複雑化する顧客行動の把握は関係構築に不可欠
MarkeZine編集部(以下MZ):進みの速いデジタルマーケティング領域では、常にさまざまなホットワードが登場していますが、本記事のテーマである「カスタマージャーニー」は、特に今年の注目を集める概念になっています。
ただ、ホットワードはその定義があいまいであることも多いと思います。ユーザー中心のコンサルティングを続けてこられたビービットでは、まずこのワードの定義をどのように捉えられていますか?
三宅:企業は今、オンライン・オフラインを問わず、さまざまなチャネルで顧客に接触することができます。カスタマージャーニー、訳すると「顧客の旅」ですが、これは言葉の通り、見込み顧客を含めた顧客がどのような接点で体験を重ね、最終的に顧客化して継続的な関係を構築していくかの一連の流れを指すと捉えています。
MZ:なぜ今、この概念が重要視されているのでしょうか?
三宅:まず言えるのは、生活者のデジタルシフトが進んでいることです。複数デバイスの利用が当たり前になり、リテラシーも進んだことで、生活者の行動は複雑化しています。例えば、TVを見ながらスマホで検索と言った「ながら視聴」は当たり前になっているので、このような多様な行動を可視化して、施策を実施しないとビジネス成果が上がりづらいという状況になってきているのは確かです。
幸い、この可視化の部分はテクノロジーの発展によって、特にデジタルマーケティングではかなりできるようになっているので、それもカスタマージャーニーへの注目を後押ししていると思います。
ただ、ここまで顧客の行動が多様化していると、企業も広告やウェブサイトといった様々な施策を実施することになります。しかし、企業がその重要性に気付いていても、各施策で異なる外部パートナーと取り組むことになり、どうしても施策ごとにがコミュニケーションが分断化し、全体を見通した視点で語れなくなってしまう。そういう難しさは現状ではあると思います。
そのカスタマージャーニーは“妄想”ではないか?
MZ:関心を持つ企業は増えているものの、まだ実際にカスタマージャーニー発想をベースにしたマーケティングで成果を上げている企業は多くない印象です。三宅さんから見て、どのようなところに課題があるとお考えですか?
三宅:いちばん問題なのは、事実に基づかず、企業や代理店の想定でカスタマージャーニーを描いてしまっていることです。強い言い方をすれば、残念ながらまったくの“妄想”になってしまっているケースが非常に多いですね。
MZ:妄想、ですか。企業側の都合でカスタマージャーニーを描いてしまった結果、事実ベースのマーケティングにつながっていないケースが多いということでしょうか。
三宅:ええ。例えば、カスタマージャーニーにもとづいて広告施策を実施したと言いながら、まったく顧客起点の発想になっていないのです。実際に顧客行動を調べると99%が想定外というケースもあります。
もちろん、顧客にこういう体験をして欲しいというマーケティング上の意志は大事ですが、一方で冷静にデータを収集・分析して、事実を把握することは絶対に必要です。
ログデータで一人ひとりの行動を把握してからボリュームゾーンを捉える
MZ:三宅さんが言われた本来のカスタマージャーニー発想を実践するとき、何が最初のステップになりますか?
三宅:繰り返しになりますが、まずは実際の顧客行動をファクト(事実)として把握することです。
顧客行動を把握する手法はいくつかありますが、デジタルマーケティングに限ると、ログデータを見ることを推奨しています。なぜならそれが、事実だからです。
とはいえ、当社も長く顧客中心のデジタルマーケティング支援を行っていますが、ログデータだけですべてを解決できるとは思っていないのです。オンラインで取得できるログが、顧客との接点の中でそれなりの割合を占めるような業態の場合は、とても有効ですね。例えば検索行動が頻繁に行われるECや人材ポータル、不動産などです。購買の前に、Webで比較検討をするようなサービスもマッチします。
MZ:なるほど。ただ、具体的に施策を展開する段階では、ある程度のボリュームのターゲットを見出してアプローチする必要がありますよね。
三宅:そうですね。ボリュームを確認する必要がありますが、多くの場合、行う順序が違ってしまっているんです。一人ひとりのユーザーが具体的にどういう行動をとっているのかを把握せずに、ボリュームがあるからという理由だけで行動を捉えようとすると、的を射ない施策になってしまう。
例えば、ECサイトの分析を行う場合を考えてみましょう。「TOPページ」から「商品カテゴリページ」へ行って、「商品詳細ページ」へ行くという行動の割合が多いという分析を出したとしても、何も得るものはありません。なぜなら、ECで商品を購入する当たり前の行動だからです。
このように考えれば、顧客行動を捉えずに分析しても意味がないということはよく分かると思うのですが、とかく最初はボリュームだけで考えがちです。
そうではなく、ログデータで一人ひとりの行動と心理を明らかにした上で、どういうパターンの人が多いのかを見出し、そこに有効な施策を検討するのが正しい道筋です。
「比較したい」心理を踏まえて資料請求を伸ばしたセキュリティ企業
MZ:つい、成果を焦ると顧客を“群れ”で捉えようとしてしまいがちですが、個を捉えるステップがないと意味をなさないわけですね。では、顧客のログデータを元にしたカスタマージャーニーの把握について、具体的な事例を教えていただけますか?
三宅:例えば当社がコンサルティングで携わったあるセキュリティ企業様では、顧客の行動と心理を踏まえてWebサイトのコンテンツを改善し、資料請求が6倍になりました。
個人宅のセキュリティで重要なのは、有事の際にいかに速く駆けつけてくれるか。となると、自宅と最寄りの拠点との距離が近い方がよく、おのずと拠点数が多い企業が安心だということになります。でも、顧客はそう説明されないと分からないので、Web上で比較すると分かりやすい価格だけで選ぶというケースが多かったんです。
MZ:どうやって、説明が必要だと分かったんですか?
三宅:最初は「防犯」などのビッグワードからサイトを訪問し、一度出て行って、数回後には指名検索で流入する人が多いからです。この間に他社サイトを訪れ、同じようにチェックしているのです。これは、生の声を聞くモニター調査からも明らかになりました。
この場合、最初にサイトへ訪問した際に「他社と比較したい」と思うのは心理として当然です。なので、離脱は前提にしながら「大事なのは安全性、その比較軸は拠点数です」と伝えるコンテンツを用意し、またサイトへ来ていただけるように促しました。実は同社は拠点数で群を抜いているので、結果的に再来訪時の資料請求が大きく伸びたわけです。
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「ウェブデータから分かる!カスタマージャーニー可視化のポイントと成功事例」
ユーザ行動や心理を深く分析し、デジタルマーケティングの支援を行うビービットが、データを用いて、カスタマージャーニーを可視化する手法をご紹介します。全12ページ。成功・失敗事例も掲載。
実は企業の信頼性が決め手だった中堅不動産会社
MZ:顧客の心理も、かなり一人ひとりの行動データで可視化することができるんですね。
三宅:そう思います。ただ、先ほどの事例もそうですが、元々ほかの情報源があって最初から指名検索で流入する人や、サイトをほぼ見ずにまず資料請求をする人もかなりいます。なので、個々を見ずに漠然と頻出の行動パターンを捉えようとすると、実はコンバージョンを伸ばす決め手になる心理には気付かないのです。
もうひとつ、ある中堅不動産会社のマンション販売事例をご紹介します。この企業は、当社の効果測定ツール「WebAntenna」を活用し、自社でもログデータを取ってカスタマージャーニーの把握に意欲的でした。ただ、やはり一定の指名検索数があったので、物件ごとの担当者は物件の良さを訴求すれば売れると捉えていました。
MZ:実際には、物件の良さだけでは足りなかった?
三宅:はい。マンション販売では近隣にチラシを配布するので、そういう人は実際にマンションの建物を見て知っていたりするので、指名で検索してすぐに資料請求します。その確率も高い。
一方、本来Webで捉えたい、バナーやリターゲティングから流入する潜在顧客はほとんど離脱していました。ボリュームゾーンとしては指名検索ユーザーなのですが、成果の伸び代はバナーなどから流入するユーザーの方で、そちらに合わせたコミュニケーションの最適化が必要なのです。
そこで、そのような顧客行動を細かくみると、ブランドサイトからコーポレートサイトへ訪れ、会社概要や実績などをじっくり確認している人が一定数いました。同社は中堅の不動産企業で、そこまで知名度が高くなかったので、「どんな会社が建てているんだろう」という企業やブランドへの信頼性が重要だったんです。そこでブランドサイトで信頼性を伝えるコンテンツを強調するようにしました。
事実とマーケター自身の思考を掛け合わせて施策を導く
MZ:ログデータを使って、顧客行動(カスタマージャーニー)を可視化する手法には、どのようなものがありますか?
三宅:例えば、当社の効果測定ツール「WebAntenna」には、コンバージョンした一人ひとりのログデータを一覧にし、いくつかの軸で簡単に行動パターンを集計することができます。初回訪問してすぐにコンバージョンした人や、自然検索で流入した人などの行動パターンの割合を簡単に確認できます。事実とマーケター自身の思考を掛け合わせて施策を検討できるので、有効ですね。
また、当社では顧客の生の行動を知るコンサルティング調査も行っています。例えば自動車に関する調査であれば、本当に購買を検討している人を被験者として集めて、テレビCMを見たなど自動車の情報に接触したときに、スマホを使ってSNSなどでリアルタイムに感想を投稿してもらいます。
そうすると、リアルも含めて、顧客がどのような情報に接触し、どのような心理になったのかということを把握することができます。
MZ:そんな活動もあるのですね。カスタマージャーニー発想において、事実の把握がいかに大切かがよく分かりました。最後に、読者へアドバイスをいただけますか。
三宅:本質的にインパクトが得られるのは、やはり顧客の自然な行動に寄り添った施策だと思います。きちんと把握できれば、カスタマージャーニーに基づくアプローチには大きな可能性があるので、ぜひ現実の顧客を知ることに注力していただけたらと思います。
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