SHOEISHA iD

※旧SEメンバーシップ会員の方は、同じ登録情報(メールアドレス&パスワード)でログインいただけます

MarkeZine Day(マーケジンデイ)は、マーケティング専門メディア「MarkeZine」が主催するイベントです。 「マーケティングの今を網羅する」をコンセプトに、拡張・複雑化している広告・マーケティング領域の最新情報を効率的にキャッチできる場所として企画・運営しています。

直近開催のイベントはこちら!

MarkeZine Day 2025 Retail

クリエイティブを“科学”する動画マーケティング

2015年に最も視聴・シェアされた動画広告から読み解く、大ヒット動画の傾向とポイント

バドワイザーのスーパーボールCM「Lost Dog」

 2つ目はバドワイザーの「Lost Dog」です。シェア数のランキングは約280万件と5位ですが、YouTube上の再生回数ではランキング内3位の約3060万回となっています。

Hook

 この動画の最大のHookポイントは、1つ目の動画と同じ「時事性」と、「事前キャンペーン」です。

 アメリカンフットボールリーグNFLの優勝決定大会であるスーパーボールは、例年テレビで中継される際に年間最高視聴率を記録する程、国民的行事となっています。

 ゆえに、そのCM枠は世界で一番高額な枠と言われ、広告会社とスポンサー企業が全力を掛けてアイデア溢れるCMを展開する場でもあります。従って、元々注目度がとても高く、TVと連動してオンライン動画の視聴も伸びやすい、時事性の高いタイミングなのです。

 ただ、もちろんスーパーボールにぶつければ全ての動画がヒットするわけではありません。バドワイザーは、スーパーボールを迎えるにあたり、Twitterで以下の投稿を行いました。

 #BestBudsのハッシュタグと共に、写真に写った子犬の居場所をつぶやくと、スーパーボールの観戦チケットが当たる、という内容です。

 また、更にバドワイザーブランドの顔として長年位置づけられ、CMにも頻繁に出演してきたクライスデールという種類の馬が、子犬を探しているようなティザー動画の配信も行われました。これらによって、スーパーボールCMへの事前の注目を集めたのです。

Enjoy

 この動画は感動的な内容ですが、視聴者個人の境遇やスタンスと重なる内容というよりは、感動を楽しむ類のものであるという意味で、Enjoyに分類されます。その上でのポイントは、「本物感のある動物」「愛」「辛さ」、かつ「少ない宣伝要素」です。

 御存知の通り動物は世界中で人気の題材で、見ているだけで癒されると感じる人も多いでしょう。しかし、動物ならなんでもよいわけではありません。

 ネットでは特に「本物らしい動物」が重要視されます。オランダの航空会社の事例で、遺失物を持ち主に返却する仕事をする犬、という動画が話題になったことがありました。実際にはこの動画はフェイクなのですが、これは本当に存在すると誤解が広まった事で、動画自体も話題になりました。

 また、ドラマの形式をとった動画では、多くの場合「愛」と「辛さ」の要素が強く入ることも特徴です。バドワイザーの場合はそれが「異種間の強い友情」という愛と、「迷子」という辛さでした。

 辛い経験を、愛情をテコに乗り越えるという普遍的な物語は、それが広告だと分かっていても、人の琴線に触れるわけです。でも、そんなことは当たり前じゃないか、と思われる方もいらっしゃるでしょう。

 そこで最も重要になるのが、「少ない宣伝要素」です。企業が作る動画のほどんどは、ビジネスへの貢献が最終目的です。そのため、どうしても動画内に商品を出したい、商品について説明したい、という要求が出てきます。

 バドワイザーの動画で言えば、主人公の男性が犬を失った後、パブでビールをあおっているシーンを入れたい、といった話が出てくるわけです。しかし、そういった内容を盛り込んでいると、本題の物語が次第に宣伝臭くなっていき、視聴者の視点からすると、シェアしにくいものになってしまいます。

 バドワイザーは、動画の内容を「BestBuds(親友)」という言葉と、バドワイザーの”Bud”を掛けた友情ストーリーに設定し、看板キャラであるクライスデール馬を主役級に据えて、バドワイザーのブランドを想起させる外堀を組みましたが、その代わりに「友情の物語」自体に商品、ブランドの宣伝を入れることはしませんでした(実は主人公の男性の帽子にちらっとバドワイザーのマークが入っていますが、大半の人は気づかないでしょう)。

 ぐっと宣伝したい欲求を抑えて、コンテンツに倒すこと。これが施策の成否を決める重大な境界線です。

Show

 バドワイザーは、動画の内容を見た人々の間で、更に話題になるような仕掛けも行っています。動画公開後、バドワイザー公式のTwitterで、以下の様な意味不明な投稿が行われました。

 実は、この動画は例の子犬が勝手に書き込んだのだ、ということにしたのです。その後も子犬による書き込みを複数仕掛けることで、動画を視聴し、ファンになった人たちに「コミュニケーションのネタ」を提供したわけです。

コンテンツイズキングの潮流

 以上2つの事例をリバースエンジニアリングするとネット上で広く話題になり、エンゲージメントが生じる動画で重要なのは、「いかに限界までコンテンツに寄せた広告を作るか」という点だと分かります。

 インターネット上は、視聴者の反応がダイレクトに可視化されるがゆえに、人気のあるものと無いものの差が明確に出る、民主的でシビアな世界です。

 アメリカでは、このトレンドを「Content is King」と呼んだりしますが、メディアが視聴者に直接リーチできる経路が減り、Facebook等のプラットフォームが台頭する中で、コンテンツの内容こそが問われるという状況は、中長期的に不可逆的な流れです。

 2016年は、これまでより一歩踏み込んで、コンテンツに近づけた広告に挑戦してみてはいかがでしょうか。さて、次回はこれまでの議論を振り返りつつ、動画の使い方と購買ファネルの関係、動画の種類別KPIについてお話します。 お楽しみに。

この記事は参考になりましたか?

  • Facebook
  • X
  • Pocket
  • note
クリエイティブを“科学”する動画マーケティング連載記事一覧

もっと読む

この記事の著者

小野 敬明(オノ タカアキ)

外資系コンサルティングファームにて戦略コンサルティングに従事した後、2014年に企業のデジタル動画マーケティングを支援する株式会社Viibarに参画。自社のマーケティング活動を統括すると共に、動画を活用したマーケティング戦略や、データを基にした動画の企画・制作メソッドの開発を行う。

※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です

この記事は参考になりましたか?

この記事をシェア

MarkeZine(マーケジン)
2016/01/18 08:00 https://markezine.jp/article/detail/23692

Special Contents

PR

Job Board

PR

おすすめ

イベント

新規会員登録無料のご案内

  • ・全ての過去記事が閲覧できます
  • ・会員限定メルマガを受信できます

メールバックナンバー

アクセスランキング

アクセスランキング