんの仰る通り、昔に比べてSASの製品はずいぶん使いやすくなりました(笑)。また、今は各種のソリューションパッケージをご提供しているので、マーケティング・オートメーションやオムニチャネルマーケティングなど、顧客対応の高度化や自動化を実現するシステム構築も支援しています。
実際、分析やこのようなソリューションを活用したベストプラクティスは、産学や業種を超えて、弊社のプライベートイベントやユーザー会で共有されておりますので、積極的にご参加頂ければと思います。最近では業種向け分析勉強会など、業種に特化したナレッジ共有の場などもご提供していますが、このようなナレッジは弊社のコンサルティング部隊にも相当蓄積されております。今後はより積極的にこのナレッジをお客様に還元できるような仕組み作りも検討していきたいと思います。
本日は貴重なお話やご意見を頂き、誠にありがとうございました。
米国325社の実態調査から紐解く効果的な「ロイヤリティ・プログラム」
ブランドへの親近感を醸成し、LTVを高めるために多様な業種でロイヤリティ向上の施策が行われています。米国で実施された実態調査からは、効果的な顧客ロイヤリティ・プログラムを持つ企業の共通点と課題が見えてきました。今回、課題と解決のヒント、効果ある施策を打つための5つのポイントをまとめた資料を作成しました。ダウンロードはこちらから。ぜひ、ご覧ください!
サービスや資料のお問い合わせ:jpnsasinfo@sas.com