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第106号(2024年10月号)
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データ活用の現場を直撃!(AD)

「お客様との長いお付き合い」実現はRFM分析だけでは足りない、ディノス・セシールが取り組む顧客分析

 通信販売大手のディノス・セシール。セシール事業では10種類以上もの通販カタログを展開し、各顧客に適した領域の冊子を配布している。長期的な関係を構築し、継続的な購買を維持するためには、顧客分析が要となる。どのような試行錯誤をしているのか、同社の鳥塚氏と礒野氏に聞いた。

ディノス・セシールに聞く現場のデータ活用

 ディノス・セシールの鳥塚氏は、セシール事業の販促全般を担当する。特に既存顧客のリテンションを大きなミッションとし、同時に新規獲得や休眠顧客の掘り起こしも行っている。同社のメインアプローチはアクティブ顧客へのカタログ送付だが、最適なカタログの送付方法、つまり誰に・複数種類のカタログのうち、どの組み合わせを送ることが最適かを導きだすことが課題だという。

 そのための施策をデータベースマーケティング担当の礒野氏がメインで行っている。具体的には、データウェアハウス(以下、DWH)からの、顧客の性別、年齢、地域、受注明細、カタログ送付履歴などのさまざまな情報に基づき、定期的なものだけで10種類以上もあるというカタログの売り上げ規模にあわせてセグメントを複数作成、稼働率をあげるためのプログラミングや分析を行っている。このPDCAを管理しながらDWHのリプレイス業務や、2011年からはSASを導入したセグメント分析も担当しているという。

 今回、SAS Institute Japanのプリセールスコンサルタントとしてディノス・セシールを担当する内山氏が、同社の顧客分析に対する姿勢や課題、その解決法などを尋ねた。

右から、株式会社ディノス・セシール セシール事業ディビジョン業務推進本部 販売推進部 部長代行 鳥塚勅昭氏、同部販売推進課 磯野秀二郎氏、SAS Institute Japan株式会社 ソリューションコンサルティング第一本部 Customer Intelligenceグループ 内山剛氏
右から、株式会社ディノス・セシール セシール事業ディビジョン
業務推進本部 販売推進部 部長代行 鳥塚勅昭氏
同部 販売推進課 礒野秀二郎氏
SAS Institute Japan株式会社 ソリューションコンサルティング第一本部
Customer Intelligenceグループ 内山剛氏

内山:数年前からビッグデータやデータサイエンスなどのワードが取り上げられることが増えています。しかし、実際は何か大きな仕組みを導入するだけで実現・解決するものではなく、現場での取り組みが非常に重要だと思います。

 ディノス・セシールさんは弊社のマーケティング・ソリューション「SAS(R)Customer Intelligence」のなかでも「SAS(R) Marketing Automation」を中心にご利用いただいていますが、実際にどのような戦略のもと活用されているのか、お二人に具体的なお話を伺いたいと思います。

RFM分析では見えてこない、本当の優良顧客

内山:まずは、顧客分析について御社での位置づけや考え方をお教えいただけますか。

鳥塚:通販、ダイレクトマーケティングは購買履歴などのデータが取れるのが強みです。特に、店舗ではデータを取るのが難しかった時代から、我々はお客様のデータを蓄積していて、それが会社の財産になっています。ですから、ビッグデータといわれる前から、当社はデータの分析・活用をしてきました。その効率を高めるために、様々なツールを試しています。ただ、ツールを使いこなせる人材の育成など課題もあるため、すぐに結果に直結しないこともありますね。

内山:ツールを入れたからといって、すぐに大きな効果が出るわけではない。これは、伝統的に沢山の顧客データをお持ちで、既に多くの分析を重ねられてきたからこそ出てくるお話ですね。その意味で、御社は顧客分析に関してまさに第一線におられるものと思います。これまで、どのような分析の取り組みをされてきたのでしょうか?

鳥塚:当社は総合通販なので、取扱商品はアパレルや生活雑貨、美容、食品、サプリメントなど様々なジャンルがあります。そこで、お客様と複数の商品ジャンルでコミュニケーションを取っていくことを行いました。複数のジャンルでお買い物をしていただくようにすると、休眠化を防ぎ、長くお付き合いできるのです。

内山:RFM※スコアを見て、一番よく来てくれてよく買ってくれる人が優良顧客だ、という観点の話をよく聞きます。ですが御社の場合は、複数ジャンルでの購買に注目することで、優良なお客様を育てていくということですね。

※RFM:Recency(どれだけ最近か)、Frequency(どれだけ頻繁か)、Monetary(どれだけの金額か)の略。顧客の過去の行動について、この3軸で検討して優先順位をつける手法をRFM分析という。

礒野:我々も、過去のRFMを中心に優良顧客を定義していたこともありました。ですが、SASのコンサルタントと分析したところ、長期にわたってお取引が続いているお客様ほど、安定して毎シーズン買ってくださっていて、しかも年間の客単価は格段に高いことがわかったんです。逆に、金額が高くても年間に1度しかお買い物をされない方は休眠化しやすい。ですから、商品をコンスタントに、シーズンごとに買ってくださる方で、いろいろなジャンルの商品を買ってくださる方が一番良いという結論に至りました。

 そこで、顧客育成の施策も、例えばインナーを買ってくださったお客様なら、他のジャンルのカタログでも買っていただく、他のシーズンにも買っていただく、という複数の軸でアプローチすることが大切だと考えています。

内山:なるほど。そうなると、注目する指標も変わりますね。

鳥塚:はい。以前はシンプルに去年1年間での購入金額に応じてランク分けして、お客様を見ていました。しかし、これは必ずしも当社の優良顧客像を表現するには適していません。そこで、SASのコンサルタントさんと議論しながら社内向けの優良顧客の指標を設定しました。

礒野:例えば、10年連続で2万円ずつ購入されるお客様と、昨年入会されたばかりで、10万円のお買い物をされたお客様がおられたとします。これからもお付き合いをしていただけるかという視点で考えた時に、前者の方が将来的に期待ももてるし、安定感もありますよね。事業を続けていくうえではありがたいお客様です。しかし、鳥塚の言うように、年間ご購入額に沿った従来のランク分けではそこが見えない。

内山:確かに例にあげられたケースだと、短期間で見たとき、後者のスコアが高くなってしまいますよね。

礒野:経験上、新規のお客様の場合は、マネタリーよりもむしろリーセンシーやフリクエンシーの方が重要です。そしてさらに、当社にとっての優良顧客が明確にわかるように、複数のジャンルやシーズンをまたがって購入されているかという点を、加味しています。

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複数ジャンルの商品を購入してもらうための工夫とは?

内山:お客様側のニーズ、何が欲しいかといった観点の分析はどのように行っておられますか?

礒野:カタログ送付の際には、過去にお買い上げになったことのあるジャンルのカタログを最優先でお送りしています。我々にとっては、いかに別のジャンルも買っていただくかが大切なので、他のカタログも同梱したり、フォローのはがきをお送りしたりしています。ただ、何回かお送りしても購買行動がなければ、今後も買われない可能性が高いので、時系列で区切っています。そこからさらに、どのような方が買い回りしやすいか、カテゴリごとに商品の関連度分析などをSASで行っています。

 ですが、いくら買い回りをしていただきたいからといって、メインの5ジャンル(アウター、インナー、ライフグッズ、メンズ、コスメ)全カタログを送付するのは、収益的に厳しい。そこで、2013年には各ジャンルの商品をピックアップした総合カタログを作成しました。もともと2ジャンル程度のカタログをお送りする予定だった方に対して、総合カタログをお送りし買い回りを増やすことを目指したわけです。

メインの5ジャンルを含め、様々なカタログが用意されている
メインの5ジャンルを含め、様々なカタログが用意されている

 さらに、1000品中の約50品については値引きして巻頭に載せ、ページ構成も他ジャンルの商品を同じページに掲載する工夫をしました。例えばレディースのインナーを買う方はメンズのインナーも買う傾向が高いという知見があったので、男女のインナーを同じページに載せたりしました。

内山:顧客像としては、おそらく主婦の方で、ご自分のものを買いつつご家族の分も買っていくといったイメージのお客様ですね。

鳥塚:当社のお客様は、9割以上が女性です。まずはお客様ご本人の必要なものをお買い上げいただき、旦那様、お子さん向け、おじいちゃんおばあちゃん向け、というような買い回りができる戦略をとっています。

施策の実施には内部連携が重要、人材育成はじっくりと

内山:分析からここまでの施策に落とし込むには、顧客分析以外の部分でもご苦労があると思いますが、いかがでしょうか。

礒野:そうですね。当社の場合、アウター事業部、インナー事業部、ライフグッズ事業部と、カタログごとの事業部制が敷かれています。そのため、部署間の連携が必要でした。総合カタログに載せる商品にしても、担当部署によっては、売れ筋だから値引きしたくないといった事情もあります。

内山:データを分析して、売り方を導き出すまではシステムでできますが、具体的な施策を実施するため社内各部との調整がとても重要になるのですね。

礒野:新しい媒体を作るわけなので、人手も必要ですね。私どもの部署だと、どうしても商品知識が弱いため、商品の各担当部署の手を借りながら進めています。

内山:分析やマーケティングの体制や人材育成はどうされていますか?

鳥塚:元は1つのマーケティング部隊が、全ての商品ジャンルのマーケティングを行っていたのですが、2015年1月からは組織が変わり、ジャンルごとにマーケティング分析担当が配置されています。

礒野:人材育成については、分析を少しずつ確実に学んでもらっています。これは当社の特徴かもしれませんが、新卒・中途採用にかかわらず、コンピューターになじみの薄い人が多いんです(笑)。服や雑貨を作りたいとか、カタログの誌面を作るのが好き、という人が圧倒的。ですがジョブローテーションなどで、そのような志向の社員も我々の部隊に配属されるわけです。

 ですから、まずはグラフなどのビジュアルを交えて売上等の数値感覚を身につけ、次に過去の購買履歴や年齢などの顧客属性を扱えるようになる。そして、セグメントを作成して施策を実施する。このように段階を経て、顧客分析になじんでいくわけです。

礒野:より高いビジネス成果を生み出すための顧客分析には、ある程度統計的な観点や分析ノウハウが必要ですが、そのための教師が不足しているのが正直なところです。そこはSASのコンサルタントから他社の事例や分析手法を紹介してもらえるので、その中から、我々のビジネスに活用できそうなものを重点的に教えてもらい、施策に展開しています。

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「食品カタログ」と相性の良い顧客は誰?

鳥塚:当社では他のカタログ施策でも、SASを活用しています。

礒野:例えば、インナーカタログ「セシレーヌ」は年間100万人のお客様がいます。一方で、食品カタログ「美味食いしん坊通信」のお客様は2万人です。そこで、2014年の冬に食品ジャンルのお客様を増やすために、チラシよりもページの厚いカタログを配ろうと考えました。その際、どのようなお客様に送付するのが良いのか、過去のチラシ配布の実績データをもとにSASで分析をしました。

内山:まずは過去に食品を購入された方が一番の有力候補ですが、それ以外の送付先をどうするかということですね。

礒野:その通りです。分析してみると、次に相性が良いのは「ビューティ&ヘルス」という、健康食品を掲載しているカタログのお客様でした。サプリメントなどが掲載されているので、食にも関心のある属性なのだと思います。さらに相性がいい人はいないかアソシエーション分析※にかけてみました。

 分析によって多くの属性が見えてきたので、相性が良かったなら10点というようにスコアリングをして、稼働率予測モデルを作成し、カタログを試験的に送付しました。そしてその結果を検証したところ、面白いことに、私の予想と近い稼働率になっていました。施策を実施する際には、点数化して80点以上の人は大丈夫、とすると上司も説得しやすく、自分でもわかりやすい。指標を一次元にすることで意思決定も早かったですね。

※アソシエーション分析:マーケットバスケット分析とも呼ばれる。「商品Aを購入する人は商品Bも買う傾向がある」といったように、2つ以上のアイテムの関連性ルールを探るための手法。

分析の秘訣は「とにかく使う、わからなかったらSASに聞く」

内山:先ほど人材育成の話題で、未経験の方が高度な分析を使いこなせるまでにある程度の期間がいるとのことでしたが、礒野さんご自身はそのために気を付けられたことはありますか?

礒野:とにかくSASを使ってみることですね。そして、わからないことがあれば、SASのコンサルタントの方にどんどん質問したり、要望を伝えたりしています。やはり、最初はどの手法で分析すればいいのか分からないことが多いです。施策で困ったらアドバイスをもらい、また、ツールの使い方が分からない時もその都度教えてもらいました。

使えるデータを増やしていきたい

内山:御社の今後の展望や、SASなどのベンダーに期待することをお教えください。

鳥塚:先ほどお話したように、コンピューターになじみの薄い社員もジョブローテーションでこの部署に配属されてきます。そのような社員も簡単に、できるだけ早く分析に取り組めるよう、より使いやすいものになっていくと嬉しいですね(笑)。

内山:はい、その点は弊社も非常に重要だと考えています。そのために、ツールをより良くするということもそうですが、お客様がツールを使いこなし、結果としてビジネス効果を出すところまで、当社コンサルタントによりご支援させていただくことも重要と感じます。その点は今後さらに強化していきたいですね。

礒野:また、当社としてはウェブとの連携も強化していきたいと考えています。ウェブだと、リアルタイムで多様なデータを取得できます。ですが、実現するためには、そもそものデータ設計からきちんとしたものにする必要があります。Googleなど社外の検索情報も取り入れながら、全体としていかに使えるデータにしていくかが課題だと思っています。

内山:おっしゃる通り、データをどのように揃えるかは非常に重要ですね。お客様がうまく分析に使えるように、我々ベンダーはデータの収集や整備の面でもお手伝いができると思います。ウェブのデータと既存のオフラインのデータを統合することで、新しい観点での分析ができるようになりますが、実際のところは各社なかなか進んでいない領域でもありますね。そうした新しい領域でも、御社のデータ活用を今後ともサポートさせていただければと思います。本日は、様々な知見をお話しくださり、ありがとうございました。

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この記事の著者

東城 ノエル(トウジョウ ノエル)

フリーランスエディター・ライター
出版社での雑誌編集を経て、大手化粧品メーカーで編集ライター&ECサイト立ち上げなどを経験して独立。現在は、Webや雑誌を中心に執筆中。美容、旅行、アート、女性の働き方、子育て関連も守備範囲。

※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です

【AD】本記事の内容は記事掲載開始時点のものです 企画・制作 株式会社翔泳社

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MarkeZine(マーケジン)
2015/10/30 15:07 https://markezine.jp/article/detail/22950